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プリンス オブ ザ フォールンキングダム  作者: 伊勢屋新十郎
01 元王子は新米聖女と出会う
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28 冒険者たちは事態の一部を知る

 バートたち冒険者集団はもうすぐエルムステルの街に到着するという所まで来ている。そして彼らは魔族たちの集団を視認した。望遠鏡と遠視の魔法も使って確認するが、明らかに魔族たちは自分たちを待ち構えている。昨日あたりから、飛行できる魔族が遠くから冒険者たちの動向を偵察していたのは彼らも気づいていた。



「君たちはここに残って、いつでも逃げられるようにしてほしいのだが」


「まあなぁ……俺も正直に言うとお嬢さんとみんなを道連れにはしたくないし……」


「嫌です。私はバートさんたちと一緒に行きます」


「そうね。バートもヘクターも(あきら)めなさい。私も行くわ」


「そうだぜ! あんたらも水くさい。俺たちゃ一蓮托生(いちれんたくしょう)だ!」


「おうよ!」


「うむ」



 バートとヘクターの言葉にも、ホリーも冒険者たちも止まろうとはしない。冒険者たちは馬に乗ったまま整然と進む。冒険者たちは緊張しながらも戦闘態勢には入っていない。魔族たちも戦闘態勢には入っていない。

 もう少し進むとお互いに弓や魔法の射程に入るという所で、冒険者集団は馬の足を止めた。

 バートとヘクターがホース・ゴーレムに乗ったまま進み出る。ホリーはバートの後ろではなく、シャルリーヌの後ろに乗せてもらっている。

 魔族集団の方からも四人のオーガが進み出る。オーガたちは中間点を越えて、バートたちの近くまで来る。

 一際(ひときわ)立派な体格をしたオーガが堂々たる声量で言葉を発した。



「我が名はゲオルク。お前たちが静かなる聖者バートと、鉄騎(てっき)ヘクターか?」


「そうだ。私はバート」


「俺はヘクターだ」


「俺はイーヴォ」


「俺はカール」


「俺はグンターだ」


「勇気ある者たちよ。静かなる聖者バート。鉄騎ヘクター。我はお前たちを勇士と認めよう。約束どおり、我らが勝とうとお前たちが勝とうと、我らは街を攻撃せぬ」



 バートたちは一つ賭けに勝った。

 バートとシャルリーヌには、敵将であるゲオルクの名前に心当たりがあった。ヴィクトリアス帝国初代皇帝アラン・ヴィクトリアスの英雄譚(えいゆうたん)。その一節だ。

 英雄帝は百五十年前の大戦時、帝国の前身の王国の傭兵隊将軍だった頃、オーガの豪傑(ごうけつ)と戦った。そのオーガの名はゲオルク。英雄帝は戦いに勝ったが、ゲオルクの勇猛さを賞賛して見逃した。ゲオルクはその英雄帝に感化されて、以後正々堂々とした振る舞いをするようになったという話だ。

 人類側の賢者たちからは、そのオーガは『勇将』ゲオルクと呼ばれている。ゲオルクは人類側との戦いにおいて何度も確認されているが、そのたびに圧倒的な強さを見せ、そして常に堂々たる振る舞いをしたことで知られている。無力な者を殺すことは好まぬことでも。ここ百五十年ほどは人類と魔族の大規模な戦いはなく、ゲオルクが(いま)だ健在なのかは不明だった。だが、ゲオルクを討ち取ったという話は信憑性(しんぴょうせい)のあるものは存在しない。

 無論その英雄譚には英雄帝を(たた)えるための脚色も多分に混じっているだろう。勇将ゲオルクと今回の敵将ゲオルクが同一という保証も全くない。だが今回の妖魔討伐行において、妖魔たちは布陣(ふじん)はしても街や村に攻撃はしなかった。それはこの地域の全体指揮を()る者が無駄な殺戮(さつりく)を嫌う魔族だからではないかとバートたちは考えた。魔族にもそういう考えの者もいることは人類側の知識人にも知られている。

 だからバートは賭けに出た。自分とヘクターが(おもむ)けば、魔族たちはエルムステルの街を攻撃しないかもしれないと。

 ヘクターが口を出す。



「勇士として認めるついでに、一つ教えてもらえねえか?」


「なんだ?」


「あんたらは妖魔共を使って何をやりたかったんだ? あれじゃまるで妖魔共を俺たちに退治してくれって感じだ」



 ヘクターは純粋に好奇心で聞いた。素直に答えてくれるかはわからなかったが。



「その通りだ」


「……は?」



 思いも寄らない返答に、ヘクターは間抜けな声を上げる。



「妖魔共が増えすぎると、我らも困る。この地に侵攻した時には土地は妖魔共に食い潰されているかもしれぬのだから。人間たちが妖魔共を減らしてくれるのならば我らがわざわざ来なくてもよかったのだが、領主共が無能すぎた」


