5ー2
イザベランカ……イザベラはエフィネアと同じ十八歳ですらりと背の高い女性だった。腰まで伸びる金髪は癖があるのか途中から大きく波打ち、背中全体に広がっている。ワインレッドの半袖のドレスは部分的に金の糸で刺繍模様が施されており、スカートは広がらずにすとんと落ちて、太ももには歩きやすいようにか大胆にスリットが入っていた。同色のヒールを履く姿はまるで劇団員のトップ女優のようにも見えた。
つり上がった目と長いまつ毛、細い眉から、注がれた視線も合わせてエフィネアが話していた通りきつい印象を受けた。見下されているというよりは何か喧嘩を売られているような感じだが……。イザベラが言うには待ちきれなくてわざわざ出迎えにきたらしかったが、そんな彼女の案内で私達はラズベル公爵邸ではなく、なぜか大講堂内の控え室が並ぶ廊下を静々と歩いていた。
イザベラを先頭に上質な絨毯を踏み締める。彼女の使用人もエフィネアに馬車の誘導を頼まれたレイもこの場にはおらず、私達は五人だけであった。ガラス窓から差し込む真昼の陽光に目をすがめると、後ろを歩いていたカロンが近寄ってきた。
「アリスちゃん、ここで歌うはずだったの?」
小さな声で耳打ちしてくる。彼女は中央に来ること自体初めてのようなので、すべてを興味深そうにしている様子が微笑ましい。
「うん……。でも舞台に上がる前に帰っちゃったから、私もこの廊下までしか入ったことないんだ」
「そうなんだ……。そういえば、今日はキョウヤくんは来てないんだね」
純粋な疑問に彼のことを思い浮かべる。リンドバーグからロランドに戻り、髪留めを褒められてからここ一週間、キョウヤは用事があると突然出かけたきりいまだに帰ってきていなかった。
「キョウヤさんは用事があるらしくてしばらく出かけているの。それじゃなくても招かれたのは私達だけみたいだしね」
それでもキョウヤなら俺も行こうかな! と観光ついでについてきたような気もするが。いままでも突然出かけて長期間帰ってこないことはそれなりにあったようなので、心配するようなことではないみたいだけれど……。
「会いたかったから少し残念。でもまた今度会えるよね」
「うん、もちろん」
幼子のように笑うカロンに私も微笑み返す。大会に向けて練習を始めたらキョウヤはまた顔を出してくれるだろう。会えるときがあれば会いたいと思うくらいにはカロンはキョウヤに懐いたようで、それも彼の人徳だと感じた。
しかし、用事とは一体何なのだろう。キョウヤの仕事……とは浮島の代弁者で代理人というものなのだろうが、その仕事をしている姿を見たことがないのでいまいち想像できない。エフィネアと政治的な話し合いをしていたときの様子がそれなのなら普段と印象ががらりと変わってかっこいいと思うけれど、ハミルトンで笑顔を振り撒きながら配膳している姿の方が楽しそうで似合っていると思った。
長い廊下を静かに歩きながらそんなことを考えて、さらりとかっこいいという感想が出る自分にびっくりして一人で慌てる。小さく頭を振って思考を飛ばしながら、無駄に速くなり始めた心臓をなんとか落ち着かせた。
そうして私達は大講堂の舞台裏へと到着する。イザベラに連れられ二ヶ月前に立つはずだった、そして一ヶ月後に立つ予定の舞台の上に、流れのまま私は足を踏み入れた。
今日は何の行事も興行も行われておらず、客席には誰もいなかった。
「す、すごーい……!」
けれどカロンの驚きと同じ気持ちで、そのとてつもない広さに圧倒された。
一人掛けの座席が左端から右端までずらりと並び、出入り口の扉まで段々上に高くなっている。二階席もあり、曲線となった左右の天井際はガラス張りで、太陽の光が講堂内を眩しいくらいに照らし出していた。人一人客席にはいないのに、その席数を見ただけで言葉を飲み込むほどだった。
