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近づいてきたのは、君のほう。〜過保護すぎる幼馴染は溺愛中〜

やり遂げたいのは、君のほう。

掲載日:2026/09/05

「近づいてきたのは、君のほう。―過保護すぎる幼馴染は溺愛中―」シリーズ第40弾です。(短編シリーズ)

王都防衛騎士団所属のノインと、村娘オルガ。

二人の人生に寄り添う形で進んでいく恋の物語を描いています。

※本編の時間軸は「限界を求めるのは、君のほう。」の後の話です。


「わかりました。では、条件を出します」

「……またぁ?」


 そもそも、もっとできるのに隠してるノインが悪いと思うんだけど。


 仕事から帰ってきたノインが、夕飯の時に決意をしたように言い出した。


「守れないなら、やりません」

「わかった」

「まず、次の日が休みであること」

「休み? じゃあ明日がいいかな」

「昨日したのに懲りてないんですか!?」

「今日休んだもん。大丈夫だよ」


 今日はしないって言ったのはノインなんだし。


 ノインは頭痛でも堪えるような渋い表情をしてから、小さく息を吐いた。


「次に、水分補給を必ずおこなうこと」

「水差し二つじゃ足りないの?」

「足りないと思います」


 そうなの!?


「喉が渇いてなくても飲んでください」

「わかった」

「それから、必ず休憩を挟みます」

「……なんで?」

「体の回復が追いつきません」

「?? ノインは大丈夫でしょ?」

「大丈夫ではありません」


 間を置かずに返された言葉に、オルガはぱちぱちと瞬きをする。


「そうなの?」

「そうです」


 短く言い切ってから、少しだけ視線を逸らされる。


「ですから、休みます」

「…………」


 妙なものが胸の奥に広がる。

 嬉しいのと、奇妙な、充足感のようなもの。


(???)


 よくわからないけど、オルガは「そっか」と小さく頷く。


「そして」


 ノインの声が、少しだけ低くなる。


「少しでも異常を感じたら、その時点でやめます」

「異常?」

「痛み、違和感、気分の悪さ。なんでもです」

「大袈裟だなあ」

「大袈裟ではありません」


 ぴしゃりと言い切られた。


 そのまま、静かにノインは続けた。


「君の体が最優先です」

「…………」


 それを優先するなと言っているのに。


「それ」


 声に怒りが滲んだ。


「いま言うの」

「?」

「手加減せずに何回できるか試そう、って……言ったよね」


 ノインの表情が微かに強張る。


「……言いました」

「私を言い訳に使わないで」


 自分の声とは思えないほどに、冷えたそれ。


 体の奥底から出てくる強烈な感情が、そのまま声と言葉に乗っている。


 生まれて初めての、感情だ。


 ノインの顔色が一気に悪くなった。


「私のことを優先してやめるなら、ノインは嘘をつくってこと?」


 じゃあ。


「最初からやるなんて言わないで」


 ゆるく口を開閉し、ノインが視線を落とした。


 静まった居間の、いつもは暖かな夕食時間が完全に凍りついている。


 唇を引き結び、ノインが言う。


「……撤回しません」

「……そう」

「やると、言いました」

「そうだね」


 それで? とばかりにオルガは静かに見つめる。


 ノインは冷汗をかいているのか、重い空気を纏っていた。


「できます」


 …………。


「手加減は、しません」


 じっとオルガがノインを見た。顔を上げたノインの瞳を確認して、「そっか」と呟く。


「他の条件は?」

「……異常を感じたらすぐに中断すること、です」

「…………」


 ふーん……。


「以上です」

「わかった」


 にっこりと笑ってそう言ったのに、ノインが喉をくっ、と鳴らしてから両手で顔を覆った。


「???」

「…………こわ、かった……」


 ? 泣いてる?

 なんで?


「どうしたの?」


 涙を拭うノインは呼吸を整えていた。


「す、みません……」

「? べつに謝ることないでしょ? 最初に言った通りのことをするだけなんだし」


 あ。


「したくなくなった?」

「いいえ、君に約束をしました。やり遂げます」


 そんなオーバーな……。


「間違えれば、前の『その他大勢』に戻るところだった……危なかった……」

「ん?」


 なんか言った?


