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6.王子様と王様

書いていて文章力が皆無だと自覚した。文章力がほしい。


これから一人称と三人称が混ざることがあるのでご容赦下さい。次は最強ものらしい戦闘シーンです。文章力をあげるために期間が空くかも。

初めて入った宮殿はまさに『豪華』という言葉が相応しい場所だった。


金ピカに輝いている壁・見るからに超一流の品だとわかる家具や絵・チリひとつない綺麗に磨かれた廊下・そこで働く一流の教育を受けた一流の使用人達。


現在俺達がいる応接室で出された飲み物や御菓子も頬っぺたが落ちるくらい美味しい。少なくとも俺の今までの人生では出会うことがなかった食物達だ。


まるで御伽噺の世界にいるようなそんな感覚に陥ってしまう。


俺は見るもの全てが珍しくて子供のようにはしゃぎながら首をキョロキョロと動かしてしまうのだが、リリーナ達が王宮の様子を珍しがる様子がないのを見て改めて価値観を共有できないことを確信する。


まあ、考えてみればリリーナ達は世界中を回ったのだ。


王宮のような豪華な場所に入ったことも一度や二度のことではないのだろう。だったら王宮に入っても平然としているのも理解できる。


しかし俺は貧乏農民。リリーナがいなかったら王宮に入る機会なんて生涯無かったであろう。


だったら俺がはしゃいでしまっても仕方ない。だからリリーナの子供を見守るような生暖かい視線も気にしないことにするとしよう。


好奇心に身を任せてはしゃいでいると応接室の扉からからお供を連れた男が現れた。


俺はその男の容姿を見て心臓が高鳴るのを感じた。輝くような……いや、光り輝く金髪のショートヘアー。大きなパッチリお目目、形のいい鼻、むしゃぶりつきたくなるような艶っぽい唇が奇跡的なバランスで配置されている。


女性と見違えるようなその整った容姿は永遠に眺めていても飽きないという確信が持てる。


やだ!こ、この男……か、カッコいい!!


ええ~なにこの人?何て言うのかな~こう……全身から色気が出ているっていうか。


俺、ホモじゃないけどこの人の裸を見たらゲイボルクが発揮されてしまうかもしれない。


痛い、痛いよリリーナ!!スイマセン!男に見とれてごめんなさい!!謝るからすねを蹴るのは止めて下さい!


リリーナの攻撃で悶えている俺をよそに、男はリリーナ達に向かって綺麗に一礼をした。


「お帰りなさいませ、魔王討伐の英雄の皆様。ご無事なようで何よりです」


「おお~!!アルじゃないか!!久し振りだな!」


「エリオットさん、ご無沙汰しております」


あれ?エリオットの知り合いなのかな?俺もこの人と知り合いになりたい。


「シスターマリン様もリンネさんもお元気そうで何よりです」


そう言うと男はマリンとリンネの手を取って手の甲にキスをした。


何てキザな奴なんだ!手の甲にキスする奴なんて本当にいたんだ!おとぎ話の中だけだと思ってた!!……でも似合っていてカッコいいな。


「あんたも相変わらずみたいね。そのキザなところは直した方がいいわよ」


「いくら親しい間柄とはいえ、いきなり女性の手にキスをするのは止めた方がいいかと」


マリンとリンネの苦言を男は笑顔でスルー。それから男は無表情で立っているリリーナに多くの人を魅了するであろう満面の笑顔を向けた。


「お会いしたかったです、リリーナ先生。先生がご無事で本当に嬉しい。さすがは僕のリリーナ先生です」


「久し振り、アル。それと私はあなたのものではない。そんな虫酸が走るようなことを言わないように」


「クスクスクス。先生は相変わらず連れないなあ。でもそんなところが魅力的です」


あん?リリーナ先生?何でリリーナが先生なんて呼ばれてんだ?俺が疑問に思っていると男は俺の方に顔を向けて話しかけてきた。


「失礼ですがどなたでしょう?あなたのお顔は拝見した覚えがないと記憶していますが?」


「え!?え、ええと……その、お、俺は……」


突然話しかけられてどもってしまった俺の態度を誤解したのか、男は申し訳なさそうな顔で謝罪をしてきた。


「これは失礼を。人に名前を尋ねる時は自分から名乗るものでしたね。僕の名前はアルフォンス・エスカリボルク・ラレンヌと申します。この国で第一王子をやらせてもらっています。長いですからアルで良いですよ。親しい人にはそう呼んでもらっているんです」


アルフォンス・エスカリボルク・ラレンヌ?


