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プリンス オブ ザ フォールンキングダム  作者: 伊勢屋新十郎
01 元王子は新米聖女と出会う
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30 オーガの将義兄弟たちとの戦い 02 ヘクター対イーヴォたち

 ゲオルクは息絶えた。魔族の集団もこの場を去ろうとしている。だがまだ終わりではない。



「兄者。バート。いい戦いだったぜ」


「兄者もいい死に様だったじゃねえか」


「おう。満足しきっているっていう死に顔だ」



 イーヴォとカールとグンターは、ヘクターと対峙(たいじ)しながらその光景を黙って見ていた。ゲオルクに加勢しようというそぶりを一切(いっさい)見せることなく。ゲオルクの帰還せよという言葉にも去ろうという様子もなく。

 ヘクターが声をかける。



「あんたらは行かないのか?」


「ゲオルクの兄者と俺たちの義兄弟は死ぬのは同じ時同じ場所と決めてんだ」


「……そうか」



 ヘクターはイーヴォたちなら見逃してもいいと思っていた。だがイーヴォたちはそれを否定する。魔族たちは去ろうとしているが、イーヴォたちの戦いを見届けるためか、少数の飛行できる魔族たちがその場に留まっている。



「さあ、ここが俺たちの死に場所だ!」


「ヘクター、バート。二人で来い!」


「俺たちゃ三人だ。それでも俺たちじゃお前ら二人を相手にしたら勝てねえだろうが、全力で戦おうぜ!」



 イーヴォたちは吠える。

 バートがゲオルクの死体から離れてヘクターの方に行こうとする。

 それをヘクターが止める。



「バート。俺一人にやらせてください。俺が死のうとも、手を出さないでください」


「……わかった」



 バートはそのヘクターの頼みを受け入れた。ヘクターには確信がある。たとえ自分が敗れても、一人か二人は仕留めることはできると。そうすればバートが負けることはないと。そして自分が一人で勝つことも不可能ではないと。



「俺の本当の名前はヘンリー。家名を言うのは、悪いけど勘弁してくれ」


「へっ。上等だ」



 イーヴォたちもヘクターの心意気(こころいき)は理解した。この男は自分たちをただ倒したいのではなく、自分たちを認めたのだと。ならばその心意気に応える戦いをしなければならない。



「おおおお――――っ!!」



 イーヴォが雄叫(おたけ)びを上げて突進し、バトルアックスを振り下ろす。

 ヘクターは前に出ながら、その手にしたハルバードの()でバトルアックスを受け流す。そんなことをイーヴォの膂力(りょりょく)と魔法を付与された巨大なバトルアックスの質量を相手にやろうとしても、普通はハルバードごと真っ二つにされるだけだ。だがヘクターはそれをやり、こちらも魔法を付与されて強度が強化されているハルバードも耐えた。そしてハルバードの石突(いしづ)きをイーヴォの顔面にたたき込む。意表を突かれた強烈な一撃にイーヴォが蹈鞴(たたら)を踏む。



「俺たちを忘れんじゃねえぞ!」


「おうよ!」



 その間にカールとグンターは左右に回り込んでいた。左右から同時にバトルアックスを振るう。ヘクターは身を沈めてそれを(かわ)し、グンターの足をハルバードで払う。すね当てに守られているグンターの足を切り落とすことはできなかったが、グンターは体勢を揺るがせる。



「はっはー! やるじゃねえか!」


「ぐっ……」



 イーヴォが鼻血を流しながらバトルアックスを振るう。それをヘクターは避けることができなかった。だが魔法が付与された重厚な鎧が彼の命を守った。それでも衝撃は彼の体にダメージを与える。これがゲオルクが振るったものだったら、ヘクターは行動不能になっていたかもしれない。



「おおおっ!」



 攻撃の威力に一時後退したヘクターが、前に出ながらハルバードの穂先(ほさき)を突き出す。それはカールの(まと)っている鎧の隙間に命中した。致命傷のはずだ。だがカールはハルバードをその身に食い込ませたままバトルアックスを振るう。それはヘクターを吹き飛ばした。ヘクターは武器を手放さないまま吹き飛ばされ、ハルバードが抜けた傷口から血が噴き出す。カールが崩れ落ちる。



「カールも倒れちまったか!」


「上等だ!」



 グンターがバトルアックスを振るう。ヘクターはそれを(かわ)す。続けてイーヴォがバトルアックスを振るう。それを完全に躱すことはできず、バトルアックスがヘクターの鎧をかすめて嫌な音を鳴り響かせる。



