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6-2話

「全員いけ! 奴も疲労するときがくるはずだ! そこを叩きのめせ!」


 命令され、武器を構えてゾンビ軍団は目標へ向かう。彼らは命令通り自分以外の全てが殺されても、必ず主の言うことを成し遂げるであろう。


 呪眼使いは体勢を低く構えた。


「そうだろうね。ぼくでもこの数はさすがに1人じゃ無理だ。だけど――」


 前方から来たゾンビへ剣を当てた。ゾンビはその場で倒れず、味方を巻き込みながら水平に吹っ飛んでいった。

ゾンビの幕に穴が出来上がる。


「そんな必要ない。ぼくの狙いはあなただ」


 穴へ入り、そこから前へ突き進んでいく。横からの攻撃は掻い潜り、後方からは追いつくことさえ出来ない。絶え間なく前方に現れるゾンビを吹っ飛ばし、呪眼使いは軍団を突破した。


もう邪魔はいない。後は魔王とフェアリー一匹のみだ。

 

「ど、どうしましょう!? 魔王さま!」

「予想通りだ! 手筈通りにいくぞ!」

「はい!」


 ゼラフは羽を広げる。そこに血がかかった。

 すると羽は大きくなり、形を長く尖ったものへ変貌させた。速度特化の進化だ。


「いくぞ!」


 掛け声とともに佐藤を引っ張り上げ、ゼラフは飛行を開始する。巨大な羽は以前よりも力強く羽ばたく。


「早いね」


 ゾンビ軍団から出て来た辺りの呪眼使いが言う。


 自分が乗ってきたものでは比較にすらならず、王都で最高級品とされる馬でやっと競争できるくらいだった。おそらく惨敗だ。

 

「けどね。ぼくはそのさらに上だ」


 邪魔だてが無くなった呪眼使いは本気を出した。

 ゼラフの速度を超え、距離を詰めていく。


「わあ! わあ! 魔王さまどうしましょう!?」

「お前は飛行に専念してろ。俺がどうにかする……いいか? 一瞬たりともこっちへ気を使うなよ。そんなことしたから堕悪魔呼びどころか殺すからな」

「は、はい! 分かりました!」


 後ろへ振り向くことをやめて、進むことに全力を尽くすゼラフ。緊張が無くなってはいなかったが、先程よりも速くなっていた。


 それでも近づいてくる呪眼使い。余裕のあらわれなのか、声をかけてきた。


「やあ魔王。追いかけっこは楽しいかい?」

「ああ楽しいね。そちらが止まってくれるとさらに楽しいよ」

「それは出来ないかな」

「そうか。なら無理にでもそうさせてやるよ」


 佐藤は空いている左手を突きだした。そこにはゾンビ軍団を使役しているときには見なかった籠手が装着されていた。

 

 呟きが口元からした。


「石に宿りし双光の精霊よ。供物を捧げる時間は終わった。汝、我が願いに応えるとき。その金色の髪から力を放て」


 無色だった籠手の上部についていた宝石が赤くなった。


 呪眼使いが腕を前に構えると、そこに撒き散らされた火花のようなものがぶつかった。


「聖気か。これは」

「正解だ。贋造魔王具その一、『レイシステム』。昼に太陽に当てておくと、その間に聖気が溜まる」

 

 レイシステムからあの火花が出てきた。火花は小さいが、散らばる範囲は広い。呪眼使いは避ける隙間なく浴びせられていく。


「はっはっは。どうだ!」

「自分の力不足を担ういいアイディアだと思うよ。けどね」


 呪眼使いは腕を元に戻した。顔面に直撃するも気にせず迫ってくる。


「聖気は人間に効果が薄い。常識のはずなのに、頭悪いね」

「くっ」


 今まで温存していたのか、火花の量が多くなった。呪眼使いは爪1枚残す暇なく全身に直撃をもらう。

 

 それでも彼は減速をしなかった。

 