それってもしかして……王子様!?


うっそ~この人がこの国の王子様なんだ!ああ、そういえばリリーナは王子様の魔法教師をやってたっけ。


だからリリーナが先生なんて呼ばれているのか。


わぁ~、噂通り容姿端麗で優しそうだなあ。あ、俺も名前を言わなきゃ!!


あ、ヤバイ。緊張で倒れそうだ。相手はこの国の現人神。失礼のない様に敬語の方がいいよな。よし!


「え、えええええっと、お、おおおおお俺のな、なななな名前は……」


あれ?口が上手にまわらないよ?汗もとまらないし全身に震えがはしるんだけど。あ、何か意識が遠のいてきた……


「落ち着いてください。僕が王子だからってそんなに緊張する必要はないんですよ。深呼吸してください。……落ち着きましたか?でしたら握手をしましょう。あなたとは仲良くしたいですから」


そう言ってニッコリ笑って片手を差し出す王子様。


その態度に俺は惚れたね。この王子様スッゴクいい人。もうファンになっちゃった。


王家の人達は俺のような平民にとって神様に等しい存在。そんな方にこんな優しい態度をとってもらえ、あまつさえ仲良くしたいなんて……


感動のあまり泣きそうだよ。


「失礼しました。俺の名前はハンク・トマソンといいます。これからも末永くよろしくお願いします」


俺が名前を名乗った瞬間、王子様の態度が豹変した。


ニッコリ笑顔だった表情は無表情に変わり、握手をしている右手は俺の右手を砕かんばかりの力で握り締めている。


ていうか痛い痛い痛い!!え!?何?どうしたの!?ものすごく右手痛いんですけど!?


「ハンク……トマソン?貴方はハンク・トマソンというのですか?……リリーナ先生の伴侶の?」


「え、ええ。そうですけど。あの~アルさん?右手が痛いので力を緩めてくれるとありがたいんですけど……」


「これは失礼を。トマソンさん、アルと呼ぶのは止めてもらえませんか?これから僕のことを呼ぶ時はアルフォンス王子様と呼んでください」


ええ~!?何で?この10秒の間で何があったの!?


俺にアルって呼べって自分で言ったんじゃん!!それがいきなりアルフォンス王子様って呼べって……


新密度がゼロを通り越してマイナスになった気がするんだけど!?


驚愕で何も言えない俺をアルフォンス王子様は敵意を込めた目で睨みつけてきた。


「それで?何故ここにトマソンさんみたいな農民がいるのでしょう?いくらリリーナ先生の伴侶とはいえ、王宮はトマソンさんみたいな身分の方が気安く入れる場所ではないのですが?」


この人どうしたの!?さっきまでの王子様とは別人じゃん!!俺のことめっさ睨みつけてくるし!!


めっちゃ怖い!!めがっさ怖い!!『王子様はとても優しい』って噂を流したのは誰だよ!?全然優しくないんですけど!?俺と握手をした右手をハンカチでふいているし!!


「アル、ハンクは王宮にいて当然。彼は私の大切な伴侶であると同時に、私達パーティの大切な仲間」


「リリーナ先生。嘘はいけませんよ。あなた方勇者パーティの中にトマソンさんはいなかったと記憶していますが?」


「アルが記憶していなくて当然。ハンクは私以外には姿を見せない仲間。そう、彼こそが私達の中で最も頼りになる"真影"なのだから」


「……は?トマソンさんが"真影"?」


そんな穴が空く程見ないで!!さっきとは別の意味で怖いから!


「あの~、アルフォンス王子様?そんなに見つめられると困るのですが。俺の顔に何かついていますか?」


「あ、これはすいません。あの……トマソンさんは本当に"真影"なのですか?」


「ええ!勿論!!」


俺は真影、真影なんだ。強く思い込め!強気で宣言すれば皆信じるはず。


だからそんなに疑わないで。誰かこの王子様の疑惑の目を俺からそらしてくれ!!


「アル。そんなにハンクをみつめたら失礼」


ナイスフォロー、リリーナ!さすが俺の最愛の嫁さん!!


