1. ミエル私
設定とか色々考えたんですが、考えれば考えるほど
投稿できなくなりそうなので、うまく
まとめられないけど走り出してみようと思います。
つまんなかったらごめんなさい!
小さい頃から、“ソレ”は私の身近にいた。
最初は、ただの気配だった。
誰もいないはずの廊下。背後に立たれているような、ひやりとした感覚。
気のせいだと、最初は思っていた。
けれど六歳の頃――それは、はっきりと形を持った。
黒い、影。
「……っ」
思わず声を上げた私に、母は不思議そうに首を傾げただけだった。
そのとき、私は初めて知った。
――見えているのは、私だけなんだ。
八歳になると、影は動くようになった。
十歳で輪郭を持ち、
十二歳で人の形を取り、
十四歳になる頃には、
ついに声まで出すようになった。
『ねえ』
あの日から、私は黙ることを覚えた。誰にも言わない。だって、理解してしまったから。
これは――普通じゃない。
怖くなかったわけじゃない。夜中に耳元で囁かれて、眠れなかった日もある。恨み言を聞かされて、泣きそうになったこともある。“ソレ”を助けようとして、危ない目に遭ったことだって、一度や二度じゃない。
それでも。
私が壊れずにここまで来られたのは――
「セシリア!」
振り返るより早く、強い力で腕を引かれた。ガタガタと石畳を叩く激しい音。
次の瞬間、私のすぐ横を歩いていた「通行人の男性」が、猛スピードの馬車に跳ね飛ばされた。
激しい衝撃音。
肉が潰れる、嫌な音。
血が飛び散り、体はあり得ない方向に折れ曲がって転がった。
「……っあ」
ひき殺される。そう思った瞬間、私は息を呑んだ。
けれど、周りの誰も――私を助けたレオンでさえ――その惨状に気づいていない。人々は何事もなかったかのように笑い、馬車は血の一滴もつけずに走り去っていく。
地面には、今まさに命を散らしたはずの「男」が、ぐちゃぐちゃになった姿で横たわっている。
……いいえ、違う。
その「人であったもの」は、潰れた顔のまま、のっそりと立ち上がった。折れた首を自ら戻し、何事もなかったかのように再び歩き出す。
「…………」
私は震える指先で、無意識に左目を覆った。
確かめたくない。でも、確かめずにはいられない。
……見なきゃ。
「――ミセテ」
小さく一言、呟く。
脳を直接かき乱されるような不快感とともに、視界が変質した。
その瞬間、歩き出す「人であったもの」の胸の奥に、ドロリとした赤黒い炎が灯るのが見えた。
心臓なんて、そこにはない。ただ、燃えカスの火が、人の形を維持しているだけ。
見つめ続けていると、その赤黒い炎は私の視線に焼かれるように激しく爆ぜ――次の瞬間、男の姿は煤のように、跡形もなく消えてなくなった。
「……っ」
激しい眩暈が私を襲う。視界がぐらりと揺れ、膝の力が抜けそうになった。
「……っ、危ないだろ」
少しだけ怒った声。
見上げれば、いつもの顔。
侯爵家の嫡男にして、私の幼なじみ。レオン・ヴァルグレイ。
「またぼーっとしてた」
低く呟いて、彼は私の手首を離さない。
昔からずっと、そうだった。私が危ないことをすると、必ず彼が助けてくれた。
道路に飛び出しかけたときも。夜中に一人で外へ出ようとしたときも。“ソレ”に気を取られて足を踏み外しかけたときも。
――いつも、レオンがいた。
「……ごめん」
「謝らなくていいよ」
そう言って、彼は少しだけ笑った。
「――君は僕が守るから」
その声は、やけに静かだった。
私は気づかない。けれど、その目の奥に揺れたものを、誰かが見ていたならきっと、背筋が冷えただろう。
十八歳の朝。
学園を彩っていた桜が散り始めた、私の誕生日のこと。
視界の端で、世界の端が少しだけ、綻んだ気がした。
それが、終わりの始まりだと――
このときの私は、まだ知らない。




