表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プリンス オブ ザ フォールンキングダム  作者: 伊勢屋新十郎
02 新米聖女は道を見出す
44/158

41 戦後処理 04 シャルリーヌは同行を申し出る

 バートとホリーが執務をしていると、また役人が来た。今度は徴税(ちょうぜい)担当の役人だ。



「バート様。妖魔共の略奪を受けた村々の税を軽減するか免除せよとのことですが、そうすれば税収が減ってしまいますが……」


「略奪を受けていない村々からは通常通りに徴税すればいい。だが村人たちが十分に生活できない村は、今年の税は軽減するか免除するべきと考える」


「ですが……」



 役人は納得した様子はない。彼にとっては税を取り立てることこそが自分の仕事なのであり、それを減免しろと本来の主ではない者に言われても、簡単には納得できない。



「無理に取り立てて村人たちが死ぬか離散するかすれば、その後は税を取ることができなくなる。税を減免して村人たちが生活できるようにすれば、今年は一時的に税収が減っても、来年以降は税を取ることができるだろう」


「……確かに。左様(さよう)でございますなぁ」



 続くバートの言葉に役人も納得する。言われてみればそれは自明のことだ。



「この施策(しさく)を利用して己の私腹を肥やそうとする徴税官(ちょうぜいかん)や、略奪されたと(いつわ)って税を逃れようとする者も出るかもしれない。そのような者は処罰するとも周知しろ。だが審査を厳しくすると本当に略奪をされて税の減免が必要な者が申し出にくくなるかもしれない。審査は簡易的なものにして、不正が発覚すれば処罰しろ」


「かしこまりました。ごもっともでございます」



 税に関する不正を防止すること。それがこの役人の職務でもある。それが認められたと考えたのか、役人もバートの言葉を素直に受け入れた。



「場合によっては食料や種籾(たねもみ)、家畜や農具などの援助も必要かもしれない。そうすれば村人たちも()えの不安にさらされることなく、来年に備えることができるだろう。それが必要か(いな)かの調査もしろ。君たちには負担を増やしてしまうが」


「おお。なんというお慈悲なのか。感服いたしました。確かに私たちの負担は増えますが、税の減免の必要性を調査するのですし、私たちなら効率的に調べられます」


「用件はそれだけならば仕事に戻れ」


「はい。ではご指示どおりにいたします。いや、本当に感服しました」



 ホリーは感嘆する。バートの視野の広さと、それをただ命令するだけではなく、きちんと説明して役人たちも納得させていることに。だけど悲しくも思う。この人は決して慈悲から行動しているのではない。この人にとって善行を行うのはそうしたいからではなく、義務でしかないのだ。

 そしてバートからすれば、これも慈悲からの施策(しさく)ではない。無理に税を取り立てて村人たちが死ぬか離散してしまえば、それ以後の税を取ることはできなくなる。村人たちも領民たちも恨みを持つだろうし、治安が悪化する恐れもある。それを回避して来年以降の税収を確保するためには、今年の税を減免するべきという合理的な判断をしたにすぎない。彼は合理的に考えて正しいと思える施策をとっているだけで、慈悲や正義感によるものではないのだ。




 しばし政務をしているとまた扉がノックされ、ホリーが返事をして扉を開ける。入って来たのは長い金髪の美しいエルフの少女、シャルリーヌだった。エルフは長命だから外見からは年齢はわかりにくいけれど、彼女の年齢はバートと同じくらいらしい。人間から見たら十代後半くらいの少女に見えるのであるが。



「バートもホリーもお疲れ様。調子はどう? 役人たちはバートに感心しているようだけど」


「私は任されたことをしているにすぎない」


「バートさんはこんなことを言ってますけど、すごいです。適切な指示をして、それを役人さんたちにも納得させて。私は雑用しかできないんですけど……」


「お嬢さんが手伝ってくれるのは助かっている」


「は、はい!」


「ふふ。あなたたちもうまくやっているようね」



 シャルリーヌは任務の報告に来たのだけれど、少しくらいの世間話はしても問題はない。彼女が来たのは仲間たちのおせっかいによるものであった。彼女はバートと会いたいであろうと。

