外伝:ロケテスト編(その2)
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西暦2018年1月下旬、草加市で行われていたパフォーマンス、それは新型と言えるかどうかも分からないARガジェットによる物だった。
ガジェットを装着した人物は、指定されたコースを走り、道路上に出現した音符をARガジェットで踏み、演奏していたのである。
場所によっては壁に出現する事もあり、そこは腕のガジェットで触れる事で音が鳴るという形式だった。
たったこれだけの単純な動作だけのパフォーマンスのはずが、次第に足を止めるギャラリーが増え始め、気が付くと100人単位のギャラリーがこの人物の演奏を見守っていた。
しかし、この様子をネットで中継しようと考えたある男性がスマートフォンを向けたのだが、そこには何も録画されていなかったのである。
厳密には景色のみを録画しており、目の前の人物は映し出されていなかったのだ。
これに関しては諸説あるのだが――あのパフォーマーがアバターだという説は考えられない。
別のARゲームであればアバターがプレイヤーの代理をする事もあるのかもしれないが、そこまでARゲームが進歩しているとも考えにくいのが現状だ。
「目の前にいるはずなのに――どうして、録画できない?」
様子を中継しようとした男性は疑問に思う。しかし、撮影が出来ないという事は――最高機密と言う可能性も否定できない。
実際、ARゲームの中には虚構とリアルの区別が付かないほどの体感ゲームも存在し、そうしたゲームに関して規制を求める事も少なくはないのである。
しかし、こうした状況を考えて一部のNGO団体等がARゲームに関する講習会を行ったり、別のARゲームエリアではライセンスというシステムを導入し始めている事も――。
ライセンスに関してはランニングガジェット等の特殊な物で必須となっており、ライセンス未所持はバイクの無免許運転と同じ判定を受ける。
謎のARゲームパフォーマーの話題は瞬時にトレンドワードに乗ると思われたが、機密保持等の関係でトレンドには載らなかった。
「似たようなARゲームはあったかもしれない。しかし、両腕に両足にガジェットを装備するタイプは――」
その様子を見ていたのはグレー系の背広にネクタイなし、黒髪のショートカットと言う男性である。提督服を着ている訳ではないので、提督と言う訳ではないのだが――。
彼はゲームサイトの記者であり、遊戯都市奏歌に足を運んだのも取材という名目があった。
「ブースターユニット装着型の物は見覚えがある。それを簡易化した物と言うには、根本的に違う」
彼はタブレット端末にレポートを入力する。手慣れたタイピングで文字を次々と打ち込んでいき、簡単な走り書きで5分弱の速さで書き終わった。
午後2時頃、草加駅近くのゲームセンターに足を運ぼうとした一人の女性が、入口付近の大型センターモニターに何かが表示され――足を止める。
「ARパルクール――そう言うジャンルもあるのね」
身長175センチ、金髪の隻眼、スリムな体形、改造軍服に軍帽、やはり周囲は彼女に近寄る事を避けているようだ。
「何もかもがむなしいと思っていた。自分のARゲーム環境には――チート勢等しか集まってこなかった」
彼女は悔しがっていた。あまりにもチート等の違法行為で勝とうと言うプレイヤーが後を絶たず、遂にはサービスを休止に追い込んだARゲームもゼロではない。
そう言った事情もあり、彼女の事を厄病神とネット上で炎上させようと言う人物もいるだろう。
しかし、彼女はそれさえも凌駕し、アフィリエイトや有名になりたいと言う名目で関われば、確実につぶやきサイトのアカウントが凍結――最悪でネット炎上禁止を地域条例で定めていれば、逮捕は避けられないほどだ。
「これならば――チート勢が集まる可能性も少ないだろう。参加できればの話だが」
彼女の名はビスマルク、後に姿を見せるであろう鉄血のビスマルクとは似た名前を持っているのだが――別人と言っても過言ではない。