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2.俺の妻の異常な愛情

「それで?何でここにリリーナがいるんだ?」


「? ここは私とハンクの家。私がここにいておかしいことは何一つない」


あれから泣きじゃくるリリーナを何とかなだめ家に入って事情を聞いたら上記の言葉が返ってきた。


「いやいや、そういうことじゃなくてだな。王都に魔王討伐の報告にいくはずのリリーナが何でこんなクソ田舎にいるんだって話だよ。それにお前ひとりか?仲間達はどうしたんだよ?」


「ああ、仲間達は王都に行く前に故郷帰ることになったから一時解散した。王都に行ったら凱旋パレードやら何やらで録に故郷に帰れないだろうからって」


成る程、それは道理だ。確かに王都に行ったら何だかんだと家に帰ることは難しくなってしまうだろう。


何せ彼らは魔王討伐の英雄達。凱旋パレードが終わったら『ハイ、解散!!』と言うわけにはいかない。


彼等の存在は政治的にも重要な意味を持つ。そのごたごたを考えれば、周りが騒がしくなる前に故郷に行こうとするのは道理に沿った行動なのだろう。


そんなことを考えているとリリーナが膨れっ面になって拗ねていた。うん?どうしたんだ?


「うん?どうした?何怒ってんだよ?」


「……ハンクは質問ばっかり。私の無事や再会を祝ってくれないの?……私と会えて嬉しくないの?」


そっか、そうだよな。こいつは魔王を倒して来たんだよな。その戦いは命懸けのものだったのだろう。何度死にかけたのかわからないぐらい激しい戦いだったはずだ。


こうして五体満足でいることは奇跡なのかもしれない。それなのに俺ってば質問ばかりで無事と再会を祝ってやれないなんて人としても夫としても失格だ。


「そんな訳ないだろう!ちょっといきなりだったから混乱しちゃったんだ。……また会えて嬉しいよ。リリーナ、おかえり!」


「ただいま、ハンク!あなたにまた会えて私も嬉しい!!」


膨れっ面から一変、満面の笑顔で俺に抱きついてくるリリーナ。


ああ、やっぱり俺はこいつが好きだ。リリーナと別れてから3年間、決して得られなかった充実感を感じている。


ひょっとしたら近い将来リリーナとは永遠に別れることになるかもしれない。俺と別れてリリーナは王子様と結婚した方がいいのかもしれない。リリーナが魔王討伐の勇者である以上、それは避けられない問題だ。


だけど今だけは、リリーナが俺の腕にいる今だけはその事を忘れて世界で一番愛しい女が傍にいることを素直に喜ぶことにするとしよう。



×××




「魔王討伐お疲れ様。大変だったろ?」


「別にそこまで大変じゃなかったよ?結構簡単だった」


今リリーナは俺にマッサージされながら旅の話を俺にしてくれている。


リリーナはしきりに俺の世話をしたがったが、家にいる間は旅の疲れを癒すためと俺の家事の上達度を見せるために――リリーナがいなくなるまでは家事全般はリリーナの役目だったので俺が料理を作ったと知ると酷く驚いていた――俺がリリーナの世話をすることに決めたのだ。


「そんなことないだろ。だって魔王だろ?お前がスゴイのは昔から知っているけど簡単には倒せなかっただろう。まあ、頼れる仲間がいたみたいだから良かったけど激戦だったんだろう?」


うん、だって魔王だもんな。命懸けの戦闘だったろうに。それなのに何でなんでもないことのように話すんだ?


そりゃ勇者だから簡単に弱みを見せる訳にはいかないのはわかるが、夫の俺にぐらいは弱みを見せてくれてもいいのに。


……はっ!まさか俺に気を使ってくれているのか?考えてみればリリーナを戦うよう説得したのは俺だもんな。命懸けの戦いだったと知れば俺が気を使うだろうと思ってわざと簡単な戦いだって言ってるんだ。


なんて気遣いが出来る嫁なんだ!!


