9.護衛
久し振りの投稿。放置してスイマセン。
やってきました商店街!!
王宮から商店街に行くのに半年以上かかった気がするかもしれないがそれは皆の錯覚なので安心して欲しい。
現在俺とリリーナは商店街の入り口で王子様を待っている。
王都に来て初日にも思ったことだが、やっぱり王都の商店街は活気がある。
うるさいぐらいに響き渡る商人達の呼び込みの声、店主と値段交渉をしている買い物客であろうおばさんの怒鳴り声。
ともすればこちらが圧倒されてしまうぐらいにどこもかしこも熱意に満ち溢れている。
ていうか値段交渉をしていたおばさんが店主の胸倉をつかんでいるのだが大丈夫なのだろうか……?
ともかくこんな光景は俺が住んでいたあのクソ田舎では絶対に見られない光景だ。
ちょっと怖気き付きそうになりながらチラリと横にいるリリーナの様子を疑うと、リリーナは平然とした顔で商店街の光景を眺めている。
リリーナが特に反応を示していないということは王都ではこれが当たり前の事なのだろうか。だとしたら俺は一生王都で買い物が出来なそうだ。
「どうしたの?何か顔がひきつっているけど」
「ん?ああ。いや、ちょっと商店街の熱気に圧倒されてしまってな」
俺がそう言うとリリーナは納得したように頷いた。
「ハンクはあの村から出た事がないから驚くのも当たり前。どこの国でも大きな町はやっぱり活気がある。特に王都は裕福な人が多いから商人達も気合が入るので自然と声が大きくなる。それに引きづられて客も気合が入るからあんな風にどこもかしこも熱意に溢れることになるの」
「ふ~ん。そういうものなのか。……あんな人ごみに入るかと思うとちょっとぞっとするな」
「しょうがない。栄えている所に人が多いのは当たり前だから」
俺人込みが嫌いなんだよなぁー。ここに来る前までは商店街の店という店を見たい気持ちで一杯だったが、今はすぐにでも王宮に帰ってダラダラしたい気持ちで一杯だ。
何で俺は王子様の誘いにのってしまったんだろう……。ちっ!断っておけば良かったぜ。
「そんなことよりハンク、私との約束覚えている?」
「うん?ああ、約束ね。勿論覚えているよ」
商店街に行く前に俺とリリーナは一つの約束をした。
それは例えどのような事態になろうと絶体にリリーナのそばから離れないってこと。
何でか知らんが、昨日からリリーナは俺がそばから離れることを異様に嫌がるようになった。
事情を聞いても詳しく教えてくれないし、トイレや水浴びにまで着いてこようとするのだから困ったもんだ。
「だったらいい。……アルフォンスには極力近づかないようにもしてね。何があろうともハンクは私が守るけど、万が一ということもあるから」
「ああ。まあ、リリーナに言われなくても近づきたいとはおもわないけどな。ていうか、王子様はいつ来るんだ?たっくよ~!自分から誘っておいて遅刻するとかどういう神経しているんだろうな?偉いやつはこれだから嫌なんだよ!!自分達は幾らでも人を待たせていいって勘違いしてんじゃねえの?」
リリーナに愚痴りつつそばにあった石ころを蹴ると、今この時世界で一番聞きたくない声が聞こえてきた。
「そんな勘違いはしてませんよ、トマソンさん。お待たせして申し訳ありませんね」
「っていう話を通行人がしていたんですよ!!全く、王族の方達に対して失礼極まりないですよね!!むしろ王族の方をお待ち出来るのは光栄な事ですよ!!ええ、そうですとも!!そうに違いないんです!!」
見るとそこにいたのは予想通り王子様。
俺と視線が合っても先ほどの俺のセリフに一切追及せずニコニコ笑っているだけなのが余計に恐ろしい。
本当に怖いから!!せめて何かリアクションしてよ!!あんた目が笑ってないよ!!
「そうですか?それならいいんですけど。ですが僕は普通の神経をしていないらしいですからね~?」
イヤー!!そんな嫌味を言わないで!!もう俺の心は折れそうだよ!!帰りたい!!今すぐベッドに帰りたい!!
