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プリンス オブ ザ フォールンキングダム  作者: 伊勢屋新十郎
02 新米聖女は道を見出す
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50 宿に戻って 02 ヘクターの頼み

 話し合いも終わって、酒場でいつもどおりヘクターが冒険者たちと酒盛りをしてきた。ホリーが酒を飲まされないようにバートとシャルリーヌが気を配っていたが。

 今日もヘクターとニクラスは飲み比べをしたが、リンジーは賭けを提案しなかった。彼女は男女関係については純情で、前のことを引きずっているのだ。彼女は顔を赤らめながらヘクターの顔を何か言いたそうに見ていたが。一方ヘクターはリンジーを意識しているのかそうではないのか、ホリーにはわからなかった。

 そして酒盛りも切り上げてホリーたちは部屋に戻っている。今回もまた普段とは異なる光景になっているのであるが。



「ふふ。バートも気持ちよさそうに寝ているわね」


「はい。本当に」


「バートがこんな安らかに眠るなんてなぁ……」



 今日はシャルリーヌがバートに膝枕をしている。リンジーはいない。シャルリーヌが言ったのだ。前自分はバートに膝枕できなかったから、今度は自分の番だと。前回シャルリーヌとホリーは酒に酔ったリンジーの後押しを受けたけれど、今回は自分たちから言い出さなければならなかったから、恥ずかしかった。だけどなんとかここまで持ち込んだ。

 バートは抵抗しようとしたが、理屈で言いくるめるのは無理そうだと(あきら)めた。少し膝枕してもらえばシャルリーヌも満足するだろうと思ったのだ。そしてバートはシャルリーヌに膝枕してもらったまま眠ってしまった。



「私の膝でもこんな風に寝てくれるか、不安だったんだけどね」



 シャルリーヌにも女としてのプライドはある。ホリーのことは自分も見込んでいるけれど、バートに自分がホリーには劣ると思われるのは少し悔しい。ホリーは聖女なのだから、自分がそのホリーに劣るのは当然なのだけれど。だけどそんな不安も杞憂(きゆう)だったようで、バートは安らかに眠っている。シャルリーヌがバートの頭をなでても、バートは目を覚ます気配はない。ホリーもそのバートの頭に手を伸ばしてなでる。彼女らにとって、そんなバートがとてもかわいく見えていた。

 ヘクターはそんなバートの様子に驚いている。彼はこんなバートを見たことがなかった。今日はバートの珍しい姿を何度も見るものだ。前回の時は自分もリンジーに膝枕されて、その後は強引に添い寝させられて、それどころではなかったのだが。

 ヘクターが真剣な顔になる。



「お嬢さん。シャルリーヌ。時々バートをこうして寝かせてやってくれねえか?」


「え……いいんですか?」


「バートは抵抗すると思うけど」



 ホリーとシャルリーヌはバートに膝枕してやることに恥ずかしさも感じるけれど、喜びも感じている。普段無表情で(すき)のないこの人のこんなかわいい姿を見せてもらえることに。だけどヘクターからこんなことを頼まれるとは思っていなかった。



「確かにバートは抵抗するだろうけどさ。俺はバートがこんな安らかに眠ってるところなんて見たことがなかった。バートは寝てても臨戦態勢というか、ピリピリしてる感じでさ」


「確かに……」



 それはホリーもバートたちと同じ部屋で寝起きすることで感じていた。冒険者とはそんなものなのかもしれないと思っていたのだけれど。



「それにバートは自分の幸せなんて考えていないんだ。それどころか死に場所を求めてるって感じでさ」


「……」



 ホリーもそれを心配していた。バートと付き合いの長いヘクターまでそう言うならば、本当にそうなのかもしれない。

 シャルリーヌはバートが死に場所を求めているなど許せなかった。もちろん自分は幸せになりたいし、この男とホリーにも幸せになってほしい。



「でもお嬢さんとシャルリーヌなら、そのバートの心に(くさび)を打ち込めるかもしれない。お嬢さんたちもバートといい感じのようだしさ」


「……私もバートさんと一緒に幸せになりたいです。これが恋心なのかはまだわかりませんけど……」


「私もバートとならそんな関係になってもいいわね。ホリーが大人になるまでじっくりとバートを見極めようかなと思ってるけど」



 ホリーもシャルリーヌも、そのヘクターの言葉を嫌だとは思っていなかった。バートとなら終生を共にしてもいいとも思っていた。それが恋や愛なのかは、彼女たちもまだよくわかっていないけれど。



