83 アンデッドの群れ 03 武器屋到着
バートたちはハンナに案内されて、武器屋と防具屋が多くある一角に向かっている。ハンナが選択する道は的確なようで、アンデッドはほとんどいない。
「そこを右に曲がって。そうすればすぐだよ」
「おう!」
「あいよ!」
先頭をヘクターとリンジーが進み、行く先にアンデッドがいたら二人が即座に突進して切り裂いている。その後ろをハンナが道を指図しながら進む。ホリーとシャルリーヌ、そして彼女らを守るためオーブリーたちが二人を囲むように続き、バートとベネディクトとニクラスが後ろを固めている。移動中も奇襲される恐れがあり、彼らも警戒を緩めてはいない。ここは街中だから建物や置いてある荷物など、隠れる場所はいくらでもある。先程のアンデッドたちは彼らには襲いかからなかったが、この先にいるという強力なアンデッドもそうだとは限らない。
道案内してもらって正解だったのだろう。バートたちは時間をかけずにフレッドとダグマーの店付近に着くことができた。バートたちも知っている大きな通りにはアンデッドも多数いて、逃げる民衆も放っておくこともできず、そちらから来ていたらここまで早く到着することはできなかっただろう。
「バートさん! 皆さん!」
「おお! あんたらが来てくれたか!」
彼らの姿を見たフレッドたちが喜びの声を上げ、避難していた民衆が歓声を上げる。この辺りは冒険者たちが守っているから、ここなら安全だろうと逃げ込んで来た民衆も多い。建物に避難している者たちもいるが、入りきれずにいる者たちもいる。
その周囲を冒険者たちが守っている。中堅クラスの冒険者グループをリーダー格として、未熟な冒険者たちがここに割り当てられているようだ。フレッドとダグマーと店員たちも、戦う心得がある者は武器を手にして民衆を守ろうとしている。ここにも冒険者たちがいるのは、周囲の通りからアンデッドが来るかもしれず、ここの民衆を守るための戦力も必要だと判断されたのだろう。そもそもゴーストなどの実体を持たないアンデッドを完璧に阻止することは難しい。
「ハンナ! 静かなる聖者たちを連れて来てくれたのね!」
「うん! 騎士団も来てくれるはず! ブライアンさんたちは無事!?」
「ああ! なんでかわからないけど敵は進まずに止まっている!」
「わかった! この人たちを連れて行くよ!」
ハンナは冒険者たちと軽く会話をする。どうやらこの先の冒険者たちはまだ持ちこたえているようだ。おそらくは冒険者たちはアンデッドたちに敵視されておらず、攻撃されていないのだろう。
「この通りを進んだ所です!」
「おう! 冒険者たちも無事だといいけど」
「ここからは私とヘクターが先頭を行こう。リンジーは下がってニクラスたちと共に後方を警戒してくれ」
「あいよ! 後ろは任せな!」
「お主らを背後から攻撃などさせぬ!」
「ホリーも守らないといけないしね」
「ハンナ。君はシャルリーヌたちの位置まで下がって、戦闘に巻き込まれないようにしろ」
「あなたはバートたちの戦いに巻き込まれたら危険よ。私は魔法でバートたちの援護をするから、あなたには私とホリーの護衛をお願いするわ」
「私は浄化の魔法と治癒魔法を使いますが、私自身を守ることが疎かになるかもしれません」
「はい! わかりました!」
「オーブリーたちはお嬢さんたちを守ることを第一に考えろ。騎士団本部との通信アイテムは君に預ける。状況が危険そうならば、さらなる援軍を要請しなければならない」
「はっ! お任せください!」
ここでバートは隊形を変更する。彼らの最強戦力はバートとヘクターの二人だ。敵も強力なアンデッドであることが予想される。ならば二人が先頭に立つべきだ。
リンジーも強力な戦士であり、自負もある。だが自分はヘクターとバートには及ばないことは理解している。ならば自分たちはヘクターたちをサポートするべきだと心得ていた。そしてヘクターとバートが自分たちを信頼して背中を任せてくれることが彼女らはうれしかった。
彼らは進む。奇襲を受けないように警戒は怠らずに。
そしてその先では強力な冒険者グループを中心とした冒険者たちと若干の騎士や兵と、多数のアンデッドたちが対峙していた。そのアンデッドたちは、これまでヘクターたちが倒してきたものよりも明らかに格上だ。その証拠と言うべきか、アンデッドになってしまった騎士や兵や冒険者もいる。その騎士たちはアンデッドに討ち取られ、自分自身もアンデッドになってしまったのだろう。
そしてその騎士のアンデッドの中にはバートたちも見覚えのある者もいる。街の中央区にあるソル・ゼルム神殿の墓地前で警備していた騎士たちだ。だがより異常なのは、神官の姿をしたアンデッドもいることだ。その者たちにもバートたちは見覚えがある。避難民たちが虐殺されたことを肯定していた神官たちだ。その神官たちは善神ソル・ゼルムから見捨てられたのであるが。
「あそこにいる複数のアンデッドに見覚えがある。街中央のソル・ゼルム神殿にいた者たちだ。あの者たちがあれだけ強力なアンデッドに率いられているのならば、元凶はソル・ゼルム神殿付近で発生したのかもしれない」
「ああ。オーブリー。騎士団本部に連絡してくれ。敵は強力で数も多いから援軍を送ってくれって。あとアンデッド発生の中心地は中央区のソル・ゼルム神殿の墓地かもしれないから、調査隊を派遣するようにも伝えてくれ」
「はっ」
もちろんそれが事実かはわからない。それを伝える意味があるのかもわからない。この場のアンデッドたちを討伐すれば、事態を沈静化できるのかもしれない。だがそうなる保証もなく、騎士団から調査隊を向かわせてもらう必要はある。
「騎士団本部、応答せよ」
『はっ。こちら騎士団本部』
「こちら静かなる聖者バート殿に同行している騎士のオーブリー・ロットだ。向かっていたフレッド氏の武器屋付近で、アンデッドの集団を確認した。極めて強力なアンデッドが多数いるようだ。現在冒険者たちがそのアンデッドたちと対峙しているのだが、戦闘にはなっていない。援軍の派遣を要請する。そしてバート殿とヘクター殿が言うには、中央区のソル・ゼルム神殿の墓地がこの事態の発生源かもしれないとのこと。調査隊の派遣を要請する」
『はっ。了解しました』
「以上。通話終わり」
オーブリーが騎士団本部に報告している間、バートたちも警戒していたのだが、アンデッドたちは動かない。アンデッドたちもバートたちの存在には気づいているであろうのに。
あのアンデッドたちには、最強クラスの冒険者グループでも苦戦を強いられそうなものもいそうだ。それには及ばなくとも強力なアンデッドも多数いる。あのアンデッドたちにその気があれば、ここにいる冒険者たちはとっくに全滅し、彼らもアンデッドに成り果ててしまっていただろう。そうなっていたら、バートたちも武器屋付近に逃げた民衆を守ることはできず、一時後退して騎士団と共にあたるしかなかったかもしれない。民衆の大半は見逃される可能性もあるが。




