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プリンス オブ ザ フォールンキングダム  作者: 伊勢屋新十郎
03 新米聖女は人間の業を知る
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70 ミストレーの街にて 03 武器屋

 ホリーたちはダグマーの防具屋の隣の武器屋に入る。こちらもこんなお祭り騒ぎの最中に武器屋に来る客はそう多くはないようで、店主も従業員も手が空いていたようだ。バートを先頭に店に入った彼らを店主の声が迎えた。



「いらっしゃいませ……静かなる聖者ですか!?」


「そう呼ばれてはいる」



 こちらでも店の者たちを驚かせてしまった。バートはそれに対する反応も素っ気ない。



「い、いらっしゃいませ。なんの御用ですか? 武器の手入れとか……」



 ダグマーはこの店の主人は自信に欠けていると言っていたが、確かにそのようだ。店主は人間の男性で、まだ二十代の半ばだろうか。英雄扱いされているバートに(ひる)んでいるようだ。



「あなた方にならば割引しますが。いえ、無料でも構いません」


「いや。割引は不要だ。良質な働きには対価をもって(むく)わなければならない。もちろんそれはこの店の商品が購入するに値するものであればだが」


「は、はい」



 バートはこの店でも自分の名声を利用して利益を享受(きょうじゅ)するつもりはない。良い商品がなければ何も買わずに店を出るつもりであるが。

 店の中を見渡すと、包囲中に騎士団から買い上げられて補充が間に合っていないのか、商品の空きが見受けられる。良い小剣が残っていないならば、他の商品を見てその質が良さそうなら発注する方がいいかもしれない。



「こちらのお嬢さんが使う小剣を買い換えようと思っている。攻撃ではなく身を守るために持たせているのだが、良いものは残っているだろうか?」


「小剣ですか。ございます。包囲中に騎士団や冒険者の需要が多くあり、だいぶ在庫が少なくなりましたが、小剣は需要はそこまでなかったので。街の人々が小剣を護身用にと買い求めることもありましたが、それらは普及品クラスのもので、良いものは残っています。お目にかなうものがなければ、特注することもできます」



 騎士団や冒険者もそう多くの小剣は必要としなかったのだろう。普通の民衆が護身用に武器を求めても、ただ振り回すことしかできず、高価なものは残ったのだろう。



「他の武器もそれなりの質のものはほとんど残っていませんが、あなた方ほどの冒険者が必要とされるであろう特に質が高いものは残っています。なにしろそれらを使いこなすのにも腕が必要ですから。高価にはなりますが」



 陳列には空きが目立つが、特に上質なものは残っているようだ。それらをただ振り回すことはできても、使いこなしてその真価を発揮できる騎士や冒険者はそうはいない。騎士団も高い金を出してまでそれらを買い求めはしなかったのだろう。街の危機であったのだから、この店も割引価格で騎士団に武器を提供したのであるが。



「付与する魔法を指定したいから、魔法はまだ付与されていないものがいいのだが」


「その前に、今使っている剣を見せていただいても?」


「ああ。お嬢さん」


「はい。お願いします」



 ホリーは小剣を収めた(さや)を外し、机に置く。店主はそれを手に取り、鞘から抜いて鋭い目で見る。防具屋の主人はこの店の主人は自信はないものの腕はいいと言っていたが、それを裏付けるものと思えた。



「この剣と似ている、より上質な剣をお望みですか? それとももっと重いものがいいとか、軽いものがいいとか、別の種類の武器も考えているとか」


「そのあたりはよくわからないんですけど……バートさんはどう思いますか?」


「これと似たような小剣でいいが、お嬢さんは筋力もついてきたし、もう少し重くなってもいいと思う。敵の攻撃を受け止めることができる、もっと頑丈なものがいい。だが重すぎるものは今のお嬢さんが使いこなすのは無理だろうから、魔法を付与して強度を強化してもらうつもりだ」



