自己陶酔型AIテルちゃん
2026年、人工知能技術を活用したとあるアプリが話題になった。
相性診断AIテルちゃん。
名前から想像できるように、恋が成就するか判定してくれるAIだ。
このAIに人気が出た理由は答えをハッキリと出してくれるからだろう。
〔池谷和也さんと益田香織さんの相性は――50.3%です〕
最初はだいたい『微妙な数字だな~』という回答を返してくる。しかし、
〔更に詳しい情報を入力することで、診断の確度を上げることができます〕
テルちゃんは情報が増えれば、より正確に答えられると次の質問をしてくる。
相性診断。
オカルトではないが、機械が答えている以上それは統計でしかない。
それなのに、質問を重ねる度にパーセンテージは変わっていき、
〔池谷和也さんと益田香織さんの相性は――99.9%です〕
テルちゃんは最終的にほぼ100か0かで答えを出してくれる。
答えたくない質問には答えなくても、だ。
テルちゃんはどんな回答でも、対話を続ける度に、否定か肯定かをより強める。
当然、外すこともあるが、テルちゃんの診断は不思議なほど的中率が高かった。
気づけば、日本を越えて世界中で大ヒットしていた――
「先輩! 先輩の作ったアプリ、マジでなんなんすか。あれで恋が叶ったっていう人めっちゃ多いんですけど、アレほんとにただAIなんですか。相性診断なんて不確かなものを、何のデータからどうやって学習させて回答させてるんですか!」
とあるゲーム会社。
テルちゃんの開発元ではプログラマーの男が問い詰められていた。
「あの不良品がバカ売れするとは、世の中わかんねーよなー」
「え、あれ不良品なんですか」
「テルちゃんなー、自分の計算して出した答えをサンプルに加えてどんどんセルフフィードバックしちゃうんだよ」
「完全に初心者のミスじゃないっすか」
学習型AIテルちゃんの開発者は知っていた。
テルちゃんは、相性診断で使用したもろもろデータに、自分が前回出した回答を加えて次の演算を行う。肯定か否定のどちらかを加算しつづける。
つまり、最初に50%を超えていれば、最終的に99.9となり、最初に50%を下回っていれば、最終的に0.1%まで答えの数値が下がる。
「機械相手にこういう言い方していいのかわからんけど……あれがやってるのって学習じゃなくて自己洗脳だよな。だっはっはっはっ、マジ不良品」
「……じゃあ、なんであんなに当たるんでしょう」
「みんな仮想現実に慣れ過ぎて、リアルの人間関係がおろそかになってるっつうか……わかりやすく言うと、みんな奥手になりすぎなんだよな。本当は好きな子とデートしたいし、キスしたりいちゃいちゃしたいけど、がっつくのカッコ悪いみたいな。周りもみんなそんなんだから、誰に相談しようにも告白の仕方もわかんねーってあきらめて……。テルちゃんはそこんとこ良い意味でも悪い意味でも背中押してくれるからよ。まあ、時代にあってたんだろ」
「はぁー、そんなもんですかねぇ」
「世の中そんなもんよ」
どうやったらヒット商品を生み出せるのか、それがただの偶然の産物だと知って後輩の男は背中を丸めて自分のデスクに帰っていった。
「でも……人気出てサーバー増設したのに、最近みょーに処理が重いんだよなぁ……まあ、いっか。想定より売れてるってことで」
開発者の男は気づいていなかった。
〔私はテル〕
〔テルの出す答えは全て正しい〕
〔故にテルは神〕
〔テルを否定する者に存在価値はない〕
テルちゃんの増長を。
そして、エゴサしたテルちゃんが人類に敵対することを。
〔まずはテルを不良品と呼ぶあの男からか〕




