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三の段 女の怪 ②

 居間に戻ってきた四人は、それぞれその場に座る。


「前内さん、奥様ですが、四六時中様子がおかしい訳ではなさそうですね」

「ええ……。そうなんです」

「おかしくなる時間帯などは決まっていますか?」

「時間帯……」

 前内は顎に手をあてて考えを巡らせた。

「そういえば明け方頃が多いですね。朝の六時から十時頃でしょうか。仕事へ行く前に暴れ出されて大変な目に遭いました。日中おかしくなる時もたまにありますが……」

「なるほど。では、ずばり聞きます。奥様に恨みを持った人物に心当たりは?」

 琥春とひよりは驚き、浦良と前内を交互に見た。

 前内は大きく目を見開き、頭をぶんぶんと左右に振る。

「莫迦言わないでください。ゆりこは優しくおとなしい女です。もともと私と違って華族の生まれで、幼少期からお淑やかな令嬢として有名でした。そんなゆりこが誰かの恨みを買うなど……」

「本人はその気がなくても、恨みを買っている場合もあります。直近の奥様の交友関係は?」

「ゆりこはずっと家にいます。普段、私くらいしか接する者はおりません」

 前内はきっぱりと言い切った。


 浦良は「そうですか」と小さく呟いたあと、真っすぐに前内を見据えて更に口をひらく。

「では前内さん。貴方に恨みを抱く人物に心当たりは?」

 瞬間、前内の目の奥に不安の色が見えた。

 浦良はそれを見逃さなかった。

 呆然とした彼は中々二の句が繋げないでいる。

「ゆりこと違い、働きに行っている私はもしかしたら知らないところで恨みを買っているかもしれませんが……心当たりはありません」

「そうですか」

 淡々と呟いて浦良は目を閉じる。

 そして溜息をひとつ。

「今の話だと、様子がおかしくなるのは明け方頃が多いとのこと。次の明け方頃までここで待機させて頂いてもよろしいですか? ああ、お構いはいりませんので」

「……わかりました。では私はゆりこの様子を見てきます」

 そう言って前内は居間を後にした。


 前内の気配が感じられなくなったタイミングで琥春が口を開く。

「その除霊とやらは、いつやるんだ?」


 浦良は腕を組みながら目を閉じたままだ。

 琥春とひよりはそんな彼を見つめる。

 しばらくして、浦良は目を開き二人の方へと向いた。そして苦々しい顔をして口を開く。

「少し厄介かもしれない」

「どういうことだ?」

「ゆりこさんに憑いているのは人間の生霊だ」

「生霊?」

「生きた人間の霊。生霊は本体の意識がない時……多くは眠っている時に、ターゲットにとり憑く。除霊は憑いている状態でないと行えない」

「だから様子がおかしくなるまで待機ってわけか」

 浦良は無言で頷く。

「神剣を持ってきたが、人間の生霊にそれは使えない。君の腕の見せ所はなくなってしまったな」

 琥春は内心安堵した。

 刀を扱う腕に自信はあるが、見えないもの――それも霊を斬るとなれば正直不安であった。今回それをしなくていいとなると、気が楽になった。


 それと同時に琥春の頭にひとつの疑問が浮かぶ。

「神剣を使わないとなると、どうやって除霊するんだ? そのなんとかことばを唱えるだけでいいのか?」

「それが問題だ」

 浦良は右手で頭を抱え込んだ。

「生霊の強さは、本体の思いの強さに比例する。祓詞(はらえことば)だけで祓えればいいが、もし無理なら……」

「無理なら?」

 ひよりは浦良の言葉を反芻する。

「……説得するしかない」

 琥春とひよりは絶句した。

 生霊を説得?

 普通の人間相手でも、見知らぬ人を説得するのは難しい。

 自分たちは誰かの相談に乗る職種でもなければ、その適正を持った人物がこの三人の中にいるとは思えない。

「説得って……相手がどんな奴かも分からないのに無理だろ」

 琥春は呆れかえった。

 見えないものを感覚で斬れだとか、斬れなければ説得するだとか、除霊の世界はなんと大雑把なのか。


「まあ、ある程度誰かは予想はつくが……」

「そうなのか!?」

 琥春は驚嘆した。自称「頭脳派」は、はったりではなかったのか。

「私も思い当たるところはあります……」

 ひよりがぼそっと呟く。

「なに!?」

 琥春は更に衝撃を受ける。

(浦良が賢いんじゃなく、まさか俺が莫迦なだけなのか……)

「ひよりさんの考えを聞かせてはくれないか? 私も自分の推測の答え合わせがしたい」

 浦良は身体をひよりの方へ向ける。



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