剣が構えられる。そろそろ射程範囲ということだろう。

それを察知してか、火花の勢いが増した。


「無駄だよ。それだけじゃぼくは止まらない」

「――止まる!」

「何!?」


 レイシステムの台座が回った。宝石がまた無力のものへと戻る。


「銀の髪色へ染まれ!」


 宝石が青白く輝いた。そこから一筋の光線が撃たれる。


「これは――魔力!?」


 光線は先程までの火花と明らかに勢いが違う。顔面を通り過ぎ、しばらく続いた。


 光が消えると、そこには刃を目の前にした呪眼使いがいた。


「はあはあ。危なかった。あと一歩遅れていたら、倒されていたよ」


 聖気は人間に弱く、悪魔に強い。だが逆に魔力は悪魔に弱く、人間に強かった。


 止まってしまった呪眼使いは前方に目を向けるが、魔王の姿を確認できない。左右に目を向けると。


「いた。だいぶ離されちゃったな。また近づき直しか」


 呪眼使いは走りを再開させた。


また距離を縮ませながらしばらく追いかけっこを続けていると、前のほうで変化が起きた。


「疲れたみたいだね」


 ゼラフが倒れた。佐藤を持ち上げようとするがもう無理らしい。

 佐藤は一言二言責めた後、ゼラフを置いて、茂みへ身を隠した。

  

 追いついた呪眼使いは、ゼラフの前まで歩いた。


「ひぃっ」

「……」


一瞬だけ目線を送ると、通り過ぎて、すぐに佐藤のほうへ向かった。


(あのフェアリーは後でいいや。優先するのは魔王のほうだ)


 呪眼使いも同様に、茂みへ入った。


「……いた」


 茂みの奥はさらに木々が繁殖していて、草が地面を覆い尽くしていた。


 佐藤はその先にいた。入ってきた呪眼使いへ気付いたようだ。


「来るな!」


 レイシステムからまたあの光線を撃ちだした。


「ネタが分かれば」


 呪眼使いは光線を断ち切った。2発、3発と撃たれるが予備動作を見切ったのか躱していく。


「くそったれ!」

「逃がさないよ」


 振り返って足を動かそうとする佐藤へ、呪眼使いは短刀を投げた。

 

 太ももを貫通し、草の上で転がる佐藤。


「いたぁぁぁ……」

「あなたはもっと多くの人を傷つけて、それ以上の苦しみを与えたんだよ。分かってる?」

「つぅぅぅ……それが、どうした? そんなこと当たり前だろ」

「そうかい」

「うぐ」

 

 さらにもう一本、別の足に短刀は刺さった。


 本気で苦しんでいる佐藤を見て、呪眼使いが質問の真意を口に出した。

 

「いや今まで聞いてみたかったんだよ。魔王はどんな思いで魔界を創ったのかって。そのうえさらに同じ人間ときた。ならどんな気持ちで悪魔の味方をして、人間を滅ぼそうとしているのかなって」

「そうか。なら俺にそれを喋らせたければ、もっと苦しめてみろ。これぐらいじゃマッサージだ、気持ちよすぎて眠ってしまう」

「だろうね」


 呪眼使いは鞘を外すと、上から頭を殴りつけた。跳ねあがったところをそのまま横から蹴りつける。


「はあ……はあ……」

「何でこんなことするか分かる?」

「いじめられっ子っていうのは、いじめる側になると過激になるらしいな――ぐごっ」


 みぞおちに鞘ごと長剣が叩きこまれた。

 カエルのように喘ぐ佐藤を見下ろしながら、呪眼使いは膝を曲げた。


「もういいよ。けど借りはきっちりと返させてもらうよ」

 

 呪眼使いはコンタクトを取ろうと、目に手を置いた。

 そのとき、強烈な異臭がした。


 暴れる呪眼使いを見下ろし返して佐藤は告げる。


「はっはっは。さんざん馬鹿にすれば取りに来ると思ったよ!」


 マントから取り出した袋を抱え、佐藤は逃げようとする。


「だまれぇえええええ!」

「ぐうぉおおお!」


 肩を斬り、そのまま木の刺さる剣。

 それを抜いて、しばらく奥で木を背にしている佐藤を見つける。


「もう終わりにする」

「そうだな」

 