「でも、バートにはこれまでそういう人はいなかったのかしら?」


「うーん……一人心当たりはあることはあるんだけど、あの頃はバートもあの人もまだ大人になったかならないかくらいで、その後全然会ってないし、連絡も取ってないしなぁ……」



 シャルリーヌはそんな前のことなら恋のライバルにはならなさそうだと思った。バートが大人になったくらいというと、もう何年も会っていないのだろう。それだけ前となると、その相手もバートのことを忘れるか、忘れていなくても思い出で終わっているだろう。



「あなたたちはそこまで付き合いが長いのね」


「おう。バートと俺はガキの頃から兄弟同然に育ったんだ。バートは俺にとって頭が良くて頼もしい兄貴って感じでさ」


「……そう」



 ヘクターがバートと兄弟同然に育ったということは、ゲオルクたち義兄弟を思い起こさせられた。あのオーガたちは立派な男たちだった。

 そしてシャルリーヌは危惧している。ゲオルクたち義兄弟のように、バートとヘクターも死ぬ場所は一緒だと考えているかもしれないことに。そしてこの二人は必ずしも自分自身の命を守ることに執着(しゅうちゃく)してはいないように見えることに。



「まあそういうわけで、お嬢さんたちにはバートのことを頼みたいんだ。俺はこの人に幸せになってほしい」


「……はい!」


「ええ。わかったわ」



 ホリーもシャルリーヌもそれには異論はない。自分たちがバートを幸せにしてやれて、そして自分たちも幸せになれるなら、それでいいではないか。聖女であるホリーの相手が冒険者のバートでは釣り合わないと、くちばしを突っ込んでくる者もいるかもしれないけれど、それがどうした。おそらく自分たちはバートに()かれているのだろう。



「あなたはリンジーと相性が良さそうだしね。私はリンジーの恋も応援しているわよ?」


「お、おい」


「ふふ。あなたはリンジーをどう思っているのかしら?」


「……リンジーは美人だし、性格もいいし、好ましい奴だと思ってる」


「そう」



 そしてシャルリーヌはリンジーの恋も応援している。ヘクターの反応を見る限り、この男もリンジーの恋心に気づいていて、そして彼女に対する印象も良さそうだ。この分ならリンジーの恋が実る可能性も十分にあるだろう。



「じゃあ、私たちはバートの左右で寝ましょうか」


「はい」


「おいおい。シャルリーヌもお嬢さんもそこまでしなくてもいいんだけどさ」


「今はバートは安らかに寝てるとはいえ、私たちが離れたらそうじゃなくなるかもしれないでしょう?」


「バートさんは寝てても緊張を解いていないって感じですし……」


「まあそうなんだけどなぁ……でもシャルリーヌもお嬢さんも無理してまでそうしてくれなくていいぜ? バートもそこまでは望んでいないだろうしさ」


「ふふ。私たちがしたいからしてるのよ」


「ええ。このバートさんもかわいいですし」


「それならまぁ、任せるか」



 ヘクターは二人をやんわりと止めようとしたが、二人の言葉に引き下がった。彼もバートが寝ている間も緊張を解いていない様子に見えることはずっと気になっていたのだ。もちろん彼らも冒険者である以上は、寝ている時でも完全に緊張を緩めるわけにもいかない場面もある。だがバートは度が過ぎていると彼は思っていた。だからたまにでもいいからバートにも安らかに眠らせてやりたかった。

 一方ホリーとシャルリーヌにももちろんバートを安らかに休ませてやりたいという思いもある。添い寝までするのはさすがに恥ずかしいけれど。

 二人は事前に話し合って、したいことがあった。それは以前に夢の中で出会った存在に宣言すること。そううまくいくかはわからない。バートがこんな風に無防備に寝る確証もなかった。この後一緒のベッドに入って寝るにしても、またあの夢を見るかどうかもわからない。それでも彼女らはあの存在に宣言したかった。


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