「ですがリリーナ先生。私には彼が"真影"だとは到底信じることは出来ないのですが?」


「おいおい何言ってんだアルは。ハンクは間違いなく"真影"だよ。それはオレ達が保障する。なあ?」


「そうよアル。見た目は"真影"だとは到底信じられないけど、間違いなくハンクは本物よ」


「……そうですか。勇者パーティの皆様方がそう言うならそうなのでしょう」


何とか誤魔化せたのか?でもまだなんか疑っているっぽいな。よし、王子様の前で喋るのは極力止めよう。後はリリーナ達が勝手にフォローしてくれるだろ。


「それでアルは何しにきたの?挨拶だけ?」


「あ、肝心なことを忘れるとこでした。父上への謁見の準備が整いました。謁見の間までおこし下さい」




×××



謁見の間にいた王様は威圧感たっぷりの方でした。


うん、何ていうのかな、こう……カリスマ性っていうの?そういうのが体からオーラとなってにじみ出ていた。


威圧感とかカリスマ性とか縁のない俺でもそういうのを感じ取れた。


一目見てわかった、この人がこの国の『王』だってことが。


あまりの威圧感に俺なんてガクブルですよ。もうスッゴイ怖い。許可なく口を開く事すら躊躇われる。


俺、いや勇者であるリリーナとすら天と地ほども地位がかけ離れている方。この世におられる現人神。


そんな方を前に…………リリーナは何で喧嘩を売ってんだよ!?


「勇者達よ、魔王討伐大儀であった。そちのような者達が我が国出身であることを余は嬉しく思う」


「王様にそう言ってもらえて私も嬉しく思う」


「その口の利き方は相変わらずよのう。余に敬語を使わないのはこの国ではそちぐらいじゃぞ」


「私が敬語を使うのは尊敬できる相手だけ。残念ながら王様は私が敬語を使うべき相手ではない」


「ほう!余にそのような口を利けば不敬罪になると思わんかね?」


「逆に聞く。不敬罪だから何?私を捕まえることが出来るとでも?」


「ほっほっほ。その肝の据わり様、まさに我が息子の妃に相応しい」


「王様はもうボケたの?私には既に夫がいる。従って王子と結婚することはありえない」


いやいやいや!!何でタメ口!?しかもボケって!!いいの!?だって王様だよ?何で宰相と王子様はリリーナを止めようとしないんだよ?相変わらずってことはリリーナは2年前から王様にタメ口ってことだろ?俺の嫁さん怖いもの知らずすぎ!!


「夫か。勇者よ、そこにいる男がお主の伴侶だな?男よ、名乗るがいい。余が特別にそちの名を聞いてやろう」


こ、答えなきゃ。落ち着け、落ち着け。さっきみたいにどもらないように……よし!


「はっ。俺はハンク・トマソンといいます」


「ほう!お主がハンクか。先ほど王子からお主の正体は"真影"を名乗る伝説の暗殺者だと聞いたのだがそれは真実か?」


「はい!!俺が真影です!!」


「ほう!ならばハンクよ。余の記憶によればお主には何度か親書を送った覚えがあるのだが?」


あん?親書?何それ?……ああ!リリーナと離婚しろってやつか。それがどうかしたのかな?無視してたから怒っているのかな?


「はい。俺にも覚えがありますけど?」


「ハンクよ、余は聞きたい。余が遣わした使者によればお主は直接使者から親書を受け取ったそうだな。魔王討伐の旅に出ていたお主がどうやって親書を受け取ったのだね?」


しまったー!!ついうっかりマジで答えちゃたぜ!!リリーナさんヘルプ!!俺にはこの王様を前に誤魔化しきれる自信がありません!!っていうか、もう100%疑っているでしょ!!


「王様、親書を受け取ったのはハンクの影武者。ハンクは正体を知られないために家に自分そっくりに変装させた影武者を用意してたの。そのことを知った時はさすが"真影"だと関心した」


「ほう。そうなのか?」


「え、ええ!俺は暗殺者ですからね!!正体がばれないように影武者は複数いるんですよ!!」


ああ、どんどん後付け設定が膨らんでいく。嘘を隠すために嘘をつく、か。嘘のスパイラルだよ……


「……お主の村の村長はお主はずっと村にいたと証言しているが?影武者などでは決してないとも断言していたそうだが」


もう村長に調査済みかよ!!もう確実に俺が"真影"じゃないって王様は知っているじゃん!!


ああ~!っもうダメだ!!もう終わりだ!!俺は処刑されるんだ~!!せめて童貞だけは捨てたかった!!