 振り上げる長剣。後は体へ向かってそれを降ろすだけだった。


「――これでお前は終わりだ」

「え? ぐはぁあああああああ!」

 

 気付くと抉られている肩の肉。呪眼使いはあまりの痛みに絶叫する。


 噴き出す血を抑えながら自分に傷を与えた敵を探す。


 そいつは――そいつらは背後にいた。


「な、何だよ。何なんだよ!?」

 

 割れた木。塵になった木。牙へ変化した木。紫色の葉。刃のような葉。燃えている葉。金属の質感の弦。闇の弦。赤く濡れている弦


 その他様々な植物がそこにあった。

 

 背後から佐藤の声が聞こえる。


「百獣の森。新たな植物系の悪魔を生み出そうと研究したら生まれてしまったものだ。その性質は獰猛で領域に入った獲物は誰であろうと逃がさない。創造主である俺でさえもだ。最終的には手なずけることを諦めて放置してしまった」

「どけ!」

 

 剣を振るう。いくつかの植物は切れたが、紫の葉に触れると刀身が溶けてしまった。


「くっ! だがその説明ではあんたも危険だぞ」

「ああ。俺は大丈夫。これがあるから」


 袋の中身を頭に被る。液体が肌に沁みつき、皮膚へと消えていった。


 呪眼使いを避け、植物の群れへと足を踏み入れる。


 鉄より硬い鉱物すら喰らう悪魔。だが不思議と、佐藤には手を出さなかった。


「嗅覚特化の進化。こいつらは今激臭に弱い」


 佐藤が暴力を受けながらも奥に逃げ続けたのは血を撒くためだった。


 呪眼使いは足元に捨てられた袋を拾うが、中身はなかった。

 

「ちくしょぉおおお!」


 徐々に喰われていく肉体。避けようとするも縦横無尽に囲まれていることで、避けた先で食われてしまう。


 目の攻撃を躱したところで気付いた。


「そうか。こいつらになら――止まれ!」


 呪眼が発動した。

 対策をしていたゾンビたちと違い、植物には視覚があったのかそれぞれ動かなくなった。


「よし。これで」


 しかし次の瞬間、見たこともない植物が腹を貫いた


「な、ぜ」

「百獣の森。こいつらの面倒くさいところは自ら遺伝子を組み合わせ、新たな植物を生み出すことだ。おそらく呪眼を受けて、その対策をした植物に急成長する細胞を組み合わせて生み出したのだろう。これのせいでどんな手段を取っても言うことを聞きやしない……俺みたいに攻撃性の薄いものも処理は遅いがいずれ対策は取られてしまうからな。そろそろ逃がさせてもらうよ……ばいばい」


 闇の中へと佐藤は消えていった。

 

 腹に埋まった蔦はウネウネと動き出す。内臓から別の内臓へ入り込み、ヤスリのようになった部分で中から擦りだす。


「――」


 言葉にならない悲鳴が喉から出た。その空いた口へ花が入った。

花からからはタンポポの種のようなものが飛んだ。種は歯へへばり付くと、白い部分を溶かし中へと入り込んでいった。


視覚を失った代わりに新たな力を得た植物が生まれていく。その中心にいる呪眼使いの頭には、2人の少年がいた。


「ねえ、なんでぼくを助けてくれたの?」

「おまえ困ってたじゃん」

「ねえ、なんでぼくと遊んでくれるの?」

「他にすることないから」


「ねえ、こんな目のぼくと本当に一緒にいてくれるの?」


「うん。オレ、好きだから。おまえのこと」




「ぐわぁああああああああぁああああああああ!」

 

 大粒の涙を流す呪眼使い。呪いの眼が血で真っ赤に染まる。


「来るなぁあああ! 勇者ぁあああ! あいつは闇だ。触れてはならなかった闇だ! 関われば人生が終ってしまう! ぼく、アッサムにだけは、おまえにだけはそんなことになってほしくないよぉおおお!」


 誰もいない森で叫びは木霊した。


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