震える指先を、抑えつつ。
姉のほおずきを掘り返す。庭に、植え替えるために。
ほんのり色付き始めたほおずきの実が、緑の中、鮮やかさを添えている。触れるたび大きく揺れる枝。頼りなく、逞しく。
うっすらとかいた汗を拭い、空を見上げた。遠くそびえる入道雲。夏の到来は間近に迫り。
ほう、と息を吐き出した。湿った空気に、夏を見出す。休めていた手を動かし、庭の一角に穴を掘る。
何も植わっていなかったこの場所ならば、連鎖障害がおこることはないだろう。素人なので根付かない可能性はあるが、それはそれで仕方がない。
「これで良い?」
庭から姉の部屋を見上げ、問い掛ける。
「うん、ありがと。ここから良く見えるよ」
気付かれないよう捩じ切ったそれは、ズボンのポケットにしまい込んだ。意味があるかは判らない。けれど、何もしないよりも良いと信じている。
「ありがとねぇ、智樹」
「別に良いよ。テストも終わったし」
俺の抱くこの感情は、恋なのだろうか。それにしてはあまりに醜く、悪意すら孕んでいるようで。
「だけどせっかくの金曜なのに、あたしの手伝いさせちゃってさぁ。本当は遊びに行く用事でもあったんじゃないの?」
いや。それらは全て、嫉妬心のなせる技なのだ。
「気にすんなって。どうせ学校の友達は予備校とかあるし」
菜摘と過ごす時間の方が、俺にとって大切だから。口にせず、噛みしめた。
「そうなの? なら良いんだけどぉ」
二階を見上げると、姉が嬉しそうに笑っている姿が見えた。陽光に照らされ、栗色の髪が艶めいている。釣られ、俺も微笑んだ。
穏やかな時間。僅かしかない、幸せな。
ズボンに付いた土を払い、立ち上がる。眩しい太陽が、明日に迫る夏の到来を予感させた。夏の到来、ほおずきの赤。姉に対する未練や嫉妬は、全て断ち切らなければならない。
ポケットの中で眠る地下茎。服の上から確かめて、俺は少し、息を吐く。安堵と不安。焦燥感。口元の引き攣りを、意識の外に追いやって。
「そういうもんだって」
誤魔化すよう、わざとらしいまでの笑顔を作った。