そしてもう一つ驚いたのは舞台が二段となっていたことである。後方の舞台は私の胸元くらいまでの高さがあり、おそらく歌踊大会の際はこちらで奏者や楽団が演奏をするのだろうと思われた。前方の隅にはよく手入れをされているのだろう、触れるのも躊躇ってしまうように表面が輝く大きなグランドピアノが置かれている。イザベラは舞台の真ん中まで足を進めるとようやくこちらを振り返り、恭しく腰を曲げた。
「アリスさん。この度は先の歌踊大会で不手際がありましてご迷惑をおかけしたこと、父であるラズベル公爵に代わりまして深くお詫び申し上げますわ」
美しい金の髪を流しての謝罪に私は身をすくませる。予想した通り大会についての話だったが、このように大仰に謝られるとこちらの方が恐れ多くなりそうだった。何せ裏で父親がやっていたことで私自身が直接関わったわけではないのだ。
「既にご存じかと思いますが、王家の方々のご判断により、来月こちらの場所で再度歌踊大会が開催されることとなりました。少々仕様は変更されますが、誠心誠意を持って準備を行っている最中ですので、どうぞアリスさんも安心されてご参加いただければと思います」
顔を上げて艶やかに微笑するが、やはり瞳は違っているように見えた。謝罪にも温度がなく義務的に聞こえる。いいのだが、それだけならば手紙でよかったはずなので、他に何の用事があるのだろうと思うと少し離れた場所にいたエフィネアが口を開いた。
「本来でしたらこのような場所でなくあなたの家で、責任者である公爵様が直接頭を下げるべきかと思いましたが」
「お父様はアルフェン伯爵様に既に手紙でご説明しましたので。妹君のアリスさんにはあたくしが代理に、と考えたまでのこと。彼女はこの間の大会に出場できなかったのですし、こうして一度舞台に足を運ぶことができれば喜んでくださるかと思っただけなのですけれど?」
「まぁ、それはいいとしまして……。そうしましたら不正を行ったのは、金銭目的による雇用人の独断ということで正しいのですね?」
「その通りですわ、手紙でお伝えしていますわよね」
「本当に、そうなのですね?」
常に微笑みを絶やさないエフィネアがまっすぐな目つきでイザベラを見据える。私達三人は彼女が何を気にしているのか分からずに、おそらくは同じ気持ちで横顔を見つめた。
イザベラも同様で、なぜ念押しして聞かれているのか分からないようだった。しかしそのせいでか明らかに雰囲気に苛立ちが混じる。
「そうだと言っています。何なのです?」
「……いいえ、少々気にかかっただけです。気を悪くさせてしまったのなら謝りますね」
ごめんなさい、と手で口元を隠して笑うエフィネアは普段通りに戻っていた。結局何のことか分からなかったが、彼女のおかげで先程よりも空気が悪くなったのは確かである。カロンがルチアの背に隠れるように移動すると、切り替えるようにイザベラが小さく咳払いをした。
「……それはともかくとして、あたくしがアリスさんをわざわざお呼びしたのは直接お話したいことがあったからですわ。なぜだかお一人では来られなかったようですけれど、まぁちょうど良いかもしれません」
ちょうど良いとはどういうことだろうか。先程よりも丁寧さが抜けたイザベラの言葉は続く。
「来月の大会、身分を問わず誰でも参加できるようになりましたけれど、アリスさんだけには正式な審査を行うつもりでいるのですわ」
「えっ……審査、ですか?」
「ええ、二ヶ月前の大会で本来受けられるはずだった歌の審査を。もちろん踊りも含めてですけれど。良い成績となれば歌を職としていただくことも可能ですわ。中央の歌姫は現在あたくしですので、地方のいずれかに割り当てられると思いますが」
「そ、そのようにしていただけるのですか……って、え!?」
「「中央の歌姫?」」