 シャルリーヌは思う。バートはホリーに自然に配慮(はいりょ)しているけれど、この男はそれに自分で気づいているのだろうか。この男にはほとんどの人間は妖魔同然の敵に見えている。それなのにホリーに対しては思いやっている様子なのは、この男の絶望に()てついた心を溶かす(きざ)しなのかもしれない。その二人の様子も微笑(ほほえ)ましいのだけれど。



「領主が持ち出した財宝は全部持ち帰ったはずよ。よくぞあそこまでの財産をため込んだものだと思うけど。あと放置されていた物資も回収しておいたわ」


「そうか。ご苦労だった。君たちは平常どおりの冒険者としての仕事に戻るのか?」


「ええ。一日か二日休んでから新しい仕事がないか様子を見るわ」



 ゲオルクたちとの戦いの後、バートは街の外に脅威は残っていないか探るために、冒険者たちを偵察に派遣していた。その冒険者たちから、領主たちが虐殺された場所に大量の財宝が荷馬車に乗せられたまま放置されているという報告が入った。荷馬車を引く馬は放されていたようだが。



「でも魔族は財宝に興味がないという話は本当なのね」


「だからこそ、各地の遺跡に莫大な財宝が残されているのだろう。そもそも財宝に執着(しゅうちゃく)する人間の方が種族として異常なのかもしれない」


「ふぅ……あなたは相変わらず人間嫌いね」



 人間が欲深い種族であることはシャルリーヌも否定しない。エルフやドワーフに比べ、人間という種族は全体的な傾向として明らかに欲望が強い。それでもシャルリーヌもほとんどの人間が悪の本性を持つとまでは思っていない。

 バートは領主代理としてシャルリーヌたちに残された財宝の回収を依頼していた。財宝や物資は大量にあるから、人足なども付けて。シャルリーヌたちと別に複数組の冒険者たちも付けて人足たちが財貨を盗まないように監視もさせていた。その財宝はエルムステルの街を運営するための資金にもなるだろうという目算もあった。



「あと冒険者の店に、約束どおり回収された財宝から妖魔討伐行に参加した冒険者たちへの追加報酬を払うと伝えておいてくれ」


「わかったわ」



 冒険者たちが()した功績はそれに値するものであり、役人たちも内心はどうあれ反対はしなかった。それは冒険者たちが欲に駆られて財宝に手を出すのを防ぐためでもあった。あらかじめ追加報酬を約束しておけば、我欲(がよく)に駆られる者はそうはいないであろうと。バートは妖魔討伐行に参加した冒険者たちも見込みはあると考えているが、善良な人間も時に魔が差すものだとも思っている。



「私は追加報酬はいらないんですけど……」


「お嬢さんの働きも大きなものだった。そのお嬢さんが追加報酬を受け取らなければ、他の冒険者たちが後ろめたく思ってしまうかもしれない」


「そうね。受け取っておきなさい。あなたの功績はそれに値するものだったのだから」


「はい……」



 バートたちも追加報酬を受け取る。バートは金にこだわりすぎる男ではないが、最も大きな功を上げた彼らが追加報酬を受け取らないわけにもいかない。



「でも私は今後あなたたちに同行しようかしら。私が足手まといにならないか心配だけど」



 シャルリーヌはバートに()かれているのだろう。それが恋や愛にまで進んでいるのかは彼女自身にもわからない。ただ彼女がバートを男性として好ましいと思っているのは確かだった。

 だけどそれ以上に、彼女はバートやホリーたちが心配だった。バートには危うい所があると彼女は考えている。この男はいざとなれば自分自身の命を惜しまないのではないかと。ヘクターも他人のために命を賭けかねない。

