13.魔術の追加仮説
ほとんど幕間。すみません、設定説明だけで話進みません。
「僕には魔術の才能がなかったのか」
エリアスはうちひしがれていた。
魔術の入門書が届いたので、隅から隅まで読み通し、載っていた全ての魔術を試したエリアスは、自分には魔術の才能がない、という結論に至った。
本の説明によると、魔術の効果範囲は個人によって異なり、一般的には数十センチから数メートル、特別な才能のある人間や、種族的に魔術に長けたエルフなどは数十メートルに及ぶこともあるという。エリアスの効果範囲は三〇センチほどだった。
魔術の威力についても、個人の才能によるところが大きく、同じ魔術でも使用者によって変わるとのことだった。
本には、【爆発】という魔術が載っていて、「遮蔽物に隠れて安全なところで使用しましょう」との注意書きがあった。いかにもゲームの魔法っぽい魔術に、エリアスはわくわくしながら使用してみたのだが、パーンと破裂音を立てて小さな炸裂が起きただけだった。強力な爆竹といったレベルである。エリアスの魔術の射程距離は三〇センチであることを忘れて使ったので、指先で起きた小爆発で軽くやけどを負ってしまったが、大した怪我もしなかった。もし期待通りの爆発が起きていたら無事ではなかっただろう。
他にも持続時間についても、個人の才能によるところが大きいのだという。エリアスの魔術は持続時間に問題があることがわかっている。
射程距離、威力、持続時間、どれをとっても才能がないと判断せざるを得なかった。これらは訓練によって多少の成長は見込めるが、これまでの例では才能によるところが大きく、先天的に決まると明記されていた。
しかし、【魔素】を視る感覚という点では優れているようだった。普通の人間には【魔素】はなんとなくそこにあるという感覚で、【魔素】の流れを細かく見たり、生物を探知したりというレベルで視える人間はほとんどいないとのことだった。感覚の鋭い一部の獣人や、【魔素】を操ることに長けたエルフにはこのような感覚を持っている者が稀にいるとのことだが、人間でそこまで鋭い感覚を持っている者は、まずいないとの説明だった。
「魔術行使の才能はあまりないようですが、魔術を解明していくためには【魔素】がよく視えるというのは有利と考えよう」
自分の魔術の才のなさが発覚して、多少の失望があったものの、エリアスは頭を切り換えた。ないものを嘆いていても仕方がない。
本には、すでにに知っている基本魔術の他、さきほどの【爆発】、氷を呼び出す【氷塊】、土の壁を発生させる【土壁】など、派手な魔術を筆頭に、20ほどの魔術とそれを発生させる【魔素】の制御方法が載っていた。
それぞれの魔術には、風の系統とか、火と風の複合魔術であるといった、火水土風の四元素論に基づいた分類が記してあった。
しかし、エリアスはこの分類には納得いかなかった。エリアスの知っている知識では、燃焼は酸化反応であるし、その他の現象もなんらかの分子の結合分離にともなう化学反応であるはずだった。
実際、エリアスは簡単な化学実験を行ってみた。瓶の中でろうそくを燃やして蓋をすると炎は消えたし、塩をしみこませた布を燃やしたら黄色の炎色反応が出た。この世界でも化学の法則は有効であると思えた。
そこでエリアスは、本に載っている魔術の分類を独自に行った。
【点火】や【爆発】は明らかに何かの可燃物が燃えていると思えた。【水雫】や【氷塊】は水が発生している。これらは、空間から何か物質が湧き出てきて、それに対して温度操作が行われていると考えられた。空気の屈折率を変えるのは空気の温度を上げているのだろう。
これらの魔術は、以前思いついたワームホール仮説で説明できた。【魔素】の作用により、空間に穴が開き、そこからエネルギーや物質がわき出しているという仮説である。
しかし、これだけでは説明できない現象がいくつかある。【石礫】は呼び出した石が前に飛んでいくし、【遠視】の魔法は高屈折率の空気をレンズ状に整形している。なんらかの力場が働いていると考えられた。
これをどう説明すべきか少し悩んだが、【魔素】によって空間が歪むというワームホール仮説の根底仮説を使用することにした。空間が歪めば力場が発生する。この力場が【魔素】による空間の歪みから発生していると考えれば、ワームホール仮説との整合が取れる。
これらのことから、エリアスは、魔術を、温度を増減させるもの、何かが湧き出てくるもの、何らかの力が発生しているもの、この三つに分類した。また、それら現象全ては【魔素】の作用によって空間が歪むことによって発生していると考えた。
「現時点ではこの仮説でいきましょう。おいおい【魔素】を観察して実証データを取っていこう」
こうしてエリアスは、全体を一元的に説明できる仮説を立てたのだった。
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