「そうかい」



 ゲオルクにとって、そして魔族たちにとって、このことは人類側に知られても問題ないどころか知られる方が好都合だ。こんなことをしなければならないのは魔族たちにとってあまりにも馬鹿馬鹿しい。

 その言葉に冒険者たちは気まずそうな顔をする。自分たちの怠慢(たいまん)を、よりによって敵から指摘された気になっていた。冒険者たちが責任を感じる必要はなく、責任は領主たちにあるのだが。



「妖魔共に街や村を攻撃させなかったのはなんでだ?」


「我は戦う力を持たぬ者を殺すのは好かぬ」


「あんたらにとって妖魔共は俺たちにわざと殺させても構わないのか?」


「いかにも。我は妖魔共は嫌いだ。ほとんど全ての魔族は下劣な妖魔共を嫌っているであろう」


「じゃああんたらはなんでエルムステルを攻撃しようとした?」


「お前たち二人をおびき出す餌に過ぎぬ。戦う力を持つ者がろくに残っておらぬ街を攻撃する意味はない。そしてお前たちは来た」



 バートたちは餌に食いついてしまったと言えるのかもしれない。そう言われても、ヘクターもバートも逃げようという気になどならなかった。

 そしてバートも気になっていたことを聞いてみようという気になった。



「『妖魔の間引(まび)き』の発生する妖魔の大侵攻では、この地域のように妖魔共が布陣(ふじん)するだけで攻撃行動に出ない地域と、妖魔共が攻撃行動に出て大きな被害が出る地域があると聞く。それはなぜだ?」


「妖魔共を間引く時、我のような無駄な殺戮(さつりく)を好まぬ者と、人間たちを殺したくてたまらぬ者が分担して指揮を任されることが多いようだ。軍師殿が何を意図してそうするのかは我にはわからぬ」


「そうか。お前たちには他にも目的があるのではないか? 妖魔の間引きだけが目的ならば、後ろの軍勢は必要ないはずだ。お前たちほど強力な魔族が指揮を()る必要もないはず」


「それは答えることはできぬ。お前たちは敵(ゆえ)に」


「そうか。答えられる範囲のことは答えてくれたことに感謝する」


「礼を言う必要はない。勇士に敬意を払うのは当然だ」



 一つ謎が解けた。もちろんバートにはゲオルクが本当のことを言っているのかは判断できない。だがおそらく本当なのだろうと思った。魔法でゲオルクの心を読もうにも、バートとシャルリーヌの智現魔法(ちげんまほう)の練度でゲオルクの魔法抵抗を打ち破って心を読めるかは難しい。



「お前は私とヘクターとの戦いを望んでいるとのことだが?」


「いかにも。我と我が義兄弟たちと戦え」


「俺たちは三人でゲオルクの兄者となんとか対等に戦えるって程度だ。兄者と一騎打ちするのと俺たちと戦うのと、どっちにするかはお前らに選ばせてやるぜ。俺たちは兄者の一騎打ちを邪魔させないために動くだけだけどな。兄者が勝てば、次は残った奴がまた兄者と一騎打ちをするってことで」


「お前ら二人以外は手を出すなよ。手を出されれば、俺たちも配下を向かわせなきゃいけなくなる」


「あと勝負がどうなろうと、後ろの奴等も街も見逃してやるぜ」



 四対二では対等の勝負とは言えない。だがゲオルクたちがその気になれば、五百近い魔族たちと百人程度しかいない冒険者たちの戦いになり、バートたちに勝機はないのだ。だからこれはバートたちにとっても悪くない勝負だ。



「私がゲオルクと戦う。ヘクターは残り三人を頼む。複数を相手にするならば、お前の方が生存確率が高い」


「はっ。ご無事で」



 バートは馬鹿正直にイーヴォの言葉を信じはしなかった。三対一、それも相手はかなり強力な近接戦闘型の魔族が相手となると、防御力が高いヘクターの方が生存確率が高いだろうと彼らは判断した。もちろん彼らはゲオルクが途轍(とてつ)もない強敵だということもわかっている。

 ヘクターの返事を聞いて、シャルリーヌたちは不思議に思った。彼ら二人は信頼し合う友人同士だと彼女らは思っていた。だけどヘクターの返事は主君に仕える臣下のように思えた。


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