「まだまだ!」



 そこにさらにグンターがバトルアックスを振るう。それに対し、ヘクターはハルバードという大柄な武器を扱っているとは思えない精密な動きで、グンターのバトルアックスを握っているその手を攻撃した。グンターは何本かの指が切り飛ばされ、バトルアックスがすっぽ抜ける。



「それ以上はさせねえ!」



 イーヴォがグンターへのそれ以上の攻撃をさせないと攻撃する。ヘクターは前に出て、イーヴォの足の間にハルバードの()を差し込んでひねり、転倒させる。



「俺はまだ死んでねえぞ!」



 武器を失ったグンターが、負傷したままの拳で殴りかかる。だがこの状態ではリーチはヘクターの方が長い。ヘクターはハルバードの穂先(ほさき)を繰り出す。その渾身の力を込めた穂先は、グンターの(まと)っている重厚な鎧を貫通して、致命傷を与えた。ヘクターはハルバードを抜こうとする。だが抜けない。グンターが筋肉を締めて、指を失った手も使ってヘクターのハルバードを抱え込んでいた。



「へへっ……このハルバードはもう使わせねえぜ……」


「よくやった、グンター! 死ぬまで離すな!」



 立ち上がったイーヴォがバトルアックスを振るう。ヘクターはハルバードを手放して(かわ)し、腰に差していた予備の武器として持っている剣を抜く。



「おおおお――――っ!」


「おおおお――――っ!」



 イーヴォが距離を取ったヘクターを追撃するべく、突進する。バトルアックスを振りかざす。ヘクターは(かわ)すのではなく、前に出る。バトルアックスの()がヘクターの鎧を叩く。そしてヘクターの次はないという気迫で突き出した剣はイーヴォの胴体の中心を貫いていた。強固な鎧とイーヴォの頑強な肉体を貫き、鎧の背中側まで達した、魔法を付与されてはいるもののただ頑丈なだけの平凡な剣はあまりの衝撃に砕ける。イーヴォに致命傷を負わせる前に剣が砕けなかったのは、ヘクターにとって幸運であった。



「へっ……へへへ……お前、強いなぁ……」


「……あんたらも強かったぜ」



 勝敗はついた。ヘクターは使い物にならなくなった剣を手放し、イーヴォは倒れる。同時にヘクターも膝をつく。彼もダメージが大きい。この勝負、彼にとってもギリギリだった。ここで彼が倒れていても全くおかしくなかった。だが彼は勝った。

 瀕死(ひんし)のオーガたちはまだ生きている。だがそれももう長くはない。



「あぁ……楽しかったなぁ……」


「おう……楽しかったなぁ……」


「こんな楽しく死ねるなんてなぁ……」



 彼らには悔いはなかった。義兄弟のゲオルクと同様に。彼らはこの結果に満足していた。



「手間をかけて悪いが……ゲオルクの兄者と俺たちの死体は焼いておいてくれ……俺たちゃアンデッドになんざなりたくねぇ……」


「……おう」



 人類のみならず、魔族たちにとってもアンデッドは敵だ。彼らは恨みなど抱かずに死んでいくのだから、アンデッドになる確率は低いかもしれないが、ないとは言い切れない。そしてもしこの男たちがアンデッドになれば、近隣の者たちにとって災厄(さいやく)となるだろう。

 バートもヘクターの近くに来る。



「お前らもいつか冥界に来たら……兄者と俺たちと……また戦おうぜ……」


「俺は死んだ後にまで戦うのは御免だね」


「つれないことを言うなよ……まあ、お前らとなら一緒に酒を飲むのも楽しそうだなぁ……」


「あの世で盛大に宴会をしようぜ……」


「……ああ」


「強き者たちよ。ゲオルク、イーヴォ、カール、グンター。お前たちの名は、私が死ぬまで覚えていよう」


「俺も覚えているぜ」


「ありがとよ……」



 ヘクターは、それにバートも、このオーガたちを憎む気にはなれなかった。それどころか、この男たちを好ましいと思っていた。平和な場所で出会っていたならば、種族を越えた友になってもおかしくはなかったと思えるほどに。



「あぁ……楽しかったなぁ……」


「楽しかったなぁ……」


「楽しかったなぁ……」



 そうして、オーガの義兄弟たちは息絶えた。その顔に笑みをたたえたまま。


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