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プリンス オブ ザ フォールンキングダム  作者: 伊勢屋新十郎
02 新米聖女は道を見出す
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59 新米聖女の出陣 01 従軍

 旧王国領北西部への途上初日。フィリップ第二皇子が手配した軍勢と合流するために、およそ千人の騎兵隊は街道に沿って行軍している。ホリーたちはそのエルマー率いる騎士団の一角にいる。もちろん魔法剣士のバート、戦士のヘクター、戦士のリンジー、魔術師のシャルリーヌ、神官戦士のニクラス、盗賊兼軽戦士のベネディクトも。リンジーたちも報酬の一環として軍馬を支給されている。

 ホリーが騎士団と共に旧王国領北西部に(おもむ)きたいと言ったことに対し、リンジーたちも快く同行を申し出た。それはホリーが聖女の可能性が高いからではない。ホリーという一人の少女が心配だからという理由で。ホリーはそのみんなの善意がうれしかった。自分を聖女だからと見るのではなく、自分自身を見てくれることが。



「エルムステルのみんなは大丈夫かねぇ……」


「エルマーさんが連れてきた軍政担当官も優秀な人だったし、二千人の歩兵隊も残るんだから、心配はいらないだろ」


「そうね。彼はバートと比べられそうで胃が痛いとか言ってたけど」


「バート殿は巧みに街の混乱を防止していたからな。あそこまでうまく統治することは尋常(じんじょう)な者には難しいじゃろう」


「盗賊ギルドはバートが領主になると活動しにくくなるかもしれないと戦々恐々としていたけどね」



 エルムステルの街の冒険者たちも従軍すると申し出たのだが、街から冒険者たちがしばらく不在になるのは治安のためには良くないというバートの言葉に、彼らも引き下がった。彼らもバートたちを仲間と認めたが、エルムステルとその周辺の人々を見捨てることはできなかった。

 街の人々や役人たちからは、バートに領主として留まってほしいという嘆願(たんがん)も寄せられた。それでエルマーも上申したのだが、バートは一つの街の領主程度に収まる器ではないという、上官を通して伝えられたフィリップ第二皇子の言葉に、バートは何者なのかと彼は思った。バートは聖女を守ることを希望し、第二皇子もそれを認めたからではないかとも思ったが。

 第二皇子の指示である以上、バートをエルムステルの領主として推挙(すいきょ)するわけにもいかない。彼は民衆や役人たちをなだめるために苦労したようである。なおバートが指示した各種施策(しさく)は軍政担当官にとっても非の打ち所のないものであったようで、正式な領主代理が任命されても引き継がれるであろうとのことだ。

 そしてバートたちが街を離れる時、街の民衆は盛大に送り出した。バートにとっては妖魔共に見送られているのと大差ない思いで、笑顔を浮かべることもなく手を振りさえしなかったが。ホリーはそのバートを見るのが悲しかった。やはりこの人は人間に絶望しているのであろうと。



「しかし、千人の騎兵隊の行軍となると壮観だねぇ」


「しかもこれからさらに増えるんだしね」



 現在の軍勢はおよそ千人だが、合流すれば六千人ほどになる予定だ。その軍事行動を支えるための輸送隊もいる。それは即応できる最大限の数でもあった。これでも敵軍と交戦するのは無謀と判断されるならば、一旦引くか籠城(ろうじょう)するかして、さらなる援軍を待たなければならない。

 魔族側も援軍が向かっていることを想定し、警戒していると予想される。場合によってはこの軍勢が、現地に先に到着した軍勢と合流する前に攻撃されて壊滅する恐れもある。騎士隊長のエルマーは偵察隊を先行させ、また敵の斥候(せっこう)に注意を払うように見張りにも力を入れさせている。

 戦力の逐次投入(ちくじとうにゅう)の愚はフィリップもわかっている。彼も本当なら十分な兵力を用意して一気に送りたいのだ。だがその余裕がないほどに旧王国領北西地域の状況は悪い。十分な援軍を編成して食料などの兵站(へいたん)を準備して、歩兵が多数を占める軍勢が遠路行軍して到着するには、最低でも一ヶ月以上は必要であろう。




 そうして夜になって、彼らは野営の準備を始める。よほどの緊急時には昼夜を分かたず行軍することもあるが、そのような行動は兵と馬を疲労させて戦闘能力を低下させかねないため、通常はしない。仮にするとしても、戦闘に入る前には休息をさせて戦闘能力を回復させるのが前提だが。