「アル、もうその辺にする。それ以上ハンクを虐めるなら私が許さない」
「これは失礼を。ですが僕にトマソンさんを虐めたつもりはないのですが」
ええ~!?
何この殺伐とした雰囲気?リリーナは殺意がこもっていそうな視線で王子様を睨みつけているし、王子様は俺をずっと睨みつけているし!!
何なの、この空間!?今日はほのぼの散歩じゃなかったの!?やっぱり来なければ良かったよ!!
この辺だけめっちゃ空気が重いし冷たい!!な、何か話題を変えなきゃ……そうだ!!
「あの~アルフォンス王子様?今朝は護衛の方と一緒に来るようなことを言っていましたが、その護衛さんはどこにいるのですか?」
「ああ、彼女のことですか。先にここに来るように命令してあるのでもう来ていると思うのですが……。あ、いましたね。来なさい、リトナ。リリーナさん達を紹介しますので」
王子様の呼びかけでこちらにやってくるのは胸は掌におさまるぐらいで長髪、背は俺よりより少し低いぐらいでたれ目気味、清楚な雰囲気を持ちながらどことなくエロスな雰囲気を醸し出している女性だった。
つまりは俺の好みにドストライクな女性だ!!
っだよ~!!今朝のわけの分からん質問はこのためだったのね!!
俺の好みの女の子を連れてきてくれるなんて王子様もいいとこあるじゃん!!
しっかしこの女の子めっちゃ可愛いな!!もろ好みだわ。
しかも護衛の癖に鎧も武器もつけず胸元があいた大胆な服を着ている。上も下も見えそうで見えないチラリズムがエロすぎる!目の保養に……って
「痛い痛い痛い!!リリーナさん!?どうして俺のスネを無言で蹴るの!?ものスッゴク痛いんだけど!?」
「ハンクはそのメスブタのことをいやらしい目で見てた。だからお仕置き」
「そんな目で見ていないから!!本当に本当だよ!!俺はリリーナ一筋だから!!お願いだからスネ毛を力任せに抜かないで!!」
俺がリリーナのお仕置きで悶え苦しんでいると先ほどの女の子が俺のそばによってきた。
「大丈夫ですか?痛そう……。脚をさすってあげますね?」
その言葉とともに俺の脚に彼女の柔らかい手が触れる。
脚から感じるその感触は極上なもので、うっかり天使に触れられているんじゃないかと勘違いしてしまった。
俺の脚をさする彼女の手つきが妙にいやらしくいけないことをしているみたいな感覚に陥ってしまう。
「ねえ、ハンク。脚と腕、どっちがいい?」
「俺はもう大丈夫だからそこの君も俺からすぐに離れよう!!だからリリーナも剣をしまってね?それとそのドロドロした目も止めようか。俺の心臓が恐怖で止まりそうだから」
彼女も身の危険を感じたのかすぐさま俺のそばから離れた。
「えっと、それで君がアルフォンス王子様の護衛なのかな?」
俺がそう聞くと女の子は答えず、代わりに王子様が答えてくれた。
「ええ。彼女は僕の護衛のリトナです。歳はトマソンさんより2つ下ですが優秀な女性なんですよ」
王子様が女の子に視線をやると、女の子は俺とリリーナに向けて自己紹介を始めた。
「この度護衛に選ばれましたリトナと申します。本日はどうかよろしくお願いいたします」
「あ、これはご丁寧に。えっと、俺の名前はハンク・トマソンっていうんだ。気軽にハンクって呼んでくれていいからね。俺もリトナちゃんって呼んでいいかな?」
「ええ、もちろん。精一杯護衛させていただきますのでよろしくお願いします、ハンクさん!」
うぉぉぉ!本当にかわいいな、この子。笑顔が可愛い!!いやぁ~、今日は来て本気で良かったな~!!