ルチアとカロンの声が重なる。三人でエフィネアを見やると、とぼけたように小首を傾げられた。
「あら、お話しておりませんでした?」
「理由があって辞退せざるを得なかったことは分かりますけれど、ご自分が出場されるはずだった大会の結果をまさか知ろうともしていなかったなんて……」
イザベラが信じられないというように頬を引きつらせる。今回は出場者の実力が伴わず、良い成績を残した者は優勝した者一人だけだったという話はエフィネアから聞いていた。しかしその人物がイザベラだったとは確かにいま初めて知った。
「まぁ、よろしいでしょう……。そこで一つ、あなたにお尋ねたいことがあるのですわ」
彼女の目がすっと静かに細められる。
「当然、大会にはお一人で出場されるのですよね?」
「えっ……」
「あなたのためだけに審査会は開かれるのですから、どたなかと一緒に舞台に上がるなどということはいたしませんわよね? ……アルフェン様からお聞きしたことがありますわ、アリスさんは歌を職としたかったようで」
「……はい、その通りです」
「大会の受賞を目指してずっと練習をし続けてきたと。とても素晴らしいことだと思います。ですから、そちらの方々と共に舞台に立つ、などとはまさかおっしゃりませんでしょう」
「…………」
「重厚ながらも美しく壮大で、長年の伝統や歴史のあるこの国の歌ではなく、どこぞの国とも知れない幼稚で軽い意味の分からない歌を、この王都の大講堂で披露するなどあたくしは許されないと思っておりますので」
微笑はだんだんと解けていき、最後は有無を言わさぬ力がその言葉の中に含まれていた。隣のルチアが声を上げようとして、必死に押さえ込んだのが気配で分かる。
リンドバーグの孤児院で数度に渡り慰問舞台を行ったことで、運営をしているメレン公爵令嬢のエフィネアの存在もあり、近隣には私達のことが知れ渡っているようだった。イザベラはもしかするとその話をどこからか聞いたのかもしれなかったが、浮島の歌と私達が一から作り上げたものを幼稚で軽い意味の分からない歌と揶揄されて、黙っているわけにはいかなかった。
「……私が一人で出場したとしても、この国の歌は披露しません。元々そのつもりでしたので」
「……何ですって?」
「審査にかけていただけるのは本当に有り難いと感じています、ありがとうございます。けれど今回は身分による制限もなくなり、外国の方でも参加できる自由なものであると伺いましたので、四人で出場させていただきたく思っております」
「あんな……あんな子供のお遊びみたいな歌と踊りを? はしたなく素足を晒した服装で披露して、国の伝統的な大会で審査を受けられると言うの?」
「二ヶ月前までは確かに受賞して歌踊職人になることを一番に考えておりました。いまもそれは根本的には変わりません。ですが、自分が好きだと思うことを楽しんで披露したいとこの二ヶ月で思えるようになりましたので、私達は今回の大会でも浮島の歌を元に自分達で曲を作って披露しようと思っています。イザベラ様がおっしゃった子供のお遊びみたいな歌と踊りは孤児院の子供達が楽しんでもらえるようにと作ったものですから、そう感じられるのも無理はないかと思いますが」
遠回し的な嫌味は伝わったようで、イザベラがぐっと押し黙る。審査を受けさせてもらえることは本当に有り難いし感謝している。けれど出場する人物と内容に関してはあれこれ指図される謂れはない。
「イザベラ様のこの国の伝統的な歌を重んじる心は大変立派に感じますが、自由な形式で良い規則なのでしたら、自由に行わせていただけると嬉しく思います」
後腐れのないように私は深々と頭を下げる。大会で優勝して中央の歌姫となったイザベラのことだ、歌に関しては相当の実力があるのだろう。加えて実家は長年大会の運営を任されており、その娘となればもしかすると受賞しなければならないという大きなプレッシャーを抱えていたのかもしれない。自尊心の高い父親とその娘だ。王家にも近しいので伝統的な曲を重んじ大事にしてきた姿は容易に想像できた。