現実逃避をして楽しい思い出に没頭していると突然肌が粟立つのを感じた。


何か巨大な化物が傍にいるような、そんな悪寒が全身に走った。


慌てて悪寒の方向へ顔を向けるとそこには目をドロドロに濁らせたリリーナが王様を睨みつけていた。


「……王様はハンクを疑っているの?私達の、私の大切なハンクを疑っているの?……だったら彼こそが真影だと力づくでわからせてあげようか?」


空気が凍ったのがわかった。リリーナの体から心底恐怖するような殺気が出ているのが戦闘とは無縁の俺にすら感じられた。


この場にいる誰もがリリーナから漏れ出る殺気を感じ取っているのだろう。


リリーナの後ろにいたエリオット達は身を強張らせている。直接リリーナに睨まれた王様達は顔を引き攣らせながら冷や汗をかいていた。


「落ち着け、勇者よ。余はハンクを疑っているわけではないのだよ。ただ事実を確認しただけだ。そう殺気だつものではない」


王様がそう言うとリリーナ殺気をおさめた。さっきまでの殺気が嘘のように、俺が知るいつものリリーナに戻っている。


「だったらいい。ハンクが真影だということは真実。次ふざけたことを言ったら力づくでわからせてあげる」


「肝に銘じておこう。……凱旋パレードは3日後に開く。凱旋パレードまでの間は王宮に泊まるがいい。部屋は用意してある。今夜は宴を用意した。お主達の無事と魔王討伐を宴会で祝おうぞ」


「ありがとう、王様。もう謁見は終わりでいいでしょう?夕飯までは部屋で休ませてもらう」


「ああ、そうだな。廊下にいるメイドに言えば部屋まで案内してくれるはずだ。宴までしっかりと体を休ませるがいい」






案内された部屋に入って1人になると全身から力が抜けるのがわかった。


もうね、緊張からの解放感がやばい!何あの王様!?威圧感ありすぎだから!!


もうやだ~!!絶対王様達に全部ばれているもん!!俺は処刑されちゃうんだ~!!!兵士に首を切られちゃう~!!


部屋で頭を抱えて唸っているとノックの音が聞こえた。慌てて平常を装おって返事をすると、部屋に入ってきたのはリリーナだった。


「ハンク、大丈夫?」


「リリーナ!!なあなあ、リリーナ!もう逃げよう!?絶対に全部王様達にばれているって!!今なら逃げられるかもしれない!!そうだ!王様に土下座しよう!!全部正直に話せば許してくれるかもしれない!!」


「ハンク、落ち着いて。心配することはなにもない」


「心配事がありまくりだよ!!むしろ心配事しかないよ!!っていうか何でリリーナは王様にタメ口で敵意満々なの!?王様に殺気向けるとか命知らず過ぎなんだけど!?」


「あいつは私とハンクの仲を切り裂く諸悪の根源。利用価値があるから殺さないだけ。いつか絶対に殺すつもり。あいつに敬語を使う必要は微塵も存在しない。ハンクも敬語なんて使う必要はない」


もうこの娘のジェノサイド思考は何なの!?


王様を殺すって!物騒なこと言ってんじゃねえよ!!


もうダメだ~!!きっと王族殺しとして世界中に指名手配されて賞金稼ぎに殺されちゃうんだ。俺は拷問されて四肢を切り落とされるんだ!!


いや、待て待て落ち着け。何だかんだとリリーナは今までエリオット達を騙しきってきた。きっと王様達に俺を真影だと信じ込ませる秘策を用意しているはず。


「……なあ、リリーナ。王様に俺が真影じゃないって確実にばれているってことはわかっているよな?どうやって誤魔化すんだ?お前の秘策を俺にも話してくれ。何か協力できるかもしれない」


「秘策?そんなものは存在しない」


「もうダメだ~~!!!!!!俺の人生は終わった~!!!!!」


「落ち着いて。王家の連中に真実がばれるのは想定内。向こうにはハンクが真影ではないという確実な証拠がない。だから後3日頑張れば私達の勝利。疑うようなことを言う奴らは私が力づくで黙らせる」


「結局力づくかい!!っていうか、王様は王子とリリーナを結婚させたがっているんだろ?俺がただの農民だって王様が知っているんなら刺客とか差し向けられたりしないかな?」


「さすがにそこまで強引な手段には出ないと思う。それにもしそんなことが起きたら……」


「り、リリーナさん?目が濁っていてとっても怖いんですけど?も、もしそんなことが起きたらの続きは?」


俺の質問には答えずリリーナはニヤリと笑った。もうね、その邪悪な笑顔だけで続きが想像できるよね。


「とりあえず後3日が勝負。凱旋パレードが始まってしまえば王家の連中はどうにも出来ない。それまで2人でガンバロー」


「ガンバローじゃねえよ!!」


王様には全部ばれているし、リリーナの計画は穴だらけだし、不安しか感じないんだけど!!俺、凱旋パレードまで無事でいられるのだろうか?





