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プリンス オブ ザ フォールンキングダム  作者: 伊勢屋新十郎
03 新米聖女は人間の業を知る
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94 魔王マインラート 02 静かなる聖者

 軍師の報告に、魔王には気になることがあった。



「だが聖者の異名を持つ人間嫌いとして有名な冒険者。奇妙な符合(ふごう)よな」


「はっ」


「もしやその者は(けい)の同胞になりうる者なのかもしれぬ」


「はっ」



 軍師ギュンターには異名がある。

 『アルスナムの聖者』

 偉大なる神アルスナムの祝福を受けた者。これは彼のみを指す言葉ではないのだが、魔王マインラートの統治する魔王領にいるのは軍師一人のみだ。

 軍師ギュンターはかつて人間だったことでも魔族たちには知られている。偉大なるアルスナムの奇跡によって魔族として生まれ変わったのだが。彼には人間としての名もあったのだが、その名を捨てて魔族としての名を名乗っている。

 アルスナムの聖者は時折種族を問わずに出現することは魔族たちには知られている。魔族のみならず、人類側の種族から出現することもある。アルスナムの聖者の出現率は聖女よりもさらに低いようであるが。



「その者と聖女がもし我らに保護を求めるならば、保護するように(みな)に周知せよ」


「はっ。承知しました」


「偉大なるアルスナムの意思を心得(こころえ)ている者は多ければ多いほど良い。(けい)もわかっていようがな」


「はっ。静かなる聖者がアルスナムの聖者ではないとしても、我らの考えを理解する者である可能性は高いと考えます。彼はおそらく人間共に不信感を(いだ)いているのでしょう。そして彼には聖女を、心清き者を守る意思があるのでしょう」



 軍師もそれには異論はない。自分の地位を危うくされるかもしれないという人間らしい(みにく)い発想は彼にはない。彼はそんな人間共に絶望したのであり、彼自身がそんな考えをするわけにはいかない。そもそもアルスナムの聖者とは偉大なるアルスナムの神意を伝え実行する者。もしかの者がアルスナムの聖者として目覚めるならば、魔王と軍師にとってこの上ない同志となるであろう。



「その者がゲオルクとアードリアンを討ち取った敵であることは事実。だがその者が我らに保護を求めるならば受け入れよ」


「はっ。ゲオルク卿は静かなる聖者を敬意を向けるべき勇士と認めたとのことであり、(みな)の者も不満までは持たぬでしょう」


「それは(けい)もそうであったのだしな」


「はっ」



 静かなる聖者を受け入れるにしても、すんなり納得する者ばかりではないだろう。それも当然のことだ。だが最終的にはその者たちも納得はさせられるだろう。ギュンターもかつては魔族と敵対していたのだ。その彼も今は魔族たちから敬意を向けられている。



「そして彼に接触を試みることも考えております」


「うむ。だが(けい)は余の後を継ぐ可能性もある者だ。卿は決して命を粗末にするな。卿が人間たちの領域に向かい、直接静かなる聖者と聖女の説得をすることは許可せぬ」


「はっ。生きてアルスナム様のご意思のために、そして魔王軍と魔族のために働くことが私の使命であると、心得(こころえ)ております」


「ならば良い」



 アルスナムの聖者は魔王に万が一のことがあった場合その後継者候補ともなる者だ。場合によっては軍師ギュンターもこの地域、もしくは他の地域の魔王として即位することになる可能性もある。アルスナムの聖者はできるだけ多く抱えておきたいのが魔王の本音なのだ。魔王は永遠とも思える寿命を持つものの不滅の存在ではなく、(たお)れることもありうるのだから。

 魔王にも後継者候補となる子や孫はいるが、自分の後を継ぐならば偉大なるアルスナムの神意を最も理解し実行できる者でなければならないと考えている。そのためには自分の血族ではない者に後を継がせることにもためらいはない。それは彼の血族も理解していることだ。魔王の血族の娘が軍師ギュンターに(とつ)いでおり、ギュンターも魔王の身内と言えるのであるが。そして魔王は自分よりもうまくやれる者がいるならば魔王位をその者に譲って自分は下につくことも容認する。



「能力と忠誠心はあっても、魔王位に就いて魔王領を率いようと志す者はおらぬのは、我ら魔族の問題点よな。必要となれば(けい)を含む(こころざし)ある者たちも意欲を示すのであろうが」


「人間共のように、能力もないのに権力欲ばかり旺盛(おうせい)(やから)がいくらでもいるより、よほど良いと考えます」



 魔族は人間たちと違って権力欲があるとしてもその欲望は強くないのが一般的だ。彼らにとって権力そのものにはこだわりはなく、権力を使っていかに理想を実現するかを優先するのだ。そしてそれを自分自身で()()げることにもこだわりはなく、自分よりもうまくできる者がいるならば任せるという選択もできる。自分が一番うまくできると思えば上を目指すこともあるが。そして権力そのものが目的の者を魔族たちが統治者として認めることはありえない。

 もちろん魔族にも欲望はある。うまい食事やうまい酒を求める即物的な欲望もある。理想を実現したいという欲もある。男女の愛情や家族愛などもあるが、それも欲望の一種と言うこともできるであろう。

 だが人間の王侯貴族のような贅沢(ぜいたく)極まりない生活や莫大な財宝などといったものは、魔族たちにとっては醜悪(しゅうあく)なものに見えている。魔族たちも交換手段としての通貨は使うが、それらに強く執着(しゅうちゃく)する者はほとんどいない。魔族にとって人間たちは異常に欲深く、そして己らの欲望を制御できない種族に見えているのだ。


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