しんと場が静まり返る。ゆっくりと顔を上げるとしかし、イザベラはまったく納得していないようで綺麗な顔を大きく歪めていた。そんなに歌踊大会で浮島の歌を披露させたくないのか分からなかったが、彼女は突然グランドピアノの椅子に座ると鍵盤の蓋を開ける。指と爪先の位置を調整して唐突に奏で始めたのは、貴族であれば講師に一番に習うこの国の有名な伝統楽曲であった。イザベラが大きく息を吸う。
そうして発せられた声は、聴いた者すべてが即座に振り返り必死にその人物を探し出したくなるような、頭の中に直接響き渡るハイトーンだった。
ぶわっと腕に鳥肌が立ち、講堂内もその声量にじりじりと震えているような錯覚がする。建物内であるのに前方から強い風が吹きつけてくるような圧力を感じ、意識しないとまばたきと呼吸を忘れてしまいそうだった。
鍵盤に指を滑らせながら喉の奥から濁りなく出る高音は、歌姫として選ばれるのに相応しいものであった。この声で数々の伝統的な楽曲が披露されたならば、誰もが感嘆し賞賛して手を叩くだろうと思うほどには、私自身も息をのんで聴き惚れていた。
ふと、ピアノの音と歌唱が止む。誰かが詰まった息を吐く音が聞こえた。訪れた静寂は不思議なほど耳に痛く、誰も言葉を発することはできなかった。
「良い成績を残したいのならば、あたくしほどまでとはさすがに言いませんけれど、こちらに連なる歌声を持ち合わせていなくてはいけませんわよね?」
イザベラが椅子に腰かけたまま、息を切らした様子もなく見据えてくる。その口調には初めて見下すような声色が含まれ、鋭くなった目つきにも同様に他人を見下げるような感情が覗いた。お前の歌はどうせそれほどではないのだろうと。
「おかしな歌に踊りに衣装……あのような舞台をこの威厳ある大講堂で行うなんて、同じ貴族として本当に恥ずかしい限りですわ。その前にまずはその地味な服装と幼稚な髪留めをどうにかなさってはいかがかしら。どんなに美しいドレスで着飾っても、普段から外見に気を遣っていないことはすぐに分かってしまうものですしね」
はぁ、と勝手に悩ましげにため息を吐くイザベラの言葉を聞いた瞬間、私はすっと心が冷え切るの感じた。
「アリス……」
無言を守っていたルチアに名前を呼ばれる。やはり彼女は私の変化に気づいたようだった。だてに出会った翌日に酷い言葉を言い合っていない。私は返事をせずに舞台の中央に歩み寄る。
ムカついた。
最後の方はただの悪口を言われていた気がするがそれは何も気にしない。ただキョウヤが贈ってくれた髪留めを幼稚と嘲笑されたのだけは腹立たしかった。大会の再開催に関していろいろと配慮してもらったのは事実なのでどうにか面倒事にならないようにと考えていたが、仕方ない。
イザベラは突然歩み出た私を訝しげに見つめてくる。そんな彼女を一瞥して、私は視線を二階席へと固定する。
そうして空気を肺に入れると、私は先程彼女が歌った楽曲を同じように歌うことにした。
伴奏はない、独唱だ。頭上からさらに上に突き抜けていくような感覚を想像して、腹の奥から声を出す。高音をはっきりと輪郭があるような声にするにはまず息漏れをさせないことだと、講師に教えてもらったことを歌いながら思い出す。
全身の力を適度に抜いて喉を開き、力を入れる部分はしっかりと入れる。途中途中で雰囲気を変え、息を吐くと同時に声が抜けていく感覚は久しぶりで気持ちよく感じた。一人でこのように全身全霊で歌うことなんていままで一度でもあっただろうか? 床を踏みしめ、前方ではなく講堂内に響き渡らせるように絞り出す歌は、自分でもイザベラには負けていないと自信がつくものに感じた。