「仲間?……ああ、マリン達のこと?」


「そうそう。そういえばパーティの仲間達ってどんな奴なんだ?ほら、ここってクソ田舎だからリリーナ達に関する情報ってあんまり入ってこなかったんだ」


「ん~。エリオットは喧しくてうるさかった。剣技はそこそこ。リンネは……出会ってすぐはツンツンしてたけど途中から優しくなった。魔法はやっぱりそこそこ。マリンはしっかり者だった。財布の管理とかは主にマリンの役目。治癒術とか役に立った」


多分エリオットってのが"剣王"で、リンネってのが"魔女王"で、マリンってのが"聖女"だよな。


それにしても仲間達に対するリリーナの評価は厳しめじゃないか?"剣王"や"魔女王"をそこそこって……。あれ?確かもうひとりいたはずだよな?


「後ひとり"真影"ってのがいただろ?そいつはどんな奴なんだ?噂によるとリリーナ以外姿を見たことないんだろ。なあ、どんな奴なんだ?カッコいい奴なのか?」


「世界で一番カッコいいと思う。他の人はどう思うかわからないけど、少なくとも私にとっては世界で一番カッコいい」


リリーナが俺以外の男を褒めるなんて珍しい。


小さいころにワルガキ共にからかわれて以来、リリーナは俺以外の男に対して嫌悪感すら抱いている。そんなリリーナが俺以外の男を褒めるなんて……


リリーナの成長を感じると共にその褒め具合に少し嫉妬してしまう。


だけどこれは仕方ないことなのだろう。俺が畑仕事をしている間に、リリーナ達は命懸けの戦闘をしていた。


特に"真影"は仲間達のピンチを何度も救った勇者パーティの切り札的存在だと聞いている。


そんな奴を魅力的に思うのは当然の反応なのだろう。


「へえー、お前が褒めるってことはよっぽどカッコいいんだろうな。俺も一目でいいから見てみたいな。なあ、王都に行く前に俺にだけ見せてくれないか?リリーナなら俺と"真影"を会わせることぐらい簡単だろう?」


「それは無理。ハンクが"真影"と会うことは不可能なこと」


「何でだよ?……まあ、そうか。相手は誰にも姿を見せない伝説の暗殺者。一介の農民が容易く会える相手じゃないか」


「そういう意味じゃない。だって"真影"は貴方何だから。自分に会うことは不可能。そうでしょ?」


そう言ってリリーナは俺の方を指差した。


後ろには誰もいないよな?リリーナは何言ってんだ?


「おいおい何言ってんだよ。" 真影"が俺ってどういう意味なんだ?あ!もしかしてリリーナにとって"真影"は俺のような存在って意味か?」


「違う。言葉通りの意味。"真影"の正体はハンク・トマソン。私の最愛の人で愛しい旦那様。つまり貴方なの」


「はぁ~~?何言ってんだよ。"真影"が俺だって?そんな伝説の存在になった覚えはないぞ?」


「……始めから説明する。私の正面に来て」


俺がリリーナの正面に座り聞く姿勢に入ると、リリーナはゆっくりと"真影"について語りだした。


「最初にぶっちゃけると"真影"なんて暗殺者は存在しない。全て私の自作自演」


「は?"真影"が存在しない?リリーナの自作自演ってどういう意味だよ?」


「全部説明するから途中で口を挟まないで。少し長くなる」


それから俺がリリーナから聞いた話の内容は衝撃的なものだった。


「私はハンクを愛している。きっかけは貴方が私をいじめっこ達から守ってくれた時なのかもしれない。今思えば、もしかしたら生まれる前からハンクを愛していたのかもしれない。生まれた時から暗闇にいた私の人生は貴方という光と出会うことによってようやく明るくなった。貴方と一緒に住む村が好き。貴方と一緒に食べるご飯が好き。貴方と一緒に吸う空気が好き。貴方という存在がいるこの世界が大好き。私の人生の目標はハンクと生涯一緒に幸せに暮らすこと。貴方と出会ってすぐにそのことは私の必ず実現させるべき夢となった」


