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プリンス オブ ザ フォールンキングダム  作者: 伊勢屋新十郎
03 新米聖女は人間の業を知る
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69 ミストレーの街にて 02 防具屋

 ホリーたちはバートを先頭に目的の防具屋に入る。街はお祭り騒ぎで、こんな時に防具屋に来る者はそこまで多くはないのだろう。彼女らが店に入った時は主人と従業員たちは陳列されている防具の手入れをしていた。店の主人は立派な(ひげ)を蓄えたドワーフの男性で、従業員はドワーフもいれば人間もおり、女性もいる。どうせ客はそうは来ないであろうと、祭りに行きたげな様子を見せている者もいるが。



「おう。いらっしゃ……」



 店主が彼らの方を見て声をかけようとして、動きを止める。従業員たちも固まる。



「あんた、静かなる聖者か?」


「そう呼ばれてはいる」



 店主たちも行進する騎士団に囲まれたバートたちを群衆の中から見ていた。彼らも恐怖に(おび)えていたところを解放され、その功労者を一目見たかったのだ。

 ドワーフの女性店員には、同じドワーフのニクラスを()()れとした目で見ている者もいる。ニクラスはそれを気にするそぶりは見せていない。

 ドワーフは女性も職人として活躍する者も多い。ドワーフの女性は成熟しても人間からすれば十代前半の少女に見え、人間からは年齢がわかりにくいのだが。なおドワーフは男性はがっしりした体格の者が多いが、女性は普通の人間の少女より少したくましいという程度の者が多い。もちろん例外はあるが。



「おう! よく来てくれた! なんの用だい?」


「こちらのお嬢さんの鎧の調整と、鎧下の服の新調を頼みたい。お嬢さん」


「はい。今私が着ている鎧なんですけど、私の体が成長してサイズがちょっと合わなくなってしまって……」


「おお。そういえば嬢ちゃんも行列におったな。どれどれ。鎧を脱いでサイズを測らせてくれ。おい、嬢ちゃんのサイズを測って来い」


「はい」


「あたしもついて行くよ」



 ホリーは鎧を脱いで従業員に渡す。そして人間の女性従業員がホリーを更衣室に案内し、リンジーもそれに同行した。店には冒険者をはじめとして女性も来るから、大きい防具屋では従業員に女性も雇っていることも多い。ドワーフは男性も女性も身長が低く、より背の高い種族の者のサイズを測るのは大変だから、人間の従業員が対応してくれるのだろう。

 店主は机に置かれたホリーの鎧を見る。



「ふむ。それなりにいい作りじゃが、最上ではないな。あの嬢ちゃんがあんたらの連れならば、もっといい鎧を専用に作るべきじゃと思うぞ? 静かなる聖者の連れとならば無料で提供してもいいが」


「いや。代金は払おう。君たちも生活するためには金が必要だ。そして良い仕事を提供されたならば代価を払わなければならない」


「それもあんたの心意気か。ならばわしらも良い仕事をすると約束しよう」



 バートは冒険者として依頼されれば適正な報酬を要求するが、自分が提供される側ならば代価を払うべきと考える男だ。多少のことならばおごりを受け入れることもあるが。店主もこの男を気に入ったようで笑みを漏らす。

 シャルリーヌも口を出す。



「ホリーの鎧を特注しても、そのうちサイズが合わなくなるんじゃない? この鎧もあの子の体が成長してサイズが合わなくなっちゃったんだし。余裕があるように作っても、いつまで使えるかわからないわ」


「……おお。そうじゃな。うっかりしておった。すまんの。詳しいサイズを見なければまだわからんが、この鎧はまだ調整で済ませられる範囲だと思うぞ」


「なら買い換えなくてもいいかしらね」



 主人がこのことに気づかなかったのも仕方が無いだろう。バートたちほどの実力を持つ冒険者に体の成長も終わっていない年若い者、つまり未熟であろう者が仲間として同行することは普通はない。



