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プリンス オブ ザ フォールンキングダム  作者: 伊勢屋新十郎
02 新米聖女は道を見出す
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38 戦後処理 01 政務

 エルムステルの街は、領主とその家族が領民を見捨てて逃げる途中に皆殺しにされ、騎士団も壊滅し、統治機構は崩壊寸前になっている。それを応急的にであっても立て直す必要がある。



「仕事は多いだろうとは予想していたが、予想以上だな」



 官庁にある領主の執務室にいるのは、その役割を渋々であるが引き受けた男だ。黒髪の、暗いものを感じさせる灰色の瞳を持つ男。人間不信の魔法剣士バート。この男はきらびやかな装飾に満ちた部屋でも鎧を(まと)ったままでいるのは場違いであるが。彼はあくまで一時的な領主代理であり、正式に統治を引き継ぐ者を送ってもらうように使者も出している。



「でもそのいっぱいある仕事を処理できるバートさんはすごいです」



 明るい金色の髪と美しい青い瞳を持つ可憐(かれん)な少女ホリーも、この部屋でバートの手伝いをしている。ホリーは今は普通の服を着ている。ただでさえ()れない作業をするのに、鎧まで着ていたらまともにできるはずがない。ホリーがするのは雑用だけだけれど、それでも彼女にとっては慣れない作業だ。

 官庁に出入りするからにはいつまでもホリーが村娘や町娘のような服を着ているのはよろしくないと、領主に仕えていた仕立屋(したてや)が大急ぎで動きやすくかつ上品な服を用意している最中だ。彼女はそのような格好をするのは落ち着かなさそうだと思っているのだが。




 そうして彼らが政務をしていると扉がノックされた。ホリーが扉を開けて、役人を迎え入れる。机を前にしたバートの対面に立った役人は書類の束を手にしている。この世界において植物性の原料を使用した紙も一般に使用されている。



「次の書類はそれか?」


「はい。こちらでございます」


「あちらのお嬢さんの机に置け。あちらにある書類は処理が終わっているから、各部署に分配して対処しろ」


「こちらです。お願いします」


「はい。かしこまりました。ではこちらはお願いいたします」



 役人は処理の終わった書類の束を手にして退室する。残った役人たちも命令をされることに安心するという感情があるのか、バートの指示におとなしく従っている。旧チェスター王国領の支配層側の者たちにとって冒険者は見下す対象であるし、最初は彼らもその態度を隠せていなかったが、バートの働きぶりを見て(てのひら)を返した。



「役人さんたちもきちんと生活できるようになって良かったです」


「彼らも生活するためには給金を受け取る必要がある。お嬢さんも理解しておく必要がある。人が不自由することなく生きるためにはある程度の金は必要だ。お嬢さんが欲深くなっても困るが」


「はい」



 役人たちの給金の財源となる街の資金の保管庫は、死んだ領主が逃げる前に封鎖してしまっていた。それを領主代理としてのバートの依頼を受けた、盗賊のベネディクトと魔術師のシャルリーヌが機械的な鍵と罠と魔法的な鍵を解除し、資金を出せるようにした。役人たちにとって彼らは自分たちも生活を続けられるようにしてくれた恩人なのだ。バートは役人たちのために保管庫の開放を依頼したわけではなく、領主代理として施策(しさく)を行うための財源とし、その手足となって動く役人たちの給金を確保するためであったが。



「でもやっぱり悪い役人さんもいるのでしょうか……」


「ほとんどの人間の本性は悪だ。一見善良そうな者も、その顔の裏には(みにく)い本性を隠している」


「……」



 ホリーにとって、バートがそう考えていることは悲しい。だけど彼女も悪い人間がいることは認めざるをえない。

 この街の役人にも、城門でホリーに目を付けた役人のような、上にへつらい下には傲慢(ごうまん)に振る舞う者共もいる。だがあそこまで極端な者ばかりではない。あの役人や他の門で同じような役割を与えられていた者たちは、領主のお気に入りとして、いずれまた領主の好みに合う少女たちを集めるためにと領主にお供して、魔族たちに殺されたのだが。



「でも、バートさんもすごいですね。皆さんもバートさんを()めているようですよ」


「一時的とはいえ立場が上になっている私にこびへつらっているだけの者も多いだろう」


「……」



 ホリーも理解せざるをえない。この人は人間を信じていない。この人にとってはほとんど全ての人間は敵に見えているのだろう。

 だがバートに感心している者が多いことは事実だ。バートに一時的にでもこの街を統治するように頼み込んだマルコムたちにとっても、指示を受ける役人たちにとってもうれしい誤算であることに、一冒険者でしかないはずのバートの政務能力は高かった。(とどこお)っていた政務をたちどころに処理し、適切な指示を出していく。

 このほんの短期間で、役人たちはバートを自分たちの上で指示する者として認めるようになった。政務を(おろそ)かにしていた死んだ領主の元で働くことに鬱屈(うっくつ)していた役人たちもおり、今はやりがいがあると張り切っている者たちもいるほどだ。バートにこびへつらおうとする者すら出てきているのだが、彼は人間などそんなものだと思って無視している。


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