 ホリーのことも心配だ。この子は聖女の可能性が高いのだからもちろん守らなければならないのだけれど、彼女はこの子を個人的にも気に入っている。そしてこの子は優しすぎる。その優しさを悪意を持った者に利用されてしまうかもしれない。

 シャルリーヌの実力は凄腕(すごうで)と称されるにふさわしいものだけれど、バートとヘクターに比べると低い。自分がついて行って足手まといにならないか心配なのも本音だ。だけどバートとヘクターが主力として戦い、シャルリーヌが補助する形になれば、ホリーを守りやすくなるという目算もある。



「シャルリーヌさんが一緒にいてくれるなら、私も心強いです」


「確かにお嬢さんを守ってくれる信頼できる者がいればありがたい。お嬢さんが気軽に相談できる女性がいることも。お嬢さんも男の私とヘクター相手では相談しにくいこともあるかもしれない」


「ふふ。そうね。ホリーは年頃の女の子なんだから」


「は、はい」



 ホリーはシャルリーヌはいい人だと思っているし、この人が一緒にいてくれると心強いのは本心だ。男性のバートとヘクターには相談しにくいこともあるのも事実だ。

 そしてバートにとってもシャルリーヌが同行してくれるならばありがたいのも本心だ。彼女は人格的にも実力的にも信頼できるし、ホリーを守る戦力としても心強い。ホリーが彼とヘクターに気を遣っている様子も垣間(かいま)見えることも気になっていた。年頃の少女に常に男連中がついているよりも、気軽に相談できる女性もいる方が良いのではないかと。彼も妖魔討伐行でホリーが女冒険者たちと接している様子を見て、そう思うようになったのだ。



「リンジーたちもあなたたちと同行するように声をかけてみようかしらね」


「そうしてくれるとありがたい。お嬢さんの安全を確保しなければならない。いずれ私から君たちも同行してくれないかと声をかけるつもりだった」



 そしてシャルリーヌとリンジーがいれば、宿でも彼女たちにホリーを守ってもらえばいいから、男女別室にできる。ホリーが着替える時はバートたちは部屋を出るとはいえ、彼女もいつまでも男と同室なのは抵抗があるだろう。ホリーからすればバートたちとなら嫌ではなく、それはこの人の気の回しすぎではあるのだけれど。



「でもあなたもホリーが大事なのね」


「私がお嬢さんのことを心配だと思っているのは事実なのだろう」


「そう思ってくれるのはうれしいです」



 しかし彼は気づいているだろうか。ホリーを守るためという理由があるとはいえ、彼はこれまで見込むに値する冒険者と出会っても、同行しようと考えることはなかった。そもそも彼は理性で考えて行動することはあっても、誰かを思いやって行動することはなかった。その彼がホリーを思いやっている。ホリーという彼にとって不思議な少女と出会ったことにより、彼の心も少しだけ変わったのかもしれない。



「今日は私たちもあなたたちの宿に押しかけて、一緒にお酒を飲んでいいかしら?」


「ああ。構わない。私は酒は飲まないが」


「ふふ。あなたも頑固ね」



 バートたちは今も冒険者の店に宿を取っている。役人たちからは領主の館に入ってもらう方がいいのではないかとの声も上がっているが、領主の館は略奪や破壊の跡がまだ残っており、領主代理が入るのはふさわしくないという声もある。バートとヘクターとしては、死んだ領主が権力をかさに年若い少女たちを無理矢理召し抱えていたことに、望むと望まぬとして加担していた者共が残っている館に、ホリーを連れて入る気などないのだが。

 冒険者の店ではヘクターは毎夜冒険者たちと酒盛りをしている。バートとホリーは酒は飲まないが、ひっきりなしに冒険者たちから声をかけられていた。ホリーはあまり(にぎ)やかすぎるのは苦手なのだけれど、不思議とその空気は心地よかった。意外なことにバートもそんな空気は嫌いではないようだ。まだ大人になっていないホリーにも酒を勧めようとする困った者たちもおり、それはバートが阻止しているのだけれど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