 ホリーは戦士としてはまだ駆け出し段階で、剣の善し悪しもよくわからない。



「鉄の剣がいいですか? ミスリルの剣もありますが、値段は高価になります。防御に使うには軽すぎるものは使いにくいですし。このランクの剣をお使いになるくらいの技量では、あまり強力なものは使いこなすのは難しいとは思いますが」


「軽すぎるものはかえって不都合がある。お嬢さんは戦士としてはまだまだだからなおさらだ。だが防御のためと割り切った使い方をするのだから、重さや重量バランスに問題がないならば分不相応のランクの武器でもいいだろう」



 ミスリルとは銀に似た輝きを持つ希少な金属だ。ミスリル製の武器は軽くて頑丈、切れ味も良く、ベテランの冒険者が好んで買い求める。その分高価にはなるが。だがミスリル製なら必ず武器として鉄製のものよりも優れているわけでもなく、付与される魔法によっては逆転することもある。もちろんミスリル製の武器に強力な魔法を付与することもあるが、どんな場合でもそれが最も良いとは限らない。ヘクターが使うハルバードのような重量を威力に加算するような武器には、軽いミスリルは不適当だ。武器には他にも様々な種類の金属が使われるが、最も普及しているのは鉄製のものだ。



「お嬢さんは魔力は高いから、魔力伝達性能が高い剣はあるだろうか? 魔法付与もそれに合わせてもらって、強度をさらに強化できるのならばそれがいいのだが」


「いささか高価にはなりますが、ございます。お嬢さんは神官様なのですか?」


「はい」


「このお嬢さんは神官戦士を目指しているわけではなく、剣は自分の身を守る道具として持っている」



 店主は納得する。神官が戦士としての修練を積み、神官戦士として活躍する者もいるが、攻撃用としてではなく防御用と割り切って武器を持つ神官もいる。そういった神官は剣ではなく金属製の頑強な棒などを持つこともある。ホリーは神官として攻撃目標にされることを避けるために軽戦士を偽装して剣を持っているという面もある。自分の身を守りきれるか不安がある駆け出しか、それとも逆に強敵と相対する可能性が高い高位の冒険者には、戦士の格好をして偽装する神官もいる。

 そして店主は壁に掛けてあった小剣を手に取り、(さや)から抜いて机に置く。



「では、こちらはいかがでしょう? 小剣としてはかなり高価ですが、質は保証します。こちらはまだ魔法は付与していませんが、七日もあれば付与できます」



 バートたちはそれを手に取って見る。バートとニクラスが剣に魔力を通してみるが、特別な材料が使われているのか確かに魔力の通りがいい。普通の鉄の剣ではそうして魔力を通すことは容易ではない。

 武器に魔力を通すよりも魔法を付与する方が一般的には効率がいいが、魔法の使い手が武器に魔力を通して強化することもある。バートクラスの魔法剣士が武器に魔力を通すと、普通の鉄の剣でも下手な魔法を付与した武器をそのまま使うより強力になるのではあるが。



「ふむ……これでいいのではないかと思う。お嬢さんがこれに魔力を通せば、そうそう折れることもないだろう」


「ああ。いいんじゃないか? 質はかなり良さそうだし、今の剣よりもだいぶ頑丈そうだ。ちょっと重くなっているけど」


「うむ。腕のいい職人が作った剣のようじゃな」


「そうだね。これは僕も買い換えたくなりそうだ」


「うちでも最も腕のいい職人が作ったものでして。私もこのようないいものを作れるように修業しているのですが、まだ及びません」



 店主の目利(めき)きもいいのだろう。バートたちもそれは上質なものだと認める。少なくとも今ホリーが持っている初心者用として買い求めた普及品とは比較にもならない。提示された値段は小剣としてはかなり高価であるが、それに見合った質があると彼らは判断した。ホリーの腕ではまだ使いこなすのは無理であろうが、防御用として割り切るならばこの先買い換える必要はないと思えるほどだ。



