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プリンス オブ ザ フォールンキングダム  作者: 伊勢屋新十郎
02 新米聖女は道を見出す
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67 新米聖女の出陣 09 魔将の最期

 そして終わりが訪れた。バートが手にした剣が、何度も切りつけられ破損した鎧の隙間からアードリアンの胸を貫いた。

 アードリアンは膝をつき、剣を落とす。

 バートは剣をアードリアンから抜き、剣についた血は付与された魔法によって霧散(むさん)する。

 その光景を見て、アードリアンはふと思い出した。自分が百歳ほどと飛天族(ひてんぞく)としては若輩(じゃくはい)だった頃に聞いた噂。チェスター王家初代ローレンス・チェスターが振るっていた剣は、ついた血が霧散し切れ味が落ちない魔剣だったという。

 この男が持っている剣はチェスター王家の宝剣と言うには装飾も効果も地味だ。だがローレンス・チェスターも王位に就く前はただの田舎貴族だったのだから、振るっていた剣が豪奢(ごうしゃ)なものではなくてもおかしくはない。そして『バート』という名前。もしこの男が現在は居場所が不明とされるアルバート王子であるならば、面白い運命もあったものだ。彼は人間ごときの血筋に意味など見出(みいだ)しはしないが。



「静かなる聖者バート……ひとつ命令します……」


「……」


「聖女を守りなさい……」


「言われるまでもない」


「人間共こそが……聖女の脅威となるでしょう……我ら魔族との戦いに駆り出し……間接的に……己らの欲望を満たす邪魔になるからと……直接的に……」


「……」


「あの少女を連れて魔王軍に保護を求めることも……選択肢の一つとして覚えておきなさい……あなたもわかっているのでしょう……人間共は醜悪(しゅうあく)だと……」


「……」



 アードリアンの意識は混濁(こんだく)していく。自分はまもなく息絶えるであろう。だができることはした。この男と聖女に人間共に対する不信感を植え付けようと言葉をかけた。完璧な成功までは期待していないが、もし聖女が人間共の軍勢に協力するのを拒んで魔族たちの被害が減るならば、自分と配下たちの死は無駄ではなくなる。それに静かなる聖者たちは強力な冒険者だ。聖女を連れて逃げる機転を期待してもよかろう。自分には聖女に不幸になってほしくないという善意もある。だが、自分には魔族の将としての責務もあるのだ。

 ふと、自分を悲しそうに見る金色の髪を持つ少女の姿が視界に入った。彼はその少女に震える手を伸ばす。



「イングリート……お前のような優しすぎる娘は……戦いになど出てはいけない……」



 意識が混濁(こんだく)したアードリアンには、その少女が自分の大切な者に見えていた。五十歳ほどと飛天族(ひてんぞく)としてはまだ年若い、彼の娘イングリートに。人間共にも慈悲を垂れようとする愚かな娘に。

 少女は馬から下りて、彼に近づく。そしてその伸ばされた手を取る。バートとシャルリーヌを含め、誰もホリーの行動を止めることはできなかった。

 アードリアンは『娘』に最後の言葉をかける。



「お前は……幸せになりなさい……」


「私は幸せになります」



 ホリーもこの悪魔の言葉が自分ではなく他の誰かに向けられたものであることはわかっている。自分の返事も、自分自身の誓いを口にしたのか、それとも死に行くこの悪魔に向けた優しい嘘なのか、自分でもわからなかった。だが、アードリアンの死に顔には安心したような笑みが浮かんでいた。

 ホリーは悲しかった。もちろん彼女も理解している。この魔族たちは平和に暮らしていた無数の人々を虐殺した憎むべき敵であることを。この戦いでも大勢の騎士や兵士たちが殺されたことも。それでも彼女はこの魔族たちの死も悲しかった。

 ホリーは力を失ったアードリアンの腕を優しく地面に下ろす。そしてバートに寄りそう。シャルリーヌも馬から下り、バートに近づきホリーとは逆側に寄りそう。彼女らにはわかっていた。バートの心がアードリアンの言葉によって乱されていることが。彼女らはこの人のことが心配だった。自分たちがついていると伝えたかった。

 ヘクターたちも騎士たちも、言葉を発することもできずにその様子を見守る。

 バートがぽつりとこぼす。



「この男は、私のたどり着く未来の一つなのかもしれない」


「……私はあなたと共にいます」


「あなたを一人にはさせないわ」



 ホリーとシャルリーヌは彼にもう少し強く体を押しつけた。自分たちはこの人から離れてはいけない。この人を一人にしてはいけない。そしてこの人と共にいたい。

 遠方の空からこの様子を見ていた一人の女悪魔が飛び去ったことに、彼女らは気づかなかった。精霊魔法で風の精霊を使役してこの場の会話を聞いていた者が、風の精霊を解放して去ったであろうことは、バートは気づいていたが。


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