俺がリトナちゃんの可愛らしい笑顔に見惚れていると、その眩しい笑顔が困惑したような表情に変化した。
なんでリトナちゃんは困っているんだろうと疑問に思いながら彼女の視線をたどるとその原因は一目でわかった。
「…………」
リリーナがリトナちゃんから顔を90度背けて無言でたたずんでいた。しかも全身から不機嫌オーラを発していて取り付く島がない。
「ほ、ほら!リリーナも自己紹介しよう?リトナちゃんが困っているよ?」
俺が促すとリリーナは明らかに渋々といった態度でその重い口を開いた。
「ナマエ、リリーナ。ショクギョウ、ユウシャ」
「えっと、リトナです。今日はよろしくお願いします。リリーナさんって呼んでいいですか?」
「ダメ。あなたに私の名前を呼んで欲しくない。私を呼ぶときは勇者って呼んで」
リリーナの言葉に明らかに場の空気が重くなる。リトナちゃんは困ったような顔で俺に助けを求めてきた。
ごめん、ごめんよ、リトナちゃん!
助けてあげたいけど俺が何か言うと余計に場の空気が重くなるだけだと思うんだ!!
だから俺は口を閉じておくよ。何とかリリーナと会話して空気を軽くしておくれ!!
そんな意思をこめて彼女の目を見ると、俺の意思がきちんと伝わったようで彼女もコクンと頷き返してくれた。
「ハンクさんてあの有名な"真影"なんですよね?私はずっと"真影"に憧れていたんです!今日はハンクさんに会えて本当に光栄です!!」
俺の意思が何一つ伝わってなかった!!
違う、違うよリトナちゃん!!その選択肢は最悪だよ!!
しかも何で俺の腕に抱きつくのさ!?
おっぱいが腕に当たって嬉しいけど、この後大変な目に会うのは俺なんですよ!?
「ねえ、ハンク。もしハンクが浮気した場合どうなると思う?」
ほら!!もう背中が殺意でゾクゾクしてるよ!!怖くてリリーナの顔が見られない!!
「も、もももももちろん浮気なんて俺はしないけど。そ、その、か、かかかかりに浮気した場合はどうなるの?」
「……棒と玉を切って女の子にしてあげる」
「いやぁぁぁぁぁ!!!!!!ムスコとお別れなんてしたくない!!彼とは一生一緒にいたいよ!!」
「あははは。トマソンさんはモテモテで羨ましいですね」
「アルフォンス王子様!?あんたこの状況見えてんの!?去勢宣言されてどこが羨ましいのさ!?」
俺の決死のつっこみを王子様は華麗にシカトする。
「あなたたちのコントをこのまま見ているのもいいのですがそろそろ商店街に入りましょう。時間がなくなってしまいますからね」
×××
王都のお店はどれも俺が見たこともない商品を扱っている。
どんな味がするのか想像もつかない食べ物。眩しいほどキラキラと輝く装飾品。見ているだけで呪われそうな杖みたいな武器。
目に写る光景は俺にとっては全てが珍しく、金さえあれば全ての品を買いたくなる。
いや、金が無くても見ているだけで楽しめただろう。だが、残念なことに今の俺に商品を見る余裕はなかった。
「ハンクさんって素敵ですね!本当に憧れちゃう!あ、あの帽子はハンクさんに似合うんじゃないですか!?私がハンクさんの服を見立ててあげます!!」
「顔と同じであなたのファッションセンスは本当に残念。あっちの帽子の方がハンクには似合うに決まっている」
リリーナとリトナちゃんが視線を合わせ無言の睨み合いする。そしてその間に挟まれる俺。こんな場面で楽しめるのは空気が読めないバカぐらいなものだ。
商店街に入ってからも何でか知らないがリトナちゃんは異様に俺になついてくれた。
護衛のクセに王子様そっち抜けで、俺の腕に抱きつきながら何かと俺に話しかけてくる。
一方、それを黙っていないのは我らがリリーナさん。最初の方はリトナちゃんと俺が話すたびに俺にお仕置きしてきたが、今はリトナちゃんに対抗してリトナちゃんとは反対側の俺の腕に抱きついている。
俺だって男だ。可愛い女の子を侍らせる夢を想像したことは一度や二度ではない。リリーナは極上の美人だし、リトナちゃんだってその容姿はかなり可愛い。
状況だけを見れば今の俺は両手に花。男の夢を叶えたと言えるだろう。だけどね……
「ハンクさんは私が選んだ帽子の方が良いですよね?」
「ハンクには私が選んだ帽子の方が似合うに決まっている」
「「…………」」
「「ハンク(さん)はどっちがいいの!?」」
俺が想像した状況はもっと楽しいものだったよ!?
こんなの俺が想像した両手に花じゃないよ!!
だってリリーナとリトナちゃんが選んだ物をどっちがいいかと迫られるんだぜ!?
もうこれで5回目だよ!!
リリーナを選べばリトナちゃんに泣きそうな目で見詰められるし、リトナちゃんを選べばリリーナに極寒の視線で睨まれる。
こんなの少しも楽しくない!!王子様は困っている俺を楽しそうに見るだけで助けてくれないし本気で帰りたい!!
「ま、まあまあ。どちらも素敵じゃないか。よ~し!オジサン、どっちも買っちゃうぞ~!!」
穏便に済ませるには両方を選ぶという選択肢しか俺にはなかった。おかげで俺はたいして欲しくもない服や装飾品を2種類ずつ買うことになった。
そのせいで今までに貧しい暮らしながらコツコツと貯めたへそくりがすっからかん。また貯め直しかと思うとヤル気が一気になくなってしまう。
その後もリリーナとリトナちゃんの張り合いは続いたが俺のへそくりと引き換えに大事になることはなかった。
商店街を歩きまわり中央の広場につくと、赤い服を着た大勢の人が広場を埋め尽くしていた。
彼らは一人一人が楽器を持ち、有名な合唱曲を歌いながら広場を練り歩いている。
何なのだろうと気になって見ていると王子様が答えてくれた。
「おや、スイング音楽隊じゃないですか」
「スイング音楽隊?」
「ええ。彼らは国で一番と名高い音楽家達の集まりで他国でも有名なんです。メンバーはその証としてお揃いの赤い服を着ているのです。リリーナさん達の凱旋パレードにも出る予定なんですよ」
へえー。そんなに有名なんだ。確かに素人の俺でもわかるぐらい彼らの演奏は上手い。国で一番という評判は妥当なものなのだろう。
そんな事を思いながらスイング音楽隊の演奏に聞き入っていると王子様から不審な視線を向けられた。
「"真影"ともあろう人がそんな事も知らないのですか?暗殺者にとってはどんな情報であれ大事なものだと思うのですが?」
ギクッ!ど、どどどうしよう!リリーナ、ヘルプ!!
「…………」
おい!!リトナちゃんと睨みあってないで俺のフォローをしてくれよ!!自分が離れるなって言った癖に俺そっち抜けでリトナちゃんと火花を散らしているし!
クッ、やはり自分で何とかするしかないのか……
「……知ってましたけどね。ええ、知っていますとも!!スイング音楽隊は常識ですよね。今のはあれです。王子様が知っているか試しただけです」
「……そうですか。それなら良いんです。少し気になったものですから。それでは商店街めぐりの続きと行きましょうか?人が多いですからはぐれないように」
止めて!!そんなに呆れたような目でみないで!!死にたくなるから!!今のは自分でも無いって自覚してるから!!
先を歩くアルフォンス王子様に着いて広場を突っ切ろうとすると、スイング音楽隊を見る野次馬も相まって人口密度が半端なく、またその演奏のせいで音楽以外の音が聞こえない。
王子様の背中も女の子2人の姿も見えなくなってしまった。
おいおい、こんな所で迷子になったら俺死んじゃうよ?せめてリリーナと離れないようにしなければ。
そう思って必死に前を目指して歩いていると、人混みの中で俺に向かって差しのべられる手が見えた。
おっ、さすがはリリーナ。何だかんだ言ってこういうときにリリーナは頼りになるよなあ。
リリーナの手を俺が握ると力強く引っ張られる。俺はリリーナに引っ張られるまま何とか人混みを抜け出した。
「ふっ~。スゴい人混みだったな。あんな人がいると本気で困っちゃうよ。今からパレードが憂鬱だ。リリーナそう思うだろう?」
人混みの間を強引に通ったせいで乱れた息を整えた後、顔をあげつつリリーナに話しかけるとそこには予想だにしない人物がいた。
「やっと二人きりになれましたね……ハンクさん」
俺の右手を握り可愛らしい笑顔を浮かべるリトナちゃんがそこにはいたのだ。