「まずはお嬢さんたちの天幕を張るか」


「ありがとうございます。私もだいぶ()れてきましたけど、まだ手伝いが必要で……」


「まあこの大きさじゃね」


「うむ。手早く張るとしよう」



 ホリーたちはエルマーの本営の近くに天幕を開くことになっており、ホリーとシャルリーヌとリンジーの女性陣は一緒の大きめの天幕を使う。妖魔討伐行ではホリーはバートとヘクターと一緒だったのだが、リンジーたちがいるならば彼女らと一緒がいいだろうとバートたちも配慮(はいりょ)したのだ。ホリーはバートたちとなら一緒でも嫌ではないのだけれど。

 そして彼らは手早く野営の準備をする。周囲では騎士たちもそれぞれに野営の準備をしていく。



「ふむ……我々も馬たちもまだまだ行軍できる余裕がありそうだが……」


「なぜこれほどに疲労が少ないのかわからないわ」


「民の救援に(おもむ)くために士気が上がっているのだろう。馬たちもそれを感じているのだろうな」



 騎士たちには不思議に思う者もいる。その疲労が少ない現象は、妖魔討伐行において冒険者たちも経験したことだ。エルマーも自分たちの疲労が少ないことに気づき、やはりホリーは聖女なのだろうと確信を深めていた。危機に(おちい)った人々を救うため、そして大勢の人々を虐殺している妖魔共を打ち破ろうと、騎士たちの士気が高いことも事実ではあるが。



「ホリー様。お疲れではございませんか?」


「い、いえ、大丈夫です。私はバートさんの後ろに乗せてもらっていただけですから」


「そうですか。不自由をおかけして申し訳ございませんが、何かあれば声をおかけください」


「は、はい」


「すまないが、お嬢さんを様付けで呼ぶのはやめてほしい。人目のある場所では」


「はっ。申し訳ございません」



 行軍ではホリーはバートのホース・ゴーレムに同乗させてもらっている。戦場においてはバートの邪魔にならないようにシャルリーヌが乗る軍馬の後ろに乗せてもらう予定だ。行軍する時はバートの後ろなのは、頑強な軍馬であっても二人乗ると馬に負担がかかるからだ。彼女もシャルリーヌも体重は軽く、着ている鎧も軽量だから、馬にはそこまで負担はかからないかもしれないけれど。ホリーも馬に乗る訓練を始めてはいるけれど、戦場で問題なく馬を操れるか自信はない。

 ホリーには少々憂鬱(ゆううつ)に思っていることもある。エルマーと彼が事情を話した上でホリーの護衛として任命した騎士たちの自分に対する態度だ。彼らはホリーを聖女として扱い敬っている。それが彼女にとっては負担だった。彼女はただの村娘だったのだから。それもあって、彼女はバートたちと常に一緒にいた。自分が正式に聖女として認められれば、この規模はさらに大きくなると予想できるのも憂鬱であった。ホリーが聖女であることはまだ秘密なのであるから、(たしな)めるバートの言葉に騎士も納得したが。



「じゃあお嬢さん。軽く剣の稽古(けいこ)をするか」


「はい! お願いします!」


「ベネディクト。今回は君にお嬢さんの相手役をしてほしい」


「わかったよ。僕もホリーも軽戦士だしね」



 ホリーは行軍中も休憩時間に剣の稽古もする予定だ。相手役はその時々に応じて代わり、今回はベネディクトだ。彼は戦士としてはバートとヘクターには劣るが、凄腕と評価できる実力を持っている。

 ホリーも今は皮鎧を身に(まと)った駆け出し軽戦士のような格好だ。戦いに(おもむく)くからには身を守る備えが必要だ。その程度の鎧では、妖魔相手ならともかく、より上位の魔族に攻撃されたら危ういが、そうならないようにバートたちと護衛の騎士たちが彼女を守るのだ。

 エルマーからはホリーに神官らしい格好をさせるべきではないかと提案されたが、彼女が神官らしい格好をすると敵から狙われやすくなるというバートの主張に彼も納得した。ホリーが正式に聖女と認められ、帝国の軍勢に従軍する時は、軍勢の士気をさらに高めるためにも彼女もそれらしい格好をすることになるのであろう。


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