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プリンス オブ ザ フォールンキングダム  作者: 伊勢屋新十郎
01 元王子は新米聖女と出会う
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26 救援要請

 ホリーたちが水浴びをしている頃、バートとヘクターたちは水浴びの順番を待つために待機している。奇襲などを受けないように見張りも任命している。冒険者たちには討伐は終了したのだからここまで警戒しなくてもいいのではないかという空気も漂い始めているが、バートとヘクターはそれを(いまし)めている。まだ自分たちが討伐していない妖魔共がいるかもしれないと。

 だが彼らが任務として行動する範囲の妖魔集団があらかた討伐されたことは事実なのだろう。彼ら冒険者集団の戦果は目を(みは)るばかりなのだし、領主が派遣した騎士団も動きは鈍いながら五集団あって、そちらも犠牲を出しながらもそれなりの戦果を上げている。バートたちはマルコムから渡されたマジックアイテムで相互の情報を交換しており、騎士団の動きもマルコムの使用人から聞いていた。

 その時、小鳥の形をしたそのマジックアイテムが声を発した。マルコムとの取り決めでは、バートたちは戦闘中の可能性があるため、基本的にバートたちからしか連絡を入れないことになっている。



『バート君! 聞いているかい!?』


「聞いている。あなた自身から連絡してくるとは、何かあったのか? 現在は話をしても問題はない」



 その声はマルコムの使用人ではなく、マルコム自身のものだった。



『あ、ああ。エルムステルの近くに魔族の軍団が出現した! 騎士団は壊滅状態らしい! 助けてくれ!』


「……なに? 我々がエルムステルに戻るにも、あと二日はかかるぞ」


「まさか……妖魔共はエルムステルから戦力を引き離すための(おとり)だったってことか!?」


「バート殿が危惧(きぐ)しておったことが、(まこと)になったということか……」


「そんなことがあるなんて……」



 マルコムの言葉に冒険者たちがざわめく。

 バートは危惧していた。妖魔共があまりにも手応えがなさ過ぎる。囮の可能性もあると。これまでの妖魔の大侵攻ではそのような事例はなかったようだとはいえ、今回もそうであるとは限らないと。それは領主と騎士団が考えることであって、雇われの身である冒険者たちが考えることではないのだが。

 彼らもそこまで心配しているわけではなかった。エルムステルからは騎士団の半数程度と冒険者集団が不在にしているとはいえ、街にはまだ騎士団の半数は残っているのだから。街には貧弱とはいえ堀と土塁(どるい)もあり、多少大規模な妖魔集団が街を襲撃したとしても十分に防げるはずだった。



「敵は妖魔ではなく、魔族なのか」


『そ、そうらしい。妖魔は一体もいなくて、全部魔族らしい』


「街は攻撃を受けているのか」


『い、いや。魔族の軍団は攻撃せずに留まっている。逃げようとする人は殺されるようだけど、街に引き返す人は見逃されるようだよ。領主様は生き残りの騎士団と一緒に逃げようとして、皆殺しにされちまったようだ』


「魔族の数は?」


『そ、それほど多くはないようだ。五百くらいじゃないかと聞いている。それで魔族たちの将のゲオルクという奴がバート君とヘクター君との戦いを望んでいるって書いた紙が、空から街にまかれたんだ! 君たちが来なければ街を攻撃するとも!』


「……」


『君たちが十日以内に来れば街を攻撃しないとも書いてある! 頼む! 報酬ははずむから、助けてくれ!』


「承知した」



 バートにはそんな無謀なことをする筋合いはないはずだ。ゲオルクという名前の魔族にはバートも心当たりがある。もしマルコムの言うゲオルクがただの同名の魔族ではなく当人であるならば、バートとヘクターでも対抗できるかわからない。そしてエルムステルの騎士団を壊滅させたというのだから、その魔族集団の力はこけおどしではないのは間違いない。しかもバートは人間の大半は妖魔同然の存在だと思っているのだ。それなのにバートは迷いもしなかった。




 そして水浴びを終えた女性陣が合流する。彼女らは深刻な雰囲気(ふんいき)の男性陣に不思議そうな顔をしている。

 バートが口を開く。



「エルムステルのマルコム氏から連絡があった。街に魔族の集団が接近し、騎士団は壊滅したようだ。逃げようとした領主も殺されたらしい」


「なんだって!? みんなを助けに行かないと!」



 リンジーはまっすぐな性格だ。だがバートの言葉には続きがある。



「敵の指揮官のゲオルクという魔族は私とヘクターとの戦いを望んでいるようだ。私たちが来れば街は攻撃しないと」


「まあ俺とバートは逃げるわけにはいかねえよな」


「ゲオルク……まさか……いえ、そんなまさか……」


「君たちはこの場で解散して逃げろ。君たちが来ても死者が増えるだけだ」


「……!」


「あなたたち……死ぬ気?」


「そうなる確率が高いだろうな」



 ホリーもシャルリーヌたちも絶句する。この男たちは死を覚悟して敵集団が待っている所に(おもむ)こうとしているのだから。



「そしてシャルリーヌたちには私から依頼をする。報酬は払う。ホリーお嬢さんをフィリップ第二皇子殿下の元に送ってほしい」



 この男はシャルリーヌたち四人の冒険者たちを見込んでいるのだろう。ホリーを任せてもいいