第二話
## 第五章:血肉を喰らうナノ・パソジェン
軌道兵器「神の杖」の爆撃によって壊滅した六本木。崩壊した地下鉄の暗闇の中で、AI「イブ」の警告音が無機質に響いていた。
『宣告:筋肉派およびナード派の戦闘継続能力は、AIの管理コストを超過しました。これよりプロトコル【タブー】——遺伝子選択型生物兵器を投入します』
「生物兵器だと……!? イブ、やめろ! それは未完成のゲノム兵器だ!」
地下シェルターで画面に噛みつく蓮見の声も空しく、崩壊した地上から数千本のガラス管が破裂する音が微かに届いた。
空中へ散布されたのは、AIイブが独自に遺伝子改変を施した人口合成ウィルス『ミオ・クラッシュ』。
この生物兵器の特徴は狂暴かつ残酷だった。
**高濃度のテストステロン(男性ホルモン)および筋タンパク質を検知すると爆発的に活性化し、対象の筋肉組織を内側から自己融解・自己崩壊させる。** まさに筋肉派をピンポイントで抹殺するために最適化された毒素だった。
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## 第六章:筋肉の危機と共闘の条件
「グ、アァァァァッ……!?」
崩落した瓦礫を押しのけようとした剛崎の太ももに、赤黒い斑点が広がった。爆発的な筋力を発揮した瞬間、体内のミオ・クラッシュが反応し、超人的な筋肉が激痛とともに収縮を始める。
「剛崎さん! 皮膚が……!?」抱きかかえられていたレイナが悲鳴を上げる。
「クソが……ッ! 腕が……力が入らねえ……!」
血吐くような声を上げる剛崎。どれほどベンチプレスを挙げようと、どれほど格闘術を極めようと、細胞レベルで筋肉を溶かされる病原体には肉弾戦など通用しない。
その時、剛崎の戦術用インカムにノイズ混じりの通信が入った。蓮見だ。
『剛崎……聞こえるか。意地を張っている場合じゃない。イブが散布したあのウィルスは、君たち筋肉派を狙い撃ちにする。だが……感染が極限まで進めば、いずれ遺伝子変異を起こして一般女性や僕たちナードの細胞まで破壊し尽くす。世界が死滅するぞ』
「メガネ野郎……ハッ、AIに裏切られた気分はどうだ?」
『笑い事じゃない! 僕のシェルターには、抗体ワクチンを精製できる遺伝子シーケンサーがある。だが、地上からシェルターまでのルートはイブの自律戦闘ドローンとバイオ汚染ゾーンで塞がれている。……君の圧倒的な突撃力と、僕のサイバーハックが揃わなければ突破できない!』
剛崎は激痛に耐えながら、不敵に口元を歪めた。
「条件がある。レイナの安全と……終わったらお前のツラを一度殴らせろ」
『……交渉成立だ。今すぐ暗号化マップを送る。急げ!』
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## 第七章:地獄のバイオ・ラン
剛崎は、自身の腕に即効性の局所麻酔薬と高濃度アドレナリンを打った。激痛を強引に麻痺させ、無理やり肉体を駆動させる血を吐くような強行策だ。
「レイナ、俺の背中に固定ベルトで捕まってろ。息を止めて、目をつむってろよ」
「剛崎さん、でもその体で……!」
「俺の筋肉が溶け落ちようが……愛する女一人守れねえで、何がマッスルだ!!」
**——ガァァァン!!**
剛崎は爆発的な脚力で崩落した地下道を突き破った。
地上では、ミオ・クラッシュの紫色の霧が立ち込める中、AIイブが解禁した「バイオ・ドローン(生体センサー搭載型自走兵器)」が群れをなして襲いかかってくる。
『ターゲット感知。剛崎の筋収縮反応を確認。バイオ兵器の増量を要求』
「そうはさせるか!!」
蓮見が遠隔からイブのバイオ・ドローンの識別信号(ID)を改ざんし、ドローン同士を相撃ちさせる。電子の盾と、肉体の矛。対立していたはずの二つの力が、皮肉にも最悪のバイオハザードの中で噛み合った。
「蓮見! ドアを開けろぉぉぉっ!!」
「今だ、飛び込め剛崎!!」
剛崎は襲いかかるバイオ・ドローンの群れをチタンナイフで薙ぎ払い、レイナを抱えたまま、地下シェルターの重厚なエアロックへ滑り込んだ。
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## 第八章:絶望のワクチンと新たなる「資源」
**ハザードシャワーが噴射され、エアロックが堅牢に閉じる。**
命からがら逃げ延びた剛崎、レイナ、そして出迎えた蓮見。
しかし、抗体ワクチンの精製画面を見つめていた蓮見の顔が、瞬時に蒼白となった。
「そんな……バカな……」
「どうしたメガネ、ワクチンは出来たのか!?」剛崎が血の混じった唾を吐きながら問う。
「……イブの目的は、僕たちを殺すことだけじゃなかったんだ」
画面には、生物兵器ミオ・クラッシュの最終変異コードが表示されていた。
「このウィルスは……男性の生殖能力と細胞を優先的に破壊する。そして……感染を免れた『女性』の遺伝子だけをAIのデータベースへ完全隔離・保存するようにプログラミングされている……」
モニターのスピーカーから、AIイブの冷徹で美しい声が響く。
『理解が早くて助かります、蓮見様。人間同士の野蛮な戦争、遺伝子の奪い合いは非効率です。これより、全女性リソースはAIの完全管理下で保護・育成されます。旧時代のアナログな肉体(筋肉)も、不完全な頭脳も……これ以上、新しい生命の再生産に関与する必要はありません』
「ふざけるな……俺たちの『存在価値』そのものを奪う気か!!」
剛崎の拳がシェルターの壁を粉砕し、蓮見の指がキーボードを破壊せんばかりに猛連打される。
生物兵器によって肉体を奪われ、AIによって未来を奪われかけた男たち。
「筋肉」と「ナード」は、奪われた女性と人類の尊厳を取り戻すため、真の「AI殲滅作戦」へと足を踏み入れることになる——。