「この(つか)のちょっとした装飾も上品でいいわね。他の魔法を付与してある武器を見る限り、付与術士の腕も良さそうよ」


「ああ。この剣はホリーには似合いそうだね」


「そ、そうでしょうか。でも素敵な装飾です」


「そうでしょうそうでしょう。師匠が作る剣は見た目も素晴らしいんですよ。見栄えはするのに派手ではなくて上品で。私はまだこういうことが不得手(ふえて)で……」



 シャルリーヌたちにも好評だ。その剣には柄と付属されている(さや)に上品な装飾が為されていて、派手ではないが見栄えがする。ホリーは派手なものは好みではないのだけれど、このくらいの装飾ならば素直にきれいだと思えた。



「フレッド。そんなにべた()めしないでよ。恥ずかしくなるじゃない」


「いやいや。これは賞賛するべき出来映えですよ」


「ほう。この剣はお前さんが打ったのか。これほどの剣、お前さんがこの街のもう一人のダーグの愛弟子(まなでし)か?」


「そうよ。あたしはマルティナ。あなた、エルムステルの『鉄塊(てっかい)』ニクラスね? ドラゴンの正面に立ち続けて仲間を守り切ったという噂はこの街まで届いているわよ。あなたはドワーフの誇りね」


「それは光栄じゃな。じゃがお前さん、店に出ておっていいのか?」


「包囲中に武器が大量に売れたから、しばらくは需要は少ないと思うのよ。それに材料も乏しくなっているから、新しい材料が入荷するまでは打つにしても少しずつしか打てないのよ」


「なるほど」



 店員だと思っていたそのドワーフの女性は、武器屋の職人だったようだ。彼女も人間から見れば十代前半の少女に見えるのだが。彼女はその見た目に似合わず四十代と、店主よりかなり年上のベテラン職人で、店主の師匠でもあるのだが。なおリンジーたちはドラゴンを退治した武勇伝でも知られている。



「それでは、これにさせていただきます」


「魔法の付与も頼む。魔力の伝達をさらにスムーズにし、強度を強化すること、そして受けた衝撃を軽減することを優先してほしい。切れ味は優先しなくていい。軽量化は不要だ」


「わかりました。付与には七日ほどかかりますが、いいですか?」


「問題ない。隣のダグマー氏の防具屋で鎧の調整と魔法の付与をしてもらっているから、それには十日ほどかかるのだしな」


「わかりました。今の剣は新しい剣をお渡しする時に下取りしますか? まだ新しいようできれいなものでしたが」


「はい。お願いします」



 店主はバートの魔法の付与に関する注文をメモする。当然魔法を付与してもらうには相応の代金がかかる。



「ちょっと俺も置いてある剣を見させてくれ」


「わしも斧を見たいの」


「あたしも剣を見て行こうかね」


「僕ももうちょっと剣を見たい」


「わかった」


「斧なら、フレッドの打ったこれが出来がいいわよ」


「ほうほう」


「師匠に()められると照れますね……」



 ホリーの剣を見て、ヘクターたちも店の商品が気になったようだ。それぞれに気になった武器を手に取って見る。バートとホリーとシャルリーヌはその様子を見守る。今日は予定が詰まっているわけではない。ゆっくり見ても構わないだろう。

 なおシャルリーヌも一応護身用の剣を持っていて、戦士としての訓練もしているが、リンジーたちと剣の勝負ができるほどではない。彼女の武器はあくまでも魔法であって、剣は非常用の手段でしかなく、彼女は剣にはこだわっていない。彼女が今持っている剣も一応そこそこの質で魔法も付与してはあるが。彼女の腕では今この店に残っている特に上質な武器は使いこなせないであろう。

 一方バートは剣を買い換える気はない。彼の剣も相当なものであり、それを上回るものはそうはない。そしてなにより彼の剣は(はる)か先祖から伝わるものであり、彼の父から(たく)されたものだ。よほど強力な剣を新たに手に入れたらそちらを使うこともありうるが、そうなっても今の剣を手放すことはないだろう。


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