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序章

【登場人物】

琥春こはる…20歳。短気だが生真面目で硬派な性格。元暗殺者で高い身体能力を持つ青年。

さかき 浦良うらら…27歳。高慢で潔癖症な神職者。内務省からの依頼で憑き物を落とす仕事をしている。冷淡に見えて面倒見がいい。

十和とわひより…18歳。少し天然気味で一生懸命な性格。帝大を目指す弟の学費を稼ぐため、職業婦人の道を選んだ。気弱に見えて有能な才女。


 ぐうううううううう。


 お腹の虫が轟音で鳴り響く。


 そこまで自己主張しなくても分かってるよ、と琥春(こはる)は心の中で毒づいた。

 ここ三日間何も食べていない。そろそろ限界だ。


 空腹のまま、当てもなく彷徨う琥春を嘲笑うかのように、小雨が降ってきた。

 植物の実りを促す春時雨だ。


(これ、舐めたら美味いのかな……)

 朦朧とした意識の中でぼんやりとそんなことを思った瞬間、急に頭がグラグラした。視界が真っ白になり、そのまま地面へと倒れ込む。


 まさか、自分の死に際が餓死とは笑える。

 暗殺業をしていた琥春は、闘いの中で命を落とすことはあっても、餓死で死ぬことは予想していなかった。

 ――冗談キツイって。

 琥春は物心つく頃から孤児だった。その後、闇組織に売り飛ばされ、幼少期から暗殺の術を叩き込まれ、暗殺者として生きてきた。

 だが、三年前に組織は解体。

 琥春は路頭に迷ってしまうこととなった。

 それから、流浪人といえば聞こえはいいが、住まう家もなければ職につくこともできず、ふらふらとその日暮らしの毎日を送っていた。

 暗殺の訓練や任務は過酷なものであったが、組織での生活は衣食住が保証されていたし、忙しい日々だったので、自分が幸か不幸かなんて考えたことはなかった。

 だが、死を目前にした今、果たして自分の人生は幸せだったのかと疑問が浮かぶ。

 俺はまだ死にたくない――。


 死を受け入れたくなくて、足掻くように右手を伸ばした。


 ひたひた、ひたひた。

 静かな足音がどこからか聞こえる。

 ひたひた、ひたひた。

 その音は僅かだが、徐々に輪郭を帯びるように、はっきりと聞こえてきた。

 誰かが近づいて来ているのか。

 

 音が止んだ。

 倒れ込んだまま、琥春は前方を見る。

 草履をはいた何者かの足元が視界に入った。


 足元の主を見上げる。


 そこには、枯野(かれの)色の髪を無造作に垂れ流した美しい御仁が立っていた。

 淡い髪色と色白の肌からは、妖しく妖艶な雰囲気が漂い、端正な切れ長の瞳で、こちらを見降ろしている。


 天界から遣わされた天女だろうか。

 自分はどうせ地獄行だと思っていた琥春は、天女が迎えに来てくれたことで、少しだけ安堵した。

 最後の光景が美しい天女だったのは幸いだが、どうせなら、最後には初恋の人を目に焼き付けたまま逝きたかった。

 そう思いながら、琥春は意識を失った。




挿絵(By みてみん)


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