ある法案を巡って
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西暦2017年9月末、あるつぶやきがネット上で話題となっていた。
【あの漫画が実写化するらしい。しかも、あの活動休止中のアイドルグループのメンバーが主演らしい】
【どう考えても、活動休止中のつなぎで利用する気だ】
【これは超有名アイドル規制法案の対象じゃないのか?】
【どう考えても、これは炎上商法に間違いない。炎上商法禁止法案の対象が正しいだろう】
【それに、超有名アイドル規制法案の方は中止になっている】
【規制法案が審議のやり直しを支持されたのは知っているが、その後のニュースは全くなかった。中止と言うのはデマじゃないのか?】
【大きく取り上げなかったのは、超有名アイドルの芸能事務所から大量の賄賂を受け取ったという噂がある】
【どういう事だ?】
【ニュースとして大きく取り上げないことを条件に、何かの支援を受けたのだろう】
このつぶやきまとめは瞬時に拡散し、該当作品の不買運動につながった。
こうした不買運動や炎上商法等を禁止する法案、これに関しては『定義が曖昧すぎる』や『芸能事務所サイドに悪用される』と言う理由で、こちらも審議やり直しとなった。
【結局、悲劇は繰り返されるのか――自分達のアイドルを売り出す為だけに実写化という安易な商法を選ぶ】
【実写化であれば、夢小説勢も手を出せません。実在人物で存命の芸能人の夢小説は禁止している所が多いので――】
【こうした勢力を締め出す為にも、どんどん実写化をすれば――自然と夢小説勢は絶滅するでしょう】
【そうすれば、超有名アイドル投資家も増加し、日本経済は安泰となる】
こちらもまとめサイト由来の有名コピペだが――安易に炎上させようと言う意図が感じ取られる内容であり、どう考えても不自然な個所も残る。
同年11月、まとめサイト勢を取り締まる為にアキバガーディアンを初めとした勢力が立ち上がった。
アキバガーディアンの行動は非常に速く、既に数か月前には事前に情報を収集していた事実もあるのだが、その真相は不明である。
「なるほど――これは放置できない案件か」
ガーディアンの集めたデータをタブレット端末で見つめているのは、独特な改造着物に巻物型のタブレット端末、履物は何故か陸上用スニーカーという男性である。
黒髪のショートヘアに何故か目の色は蒼という違和感を持つ外見だが――これでも箱根では山の神と呼ばれていた程の実力者だ。
彼のチェックしているデータは他の班にもデータとして配布済みであり、目的地などの記載もはっきりと書かれている。
そのエリアはアキバガーディアンの本部がある秋葉原から若干広めの地域、西日暮里や田端、北千住等も対象に入っている様に思われるが――。
「柏原、これをどうする気なの?」
着物の男性に対し柏原と呼ぶ女性、彼女は提督服を着ている事から別勢力から派遣されたメンバーだろうか。
体格は一般女性と変わらない為、提督服以外は地味という単語が似合うかもしれない。
彼女が柏原に見せている物、それは特定のアイドルグループの夢小説を配布しているイベント会場のリストである。紙媒体ではなく、こちらもタブレット端末にまとめられた電子的な物だが。
「このような実在人物――それも彼らの今後を左右してしまう様な本は、存在するべきではないと」
この発言は本気なのか? 女性提督はその後も柏原に対して思いとどまるように言うのだが、それでも作戦に変更はないらしい。
「今回の目的は、コンテンツを無暗に炎上させ、超有名アイドルを神コンテンツにしようと言う勢力をあぶり出すことだ。コンテンツ正常化の為とはいえ、無差別テロまがいの様な事まではしない」
彼の名は柏原隼鷹、アキバガーディアンの設立者とも言える。ただし、彼が単独で設立した訳ではなく、もう一人の協力者がいる。彼女の名は出雲と言うらしい。
「それに、君がこちらに協力しているのには理由がある。違うかな、神埼ハル――」
柏原は目の前の女性提督の正体に気付いていた。彼女の名は神埼ハル、ARサバゲ―等では無類の強さを誇っている。
しかし、今はARサバゲ―は稀にしかプレイしていない。その理由として、彼女と対等に渡り合える人物がいなかったというのがネット上で言われている噂だ、
「そこまで知っている以上、あえて私がアキバガーディアンに協力している理由は――」
「聞く必要性はないだろう。超有名アイドルを神コンテンツにする為であれば、容赦なく斬るが」
神埼の問いに対し、柏原は事情を把握済みの様な発言をする。どうやら、それを百も承知で彼女を泳がせていた可能性もある。
その1週間後、本格的な作戦は実行され、肖像権侵害に当たる夢小説を発行していた団体は逮捕された。しかし、夢小説に関するニュースは報道されていない。
その理由として、アイドルの所属している芸能事務所がブランドイメージに傷が付くと言う事で報道を制限したという可能性もネット上では言われている。
「やってくれるな――芸能事務所も」
北千住にあるサバイバーの運営本部、きちんと整頓されたようなサーバー室で極秘資料をチェックしている女性提督がいる。
身長176センチ位、ツインテールの髪型に提督服――しかし、その服は特殊仕様である――バッヂもワンオフの物を付けていた。
「表立って動けないのが、逆に仇となったか」
彼女の名はヴェールヌイ。過去にはガレス提督や偽名を使って敵勢力へ潜入した事もあった。
しかし、自分の名前も顔も表に出てしまった事で、迂闊に動けばまとめサイト勢の思う壺でもある。
「我々としても無暗にコンテンツ不信を招くような――超有名アイドル無双を招く事態は避けなくてはいけない」
彼女は過去に超有名アイドルのグループにいた事がある。そして、ARゲームを使って復讐する事を思いついた。それがサバイバー事件のきっかけでもある。
しかし、現在はこの辺りの事実も知っている人物が限られているのが現状だ。どうやら、芸能事務所としてもヴェールヌイの本名が表に出されると困る事情があるらしい。
実際に彼女のファンも根強く存在する事が芸能事務所としても都合が悪いらしく――。
その後、アキバガーディアン及びサバイバー運営は超有名アイドルを神コンテンツにしようと言う勢力を『削る事に成功』した。
実際にはアイドル投資家の一部はダミーである事が判明し、今回も黒幕を取り押さえる事は実現しなかったという。
後に、一部勢力やアイドル投資家、そうした悪目立ちを助長するようなネットまとめサイト勢が姿を見せるのは、これよりも後の話になる。