「耳が痛いぜ……」



 過去に体の成長が終わっていなかったのに鎧を特注して、無駄にしてしまうという失敗をしたことがあるヘクターは、苦い記憶を思い出してしまった。その時バートはやめておけと忠告したのだが、彼は聞かなかったのだ。



「でもどうせだからこの鎧に防御魔法の付与をしてもらってもいいんじゃないかしら? 軽量化と着る負担を減らす魔法も。ホリーの魔力なら、上級ランクの付与をすれば結構な防御力が期待できると思うわ」


「ふむ。それもいいな」


「そうするなら十日はかかるぞ。鎧の調整だけならば三日もあればできるが」


「俺たちもそんなに急いでるわけじゃないし、お嬢さんの生存確率を少しでも上げることは有意義だな」



 シャルリーヌも優れた智現魔法(ちげんまほう)の使い手、魔術師であるが、付与魔法は熟達していない。

 強い『人』や魔族や魔獣、幻獣はその身に(まと)う魔力で攻撃力や防御力を強化している。獣にも魔力を持っているものもいる。だが鋭い牙や強固な(うろこ)などを持たない『人』は徒手空拳(としゅくうけん)では限界があり、攻撃力や防御力をさらに強化するために武器や防具を身につけるものだ。世の中には肉体を鍛え上げで徒手空拳で戦う者もいるが、どうしても限界はある。武器や防具もただ身につければいいというものではなく、使いこなす力と技量が必要だが。そして魔法を付与していない武器や防具では、実力者が使うには不十分な性能しか得られない。

 武器防具やアイテムに魔法を付与するのは専門の付与魔術師が行うのが一般的だ。それなりの規模がある街の武器屋や防具屋には協力関係にある付与魔術師がおり、頼んで代金を払えば魔法の付与もしてもらえるものだ。もちろん腕のいい付与魔術師に強力な付与をしてもらえばその代金は高額になる。バートたちならその程度の代金は問題にはならないが。

 なお防御魔法の付与には体全体を保護するものもあり、それを付与すれば鎧がない部分の防御も強化されるが、鎧がある部分ほどの防御力はない。そのような魔法を付与した敵と戦う時にも鎧に守られていない部分を狙うのが定石(じょうせき)だ。身軽さを重視して服などの軽装にそのような魔法を付与する者もいるが、急所への強力な一撃を避けられなければそのまま致命傷になりかねないため、危険度は高い。かつての文明の遺産には、鎧とは思えない見た目なのに全身を十分に守れるものが発見されることもあるが。



「それからダーグの愛弟子(まなでし)たるあなたに、我々の武具に修繕(しゅうぜん)魔法を使ってほしい。他の鍛冶神の神官を紹介してもらってもいいが」


「俺たちの鎧も武器もそれで直せる程度だと思うしな」


「少しとはいえ鎧が(いた)んでおるのも、落ち着かぬしな」


「あたしの鎧は勝手に修繕してくれる魔法がかかってるから、剣だけでいいよ」


「僕の鎧は、修繕魔法で修繕できる範囲は越えているかな」


「ふむ。確かにベネディクト殿の鎧は、本格的な修繕が必要じゃな。バート殿たちの鎧はすぐに直せるが。鍛冶神ダーグよ。この者たちの武具を直したまえ。うむ。ちゃんと直ったようじゃぞ。これは金はいらん。こんなことであんたたちから金を取ったら、わしがダーグ様から叱られるわ」


「感謝する。その厚意(こうい)は受け入れよう」



 バートたちの鎧は新品同様に修繕された。鍛冶を(つかさど)る神の神聖魔法には、武具を修繕できるものもあるのだ。なおダーグの愛弟子とは鍛冶神ダーグの高位神官で最高峰の鍛冶師に与えられる名誉称号で、この街にはもう一人ダーグの愛弟子がいる。