「私が王都に行って魔法の勉強をすることにしたのは虚弱体質の貴方のため。体の弱い貴方を治す魔法を習得するために修行することにした。私が王都に残って王子の魔法教師をすることにしたのも貴方のため。王子の魔法教師は給金が良かった。体の弱い貴方を医者に見せるためにはそれなりのお金が必要。貴方のためだと思えば、貴方と離れている間も我慢出来た。私はハンクのためなら何でも出来る。私の行動は全て「ハンクのため」という理由があるの。でもね、貴方と離れた3年間で気付いたことがある。貴方がいないご飯は不味い。貴方がいない家は嫌い。貴方の存在を感じられない空気は吐き気がする。私はそれまでは世界が大好きだと思っていた。でもね、違ったの。私は"ハンクがいる世界"が好きだったの。だから貴方がこの世界からいなくなった瞬間、私にとって世界も人間も全てはゴミに変わる」


「もちろん勇者として魔王と戦ったのも貴方のため。貴方が1年前言った通り、魔王率いる魔物達と戦争になったら高い確率でハンクは死んでしまう。いくら私が守るとはいえ、貴方が死ぬ可能性はゼロではない。もしそうなったら私の人生は生きる意味を失う。それを防ぐために勇者として戦う決意をしたの。魔王を倒したら貴方とSEXが出来るというご褒美もあったしね」


「私は高確率で魔王に勝てることを確信していた。王都での修行時代に私はありとあらゆる魔法を習得した。オリジナルの魔法だって作り出した。おそらく、私が本気で魔法を使えば世界すら簡単に滅ぼせる。剣技だってそう。エリオットに剣技を見せてもらったことがあるけど全然スゴいとは思えなかった。正直、皆が賞賛する彼の剣技は私にとっては子供の遊び程度だった。多分、ううん、確実に世界最強は私だと思う。事実魔王との戦いですら楽勝だった。エリオット達の助けなんか全然必要なかったし、正直本気を出せば1週間で魔王を含めた魔族共を殲滅することは出来たと思う。でもね、あえて私は本気を出さず魔王討伐まで1年かけた。その理由が貴方にはわかる?……きっとわからないでしょうね」


「話は変わるけど、私は勇者として神託を受けた日から貴方と一緒にいることが難しくなるということがわかっていた。魔王を倒したあかつきには『勇者』である私は王家の人間と結婚させられることになる。このことは歴史が証明している。ハンクのところにも私と離婚するようにって王家からの使者が来たでしょ?勇者に選ばれてからは私のところにも貴方と離婚して王子と結婚するようにって王家からの命令書を持った使者が何度か来た。さっきも言ったとおり私は貴方を愛している。貴方以外の人間は私にとっては全てゴミで、私にとっての人間はハンク以外には存在しない。ハンク以外のゴミと結婚するなんて虫唾が走る。正直、使者が来た時は王家の人間を含めて皆殺しにしてやろうかと思ったわ。でもそれは止めておいた。私はハンクのためなら全てを捨てることが出来るけど、ハンクはそれが出来ないでしょう?私が王家の人間を皆殺しにすれば私達は指名手配。どんな人間が来ようと返り討ちにする自信はあるけど、ハンクはそんな生活にきっと耐えられないはず。誤解しないでね?攻めているわけじゃないの。私は貴方のそんな所も大好きなのだから。さて、そこで私はハンクとずっと一緒にいられる方法を考えたの。そもそも私とハンクが別れさせられるのは身分違いだから。"勇者"と"農民"じゃ周囲の人間が納得しない。そこで私はハンクが勇者と釣り合うような身分になればいいという結論に至った。でもその方法を見つけるのは困難だった。言っては悪いけど、貴方は虚弱体質のただの農民。武功を立てるのもダメ。文化面や勉強面で身分を引き上げるのも難しい。貴族や王族にコネだってない。あの時はかなり悩んだわ。どうすれば貴方と幸せに暮らせるのか。多分生まれてから一番悩んだと思う。悩んで悩んで悩みまくって、ついに私はひとつの方法を思い浮かんだ。その結果が"真影"という伝説の暗殺者なの」

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