誰もいない客席を前に、ハルシア大国の曲を歌う。イザベラは人で埋め尽くされた客席を前に、私にこのように歌ってほしいのだろうか。歌を職としたいのならば。伝統的大会で審査を受けるならば。理由はたくさん聞かされたがいまいち納得できていない。
けれど私を見下しにかかるのならば、私の実力はこうであるとこの歌唱を通して伝えたかった。この実力で私は彼女達と大会に出場して、審査を受けることに決めたのだと。
最後のフレーズを歌い終える。自分でも鳥肌が立っていた。声を出し終えるとやはり気持ちは清々しくなり、心のもやも消え去って青く晴れ渡るようであった。
「ーーどうでしょうか」
椅子に座ったまま微動だにしないイザベラへと声をかける。それで我に返ったのか、彼女は唇を噛み締めて苦しそうに顔を歪めた。なぜか泣きそうな表情も垣間見えて若干の焦りを感じたが、彼女は立ち上がると鍵盤の蓋を音を立てず閉める。
「話は終わりです。気をつけてお帰りくださいませ」
そして視線を落としたままそれだけ言うと、髪をなびかせて反対側の舞台裏へと去っていった。
取り残された私達は舞台上に立ち尽くす。始めに小さな靴音を響かせてそばに寄ってきたのはカロンだった。
「アリスちゃんすごかったね! いまの歌!」
その一言により張り詰めていた空気がようやくふっと緩むのを感じた。ルチアも長い息を吐き出すと、うんと大きく伸びをする。
「何だったのよいまの歌唱対決は〜……! 金髪お嬢様もあれだけムカつく態度を取るくらいにはまぁ上手だと思ったけれど、それより怒ったアリスが引っ叩きにいかないか一瞬ひやひやものだったわ」
「えっ!? 私そんなことしないよ! 一応我慢しようとは思ったんだけど……」
「キョウヤ様からの贈り物をけなされたのですから仕方のないことだと思います。けれどこれで良かったのではないでしょうか? 彼女もアリスさんの歌の実力を理解できたことでしょうし」
「うん、アリスちゃんとその、イザベラ……様? の歌、どっちもすごかったよ! びっくりした!」
集まっては口々に感想を言われ、なんだか照れくさい気持ちになる。自分ではよく分からないのでお世辞も入っているかもしれないが、彼女達からイザベラと同じくらいと言われたことはただ純粋に嬉しかった。
「けれど……本当によかったの? 審査をしてもらえるみたいなのに、あたし達と一緒で」
ルチアが気にしたように尋ねてくる。確かに四人よりも一人で出場した方が当然声をはっきりと聞き取ってもらえるので、審査を重視するのなら確実にそちらの方がいいのだが。
「うん、さっきイザベラ様に話した通りだから、それでいいの。今更一人で出るのもなんか寂しいし、みんなと出たいなって思ったから」
自分の口で言っていて心の中では驚いていた。初対面の人と話すのは距離感が掴めず苦手であるし、いままで他人とはあまり関わりたくないと思っていた。一人でいることなんてまったく寂しくなくて、それどころか一人の方が気が楽とまで思っていたのに。
「そう。なら、それでいいわ」
珍しくルチアが優しく微笑み、なんだかむず痒い気持ちになった。カロンとエフィネアも同じように笑い、不思議と一体感が生まれた気もした。
その後、イザベラがいなくなってしまったので私達は一旦馬車へと戻ることにした。大講堂を出てエフィネアがレイを呼ぶと彼はすぐさまやって来て、その十分後には乗り場から二台の馬車を牽引してきたのだから大変見事なものである。
そしてエフィネアとカロンが乗ってきた一回り大きい馬車に私達も乗り込み、計らったように準備されていた軽く食べられる昼食を四人で取りながら、今後の方針も交えて雑談に興じている最中のことであった。
馬車の小窓から、兄とイザベラが並んで歩いてくる姿が見えたのは。