 そしてニクラスたちは待っている間、陳列されている防具を見る。包囲中に騎士団が防具を買い上げたのか、特に金属鎧は空きが目立つ。だが革鎧には十分な在庫がありそうだ。ニクラスにはドワーフの女性店員がしきりに話しかけ、ニクラスも邪険にするでもなく話を聞いている。



「ふむ。確かにこの店の防具は上質じゃな」


「ああ。お嬢さんの鎧もここに任せればいいだろう」


「僕の鎧はここで買い換えていこうかな……」


「うむ。それもいいと思うぞ。今お主が見ておる鎧なら、特注の最上級品にもそこまで遜色(そんしょく)はなかろう」


「お嬢さんの鎧も調整と魔法の付与をしてもらうのだし、待ち期間は問題ない」


「私もついでに鎧を買い換えていこうかしらね。こっちの鎧を見る限り、付与魔術師の腕もいいようよ」


「シャルリーヌも絶対に攻撃されないわけじゃないしな」



 紹介されるだけのことはあって、この店の防具は質がいいようだ。ニクラスやバートが使っている防具も特注の上質なものだから、彼らの鎧は買い換えるほどではなさそうだ。この店で特注すればより上質な鎧に交換できるだろうが、金属鎧を特注するのは相応の時間がかかるため、彼らはそこまでする必要はないと考えた。彼らはフィリップ第二皇子の元にホリーを連れて行かなければならないのだから、あまり時間をかけすぎることもできない。



「親父さん。この新しい鎧を調整して防御魔法とかも付与するのには、どれくらいかかるかい?」


「この鎧もお願いするわ」


「そっちも十日くらいじゃな」


「じゃあお願いしようか」


「ええ」


「まいどあり。サイズを測って来てくれ。その鎧が調整で済ませられる範囲かわからんしの。おい。この兄ちゃんのサイズを測れ」


「はい!」


「エルフの嬢ちゃんはさっきの嬢ちゃんと交代するのを待ってくれ」


「わかったわ」



 ベネディクトはホリーとは別の更衣室にサイズを測りに行き、シャルリーヌはホリーと交代するのを待つ。

 なお鎧については、完成品であっても使う者の体に合わせて調整する必要があることが大半であるため、陳列してある状態ではまだ魔法を付与していないことも多い。魔法を付与した鎧を調整するのは余計な手間がかかることもあるからだ。この店には見本も兼ねて魔法を付与した鎧も陳列してあるのだが。

 大柄な人間の男性と小柄なドワーフの女性というような体の大きさが全く違う者でも、勝手にサイズ調整をしてくれる魔法が付与された鎧が遺跡から発見されることもしばしばある。だがそれらは相応に高価であるし、必ずしも十分な防御力を持っているとは限らない。




 そして更衣室でサイズを測ったホリーたちが戻って来る。シャルリーヌはホリーと入れ替わりでサイズを測りに行った。店の主人はそのサイズを見て鎧を確認する。



「うーむ……」


「どうかしましたか?」


「いや、今の鎧も調整すれば使えるんじゃが、あまり余裕がない。特に胸と尻が。身長の方はまだ余裕があるんじゃが」


「は、はい」



 ホリーは恥ずかしげにしている。男性のバートたちの前でこんなことを言われたのだから。店主の方はそんな乙女心には気づいていないようだが。



「次の時はまず間違いなく買い換えになるじゃろうから、魔法の付与もするならもう少し余裕のある鎧に買い換えておく方がいいと思うぞ?」


「魔法の付与ですか?」


「お嬢さんがサイズを測りに行った時に話していたのだが、シャルリーヌの提案でお嬢さんの鎧に魔法を付与しておく方がいいのではないかという話になった。お嬢さんにはまだ早いが、上級の付与をしてもらおうと思っている」


「なるほど」


「それなら新しい鎧を選ぼうか。さすがにすぐに買い換える鎧に魔法を付与するのはもったいないからね」


「はい」



 そしてシャルリーヌがサイズを測り終わるのを待って、ホリーはリンジーとシャルリーヌ、そして女性店員にもアドバイスしてもらって鎧を選ぶ。彼女が必要とするような小柄な女性用の皮鎧は騎士団もほとんど必要としなかったようで、在庫は十分に残っている。バートたちは女同士の会話を邪魔することもないと口を出さない。