×××





時間は少し遡る。


リリーナ達が去った後、謁見の間には三人の人間が残された。


一人はこの国のトップたるラレンヌ王。


もう一人は王の右腕たる宰相。


そして最後の一人は次期国王たるアルフォンス王子。


三人は深刻な顔で勇者パーティのことについて考える。


「……アルフォンスよ、あの男をどう思う?」


「はっ。装備は超一級品の物でしたがあの男には魔力が欠片も感じられませんし、肉体も戦闘を生業とする者の筋肉ではありませんでした。僕の探知魔法をも誤魔化す実力者ということも考えられますがその可能性は限りなく低いと思います。ですからハンク・トマソンは本物の真影に装備を渡されたのではないでしょうか」


「というと?」


「僕が考えるにハンク・トマソンは"本物の真影"の影武者だと思います。元々"真影"は闇に生きる暗殺者。魔王を討伐した後でも顔を晒す必要もなければ理由もありません。……これは可能性の話ですが、真影はハンク・トマソンに勇者に相応しいだけの身分を持たせようとしたのではないかと。真影はリリーナ先生の味方。だったらリリーナ先生の伴侶であるハンク・トマソンの味方であってもおかしくはありません。ですから彼に自らの身分である"真影"の称号を名乗らせたのではないでしょうか?」


「ならば余の想像通りハンク・トマソンは真影ではないということか。というと勇者パーティの連中もグル。ふんっ!小娘どもが!余を謀りおって!!忌々しい」


「どういたしましょう、父上?我等がハンク・トマソンは真影ではないと公表しても、リリーナ先生達が彼を真影だと言い張れば国民はリリーナ先生達を信じます」


王子の言葉にラレンヌ王はしばし口と目を閉じ自らの思考に没頭する。謁見の間には沈黙が流れ、王子も宰相も王が命令を出すのを静かに待つ。5分は経っただろうか、王が目を開き王国にとって最善でもっとも手っ取り早い命令を口にする。


「……宰相よ。ハンク・トマソンを消せ」


「畏まりました。『闇』の者共を出しましょう。人数はどういたしましょう?」


「全員だ。本物の真影が既に王宮にいるかもしれない。万全の準備を整えよ」


「待って下さい!!父上、ハンク・トマソンを消すとはどういうことなのでしょう!?」


「簡単なことよ。パレードに出ることによって国民はハンク・トマソンを真影だと認識する。ならばパレードの前にハンク・トマソンを消せばいい。なあに、心配するな。勇者パーティの連中がとやかく言うかも知れないが王家の力を使って黙らせる。後は伴侶を失って傷付いた勇者をアルフォンスが落とせばいい。お前は勇者に惚れているのだろう?いかに勇者といえど所詮は小娘。傷付いている時に優しくされれば簡単にお前に惚れるだろうよ。勇者がお前に惚れれば誰も姿を見たことがない真影の存在などどうとでも誤魔化せる。後は本物の真影を探し出し消せばいい」


「な!?父上、それは横暴です!!確かにハンク・トマソンは真影だと虚偽を申しましたが処刑にするほどの罪ではありません!!……それに、僕は確かにリリーナ先生を愛していますがそんな方法でリリーナ先生を手にいれても嬉しくありません!!」


「黙れ!!いいか、アルフォンスよ。魔王が倒されたことによって人と魔の戦争は終わった。これからは人と人の戦争の時代なのだ。その戦争に勝つためには何としても勇者を王家に取り入れなければいけない。お前の感情など考慮に入れる価値もなければ意味もない」


「ですが父上!!」


「これは王命だ。薬物を使ってでも勇者をお前の伴侶とせよ。宰相よ、ハンク・トマソンの今夜の夕食に睡眠薬を混ぜよ。眠らせた後に刺客を差し向け奴の寝室で消せ。死体は処理して行方不明ということにすればいい。アルフォンスはその間に勇者をハンク・トマソンの寝室から遠ざけておけ。その間に勇者を口説いてもいい。……全ては王国のため。そのためなら余は鬼にでも外道にもなろうぞ」

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