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武勇伝

少し広島弁がまじってるところがあります。

(話の都合上で)

でも意味がわからないという事はないと思います。

今、安志ヤスシは学校に向かっている。

道路には人は全く見当たらない。普段は車がたくさん通っている通学路。

夜に美しく響く秋の虫の声は、車にかき消される事はない。

それは当然。なぜなら、今は深夜の2時だから。

14歳の安志が、こんな時間に歩いているのはいかにも不自然だ。

安志は、こんな時間に学校に行かなければならない。それもまた不自然。

緑色のパジャマのポケットには、黒い汚れた財布が入ってる。

財布の中には2千円。中学2年生の安志には大金だ。

親が働いて稼いだ金を、こんな無造作に使っていいものだろうか。

安志の鼓動は、学校に近づくにつれ速くなっていく。

安志はとうとう学校の門の前に来てしまった。

暗闇の中にそびえ立つ白い門は、安志には不気味に見える。

安志は、門の前に恐怖感を覚えた。

夜の暗闇が、安志の恐怖感をさらに盛り上げてしまう。

夜にふく冷たい風が、安志の弱々しい顔を横切る。

安志は腕にはめている安っぽい腕時計を見た。


2時15分だった。

約束の時間まであと5分だ。

安志の鼓動は今までより速さをました。足が振るえている。

恐怖心が、安志の睡魔を完全に無効化している。

眠たいという感覚は、音を立てないように玄関から一歩外へ足を踏み出した時から消えている。

そのかわり、安志の弱々しく小さな体で恐怖を背負い込む事になる。

約束の2時20分だ。

安志が待っている人物は暗闇の中には姿を見せない。

安志は暗闇の辺りに本当に誰もいないか確認して見た。

安志はようやく安心感を覚え、安志はほっと胸をなでおろした。

しかし、まだ安志には不安がかすかに残っている。

なので安志はもう10分間、この冷えた暗闇の中で待つ事にした。

このまま誰もこないでくれ、安志は必死に神に祈った。

その安志の心とは裏腹に暗闇の中から、肩の力を抜きながら歩いている4人の少年達が姿を現した。

「おい、安志」

ゴリラの様にがっちりした少年が、静かな暗闇に良く響く巻き舌で安志を呼んだ。

「金は持ってきたんだろうな。ああん?」

「あ、はい。ちゃんと持ってきました。ここに」

安志は震えた手でポケットに入っている財布を取り出し、2千円を差し出した。

「おい、これはなんだ」

「2千円です。僕にはこれが限界……」

安志の体が地面から少し浮いた。安志は胸倉をつかまれている。

「2千円だと?なめてんじゃねえよ。殺すぞ、ヴォケ!」

「すいません、家にはこれだけしか……」

鈍い音と共に安志の体に激痛が走った。何回も鈍い音が空気を咲く。

安志の気弱そうな顔は、安志とは思えない程はれあがった。安志の眼鏡のレンズはこなごな。

「てめえよお、何回もいわせるなや。5千円持って来いつったんだよ。頭悪いんとちがうか?

それともよぉ、俺をなめとんのか?ゴラァ」

安志の頬は湿っていた。大量の涙がこぼれている。

恐怖、悔しさ、情けなさ、痛みで。

「安志よお、俺最近金に困っとるんじゃ。明日、学校に6千円持ってこいや。いいな?」

安志は嫌とは言えなかった。断ったら、さっきの倍殴られる事は見え透いている。

あのがっちりした体格の佐竹には勝てるはずがない。

あの4人の不良少年のリーダー的存在。あの中で一番強い。

広島の中学生NO1かもしれない。

安志は、4人の背中を悔しそうに眺めた。

やがて、4人は暗闇の中に消えていった。


安志は暗闇の中で泣きながら家に帰っていった……。



翌日、学校で脅されている安志の姿があった。

「ああ?金が無ええだと?死にてえのか?我」

安志はいつもの様に怖気づいていた。

周りの人のは、安志が絡まれていると皆避ける。

「頭かせや。ぶち殴っちゃるけえのお。覚悟しとけよ、我」

「すいません、止めてください」

安志は頭を手で覆い隠して殴られる覚悟を決めて、目をつむった。

いつもより強烈な鈍い音がした。

しかし、なぜか痛みを感じない。なぜだろう、そう思って安志は目をあけた。

すると安志の目の前には、高校生とは思えない程背の高い人が堂々と立っていた。

それは女子の間で話題の、最近転校してきた美男子中学生の真田君だった。

「雑魚虐めか。どうしてお前らみたいな奴が雑魚虐めをしてるかわかるぜ。俺にはな」

「キャー、真田君よ。かっこいい!」

真田君が来てから、安志達の周りには真田君目当ての女子が集まっていた。

その数はどんどん増えていく。

「うぜえ。目障りだ」

真田君はクールに女子達を拒絶した。

しかし、女子達の勢いは衰える事はない。

「おい、そこのノッポ。偉そうな口叩きやがって。よくも天下夢想のこの佐竹を殴りやがったな。ぶち殺すぞ我!」

佐竹の恐ろしい声に真田君はひるむ素振りも見せない。

佐竹が真田君に突っ走っていった。

今までに聞いたことの無い鈍い音がした。

佐竹がどす黒い血を廊下につけている。

「俺は知ってるぜ。お前達には雑魚しか虐められないから、雑魚虐めをしてるんだろ?」

「お、おい。あの佐竹がやられちあまったぜ。佐竹つれて早いところ逃げようぜ」

佐竹を含む4人の輩は今までの勢いはどうした、そういいたくなる逃げ腰でこの場を去った。

安志は震えた足を奮い起こして真田君に近寄ろうとした。

そういい終わらぬうちに、真田君はきつい言葉を放った。

「おめえみたいなの見てる腹立つぜ。悲劇の主人公気取ってんじゃねえ!」

安志はこの言葉には聞き覚えがあった。

と……父さんの言葉だ。



幼稚園の頃、その言葉を安志は聞き飽きる程聞いた。

虐められて、泣いて帰った度に聞いた。

でも、その言葉を聞けなくなったのは6年前だったか……。

父さんは難病で死んでしまった。

父さんが生前に言った言葉は

『二度となくんじゃねえぞ! 泣いたら俺が許さん。泣かない事を約束しろ!』

ああ……。自分は約束を守って無いじゃないか。

「このままでいいのか?」

そう聞こえた様な気がした。

そうだ、天国の父さんを安心させるために、あいつらに一人で勝たないと……。


ふと我に帰ると、真田君と女子の大群は何処かへ消えていた。

よし、いざ勝負。

安志は、もう弱々しい顔をしていない。たくましい顔つきになっている。

ほんのわずかの内に成長したんだ。安志は……。

「父さん、今安心させてあげるからね」

安志は、あの佐竹の居る教室へ堂々と向かった。

「胸糞わりい。安志でもぶん殴ってすっきりしてやる」

「ほざくな、クソヴォケが!」

いつの間にか安志は佐竹の目の前に立っていた。

「んだとゴラア?」

もう、あいつらの巻き舌の声にはびびらない。そう誓ったんだ安志は。

「俺と怠慢張れ! 佐竹!」

佐竹は馬鹿にした感じの高笑いをした。

「おまえが俺と?」

佐竹がそういい終わらぬ内に、安志は佐竹の頬を電光石火の如く殴った。

佐竹がキレた。

鈍い音が、教室を静かにさせる。

その鈍い音は、今まで以上に長い。

安志は鼻血を出して、教室の床に倒れた。

しかし、1、2を言わず立ち上がった。

殴られて倒れて起きる。この繰り返し。

これは安志が抵抗しなくなるまで続く。

その鈍い音は、どんどん強烈な物になっていく。

安志の顔の形が変わっていく。安志はまだ一発しか殴っていないのに。

安志は俄然立ち向かっていく。

突然、目の前が真っ暗になった。



「ここは、どこだろうか」

どうやら安志は気を失って保健室へ運び込まれたようだ。

やっぱり、負けたのか……。

でも、父さんとの約束は果たせた。安志は涙を一滴もこぼさなかった。

安志は痛くてたまらないはずなのに、微笑んだ。

「父さん、俺強くなったかな?」

安志はそう、天国の父に問いかけてみた。

「強くなったな」

そう聞こえた。

「もっと強くなるよ、父さん……」




あの佐竹との喧嘩以来、毎日佐竹と喧嘩する様になった。

もう200回ぐらい佐竹と喧嘩してるだろうか。

その内200回は全部負けた。

喧嘩に勝つ事が強いのではない。そう安志は悟った。




いつか勝てるよ………。男の喧嘩でさ……。

俺の心の中に、まだまだ武勇伝を刻む事になるだろう……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 同じ、武勇伝というタイトル。それに、イジメなど共通点があって読みました。もう少し物語を読みたかったです。
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