 なお鎧も武器も、ただ最上級のものを買えばいいというものではない。使い手に適したランクの武具を購入するのが一般的だ。特に上級以上の武具になると、使い手の力を攻撃力や防御力に転換するものが多く、使いこなせない者が持っても宝の持ち腐れになってしまうのだ。上級のものは基本的な防御力や攻撃力も高いことが多く、全く意味がないわけではないが。分不相応な強力な魔力が付与されたものを身につけていると魔力酔いと呼ばれる悪影響が発生することもあるが、ホリーもその強力な魔力を使いこなせるようになってきたから大丈夫であろう。



「この鎧はこういう構造になっているんだよ」


「ほうほう。これは動きやすそうじゃな」


「ただ防御力がちょっと犠牲になっちゃうんだよね」


「どちらを優先するかは、時と場合によるからのう」



 ニクラスは先程のドワーフの女性店員エイラから熱心に話しかけられ、防具談義に花が咲いている。ニクラスは防具や武器を見るのが趣味で、その目を輝かせている。彼にとって、これほど高品質な防具の数々を見ることは楽しいのだ。




 そうして選ぶことしばし。ホリーは今のものよりもさらに上質で、控えめながら上品な装飾のある鎧を選んだ。



「では鎧は調整しておくぞ。魔法の付与も合わせて十日もあればできるじゃろう。鎧下の服もその時までに用意しておく」


「はい。お願いします」


「今の鎧は引き渡しの時に下取りするか?」


「はい。それでお願いします」



 武器や防具は中古品も出まわっている。買い換える時、古いものを持っておいても保管に困るから、状態が良いものは下取りに出されるのが普通だ。痛みが激しいものは買い取ってもらえず廃棄することになる。中古品は割安価格で販売されるし、資金の余裕がない者が中古品を購入して自分に合わせて調整することはよくある。



「お嬢さん。この盾を買って行ってもいいのではないだろうか」


「おお。それもいい盾じゃぞ。よほどの攻撃を受けん限り壊れることはない。ミスリル製で軽いし、衝撃を吸収する魔法も付与されておるしの」


「それではこれを買わせていただきます」


「まいどあり。これまで使っていた盾は下取りするか? それもまだ新しそうじゃが」


「はい。お願いします」



 バートの提案でホリーの新しい盾も買って行くことになった。ホリーも剣の訓練の成果も出ており、多少大きめな盾も問題なく使えるだろう。彼女の剣の訓練は基本的に彼女自身の身を守るためであって、敵を攻撃するためではないが。



「お嬢さんの剣も新しいものを買いに武器屋に行こうか。今の普通の剣じゃ、敵の攻撃を受けたら折れるかもしれないからな。そろそろ魔法を付与した剣を持ってもいいだろ」


「そうだな。そろそろいいだろう」


「はい」


「それならうちの右隣の武器屋が、店主のフレッドはまだ若くて職人としても修業中じゃが、なかなかの腕じゃぞ。腕のいい職人も抱えておるしな」


「ではそちらに寄らせてもらいます」


「うむ。フレッドは腕はあるのに自信がないから、あんたたちに認められれば少しは自信もつくじゃろう。無論剣を買うならあんたたちで商品を見極めてからじゃがな」


「ああ。そうしよう」



 ホリーも剣も少しは上達してきたことだし、魔法を付与した簡単には折れない剣を買い求めるのもいいだろう。ホリーも殺すためではなく自分の身を守るためならば、剣を持つことにも抵抗感はない。



「ではお嬢さんとシャルリーヌとベネディクトの鎧は頼む。少なくともそれまでは我々はこの街に滞在する」


「うむ。任せておけ」



 そうしてバートたちは店を出る。彼らには今日はまだ予定がある。武器屋に行く他にも。


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