「……いえ、君がこれほど怒ったのが初めてで、驚いただけです」

「あー……。うん、私もびっくりした。

 なんでこんなに怒ったのかなぁ」

「…………俺が特別扱いになっているから、感情を向けてきたんですよ」


 またぼそぼそ言ってる……。


「あ、でもね、ちゃんと理由があるんだよ?」

「理由……?」

「こんなこと、今しかできないって思うっていうか。

 ノインも私も、若いでしょ一応……た、体力があるうちに多少の無茶をするというか……年齢を重ねるとできないこと増えるじゃない? たぶん。

 今できそうなら、今のうちにやっておいたほうがいいかなって……へへ、へへへ……」


 軽く目を丸くしているノインがなにか腑に落ちたような表情をした。


「……なるほど」

「んん?」

「君の言う通りだなと思っただけです。

 誕生日がくれば、俺たちは二十歳になる。十九歳の俺たちには二度と戻れない」

「そうだよ?」


 と言っても、半年以上先のことだけど。


 ノインはまだなにか考えているようだった。


***


 体が、重い。


 動かそうとしても、力が入らない。


 腕も、脚も、どこにあるのか少し曖昧で、ただ寝台に沈んでいる感覚だけが残っている。


 始まりは、いつもと変わらなかったように見えた。


 風呂上がりの熱が、まだ肌に残っているようなまま……寝室の扉は閉められ、外の気配がそこで遠ざかる。


 灯りを落とすことすら忘れているような中、腕を引かれて……気づけば背中には寝台の感触。


 逃がさない位置で、手首を押さえられていた。


 見落ろしてくる視線がいつもと違っていたことに、オルガは気づいた。


 始まりがあれば、終わりがあって。


 そして……オルガは、息を吸う。

 ゆっくりと、吐く。


 それだけで、胸の奥がじんわりと熱い。


(……なに、これ)


 ぼんやりと、そんなことを思っていた。


 疲れている、のはわかる。

 でも、それだけじゃない。


 今までにない感覚が、体の奥に残っている。


 じわじわと、消えないまま。


 オルガは目を閉じたまま、少しだけ眉を寄せた。


 変だ。


 今までと違う。


 今までと同じことをしているはずなのに、全然違った。


 思考が、うまくまとまらない。


 ただ、感覚だけが残る。


 熱い。

 重い。


 少しだけ、落ち着かない。


 なのに、どこか静かで。


(……さっきの)


 途中のことを思い出そうとして、やめる。

 うまく言葉にできない。


 でも、ひとつだけ、はっきりとしている。


 ノインが、いつもと違った。


 止まらなかった。

 確認もしなかった。

 ためらいもしなかった。

 ただ、まっすぐだった。


(…………)


 なんて言えばいいのか、わからない。


 オルガは小さく息を吐いた。


 まぶたの裏が、じんわりと明るい


 意識はあるのに、体がついてこない。


 指先を動かそうとして、やめる。


 面倒だ。


 このままでいい。


 ふと、隣の気配を感じる。


 ノインだ。


 動いていない。

 でも、起きている。


 なんとなく、わかる。


 オルガは目を開けずに、そのまま小さく息を吸う。


(…………これで、終わりかな)


 たぶん、そう。


(変……)


 意味は、よくわからない。


 だけど、うまく言葉での表現がむずかしい。


 だから、変。


 途中から身体がおかしくなった。


 呼吸制御ができなくなった。一瞬、思考が途切れてた。身体が勝手に反応する。


 止めようとしても、止まらなくて、いつもみたいに構えられなくなった。


 なんとかいつものように身を守ろうと試みたけど、できなくて。


 とうとう抵抗をやめて、身体の反応に任せて……思考が追いつかなくなった。


 嫌じゃない。

 そう、嫌じゃない。


 抵抗をやめてからは反応が深くなった。


 いつもみたいに、息を止めたり、歯を食いしばったり、抑えようと……できなくなったから。


 同じ刺激のはずなのに反応が大きくなって、ぼーっとなる時間が増えた。


 変だけど、ただの『変』じゃなかった。


 届きそうで、届かないそのなにかは……結局、わからなかった。


 今までと違うなにかが、確かにあって。

 それが、体の奥に残っている。


 オルガはそのまま、ゆっくりと呼吸を繰り返す。


 静かな夜の中で、二人分の呼吸だけが重なる。


***


 寝室の中は、静かだった。

 昼過ぎに一度起きたが。


「動けない。無理」


 と、また眠りに落ちたことは覚えている。


 今は夕方くらい?


 カーテンの隙間から差し込む光が、床に細く伸びている。


「………………」


 寝台の上で、仰向けのままのオルガは、小さく吹き出す。


 いやもうこれ、無理だって。


 腰は重いし、太もももだるい。

 下腹部は、なんとなく熱をもっているような感覚が続いてる。


(……あぁ)


 なるほど。


(ノインが言ってた、起き上がれないとかっていうの……これかぁ)


 休憩をたくさん挟んで……すごく時間をかけていた……気がする。


(うぅー……喉かわいた……おなかすいた……)


 自業自得とはいえ、こんな状態の自分はおもしろすぎる。


 そう思っていると、扉が静かに開いた。


 水差しと軽い食事を盆に乗せて入ってきた……ノインだった。


「???」


 一瞬理解できなかった。


「起きましたか」

「…………」


 ちょっと待って。


(私はこんな状態なのに、ノインはふつうに動いてるんだけど)


 視線だけ動かしていると、ノインが寝台の横に来て様子をうかがってきた。


「…………ねえ」

「はい?」

「結局何回したの? けっこう時間かかったよね?」

「………………」


 ノインは少しだけ目を細めて、軽く息を吐いた。


 ぼそっと、言われる。


 え。


 倍!?


「…………もっとできた?」

「勘弁してください。無理です」


 重い息を吐き出して、ノインはどこか眠そうに目を瞬かせる。


「ぶふっ」


 オルガは吹き出してから、「いった」と続けた。


「はぁ……ふふっ」

「少し水を飲んでください」


 起き上がるのを手伝われながら、差し出された水差しにゆっくりと口をつける。

 冷たい水が喉を通っていくのさえもおかしくて、「ぐぐっ」と笑う。


 そのまま盆を脇に置いて、ノインは椅子に腰掛ける。


「もしかして、忘れてるんですか?」

「さ、最初のほうは、ちゃんと憶えてるよ」


 そう、憶えている。


 ノインに押し倒されて、いつもより強い力だったことは印象に残っている。


 ノインは脚と、腕を組んでじっとこちらを見つめている。


「なんか……三回目? くらいかなぁ……変じゃなかった?」

「変?」

「んー、四回目? からかも」

「……喋る余裕はなかったので」

「私の体もなんか変になっていったっていうか……」


 うーん、どう説明すればいいんだろう。


「体が勝手に反応する? 感じ? どうやってもなんか、すごくこう、びくっとして、それが続けてくるっていうか」

「……それはおそらく、自律神経の反応です」

「?」

「強い刺激や繰り返しで、体の反応が制御しきれなくなる状態です。

 意思とは関係なく、反応が優先されます」


 そうなんだ。


 そのナントカ神経で。


(私の体が反応してたのかな。うーん、よくわかんないや)


「ノインは元気だね」

「……いえ、睡眠不足で思考が鈍いですし、集中力が低下してます」


 あんまりそうは見えないけど……。


「夕方以降、筋肉の疲労と倦怠感が出ています」

「えっ、ちゃんと疲れてるの!?」

「……疲れてます」


 なんだ。


 もしかして、そこに座ったまま動けないってことはないよね?


「ご、ごめんね」

「? なにがです」

「そんなに頑張ってくれるとは思ってなくて……」

「…………君がやめようって言わないから意地でやりました」


 は?


「ノインがやめないから私も頑張ったんだけど!?」

「……え?」

「えぇ……」


 視線が合ってから……二人で吹き出す。


「も、もう絶対やらない……ぶくく」

「はい……こんなのは、一度で十分です」


 部屋の中で、二人でしばらくくすくすと笑い合う。


 ノインはひとしきり笑ったあと、小さく言う。


「君の提案は正しかったです」

「?」

「回数は多かったですが……後半はほぼ空というか……あれでは、まともな種にならなくて」

「えっ」


 なんだって!?


「ええええええ!? ご、ごめん!」

「いいえ。今の俺で限界までやったのは……正解です」

「そ、そう?」

「………………はい」


 ん?


 なんかにやにやしてない?


「俺は君が好きで、大切で、大事だから……優しくしたいし、宝物みたいにしたいんです」

「……それは、わかるけど……私は物じゃないんだから」


 大切にしまい込まれるような、そんな大層なものではないわけだし。


 本当に大袈裟というか。


「そうですね……半分は、俺の自己満足だと思い知りましたから」

「?」

「……ふ」


 ?? さっきからなに?


「なんでにやにやしてるの?」

「すみません……思い出し笑いのようなものです」

「???」


 そういえばちらちらこっち見て笑ってる……?


 小首を傾げてから上半身をゆっくり起き上がらせると、視線を動かして室内の壁にある鏡を見る。身支度用で、寝台の上からも見える位置にあるものだけ……ど。


 自分の首元をみて、オルガは一気に顔を赤くした。


(こ、れ……)


 ノインを軽く睨むように見た。


「……すみません。自制がきかなくて無意識に噛んでいたみたいで」

「……ノイン」


 今まで一回だって、こんなものつけたことなかったのに!


「ま、まあこれくらい……」

「すみません、全身にあります」


 ……は?


「いえ、キスマークが全身に。噛み痕はそれより少ないです」


 そういうこと聞いてるわけじゃないんだけど!


「ちょっとその……抑えのない状態の君が、……魅力が強過ぎて、俺が興奮してしまって」

「…………」

「あんなに乱れるとは思ってなくて……はぁ、気持ちよかったし、後半は我慢がまったくできず……」


 ……なんて?


「ちょっと待って、さっきからにやにやしてたの、私のこと思い出してたから?」

「……」

「視線を逸らさないで」

「そうです。いやらしくてかわいくて、危険すぎました……」


 な。


「なあああああああ!?」


 勢いよく動こうとして。


「いったああああああああああああああ!」


 すぐさま横になった。


「ちょっと待って。なに。いやらしい? かわいい? きけん?」

「はい」


 はい!?


「優しく丁寧にすればいいというものではないと、俺は学びました」

「ちょっとおおおおおおおお!?」


ここまで読んでくださってありがとうございます。

楽しんでいただけたら嬉しいです。

続きを読みたいと思っていただけたら、さらに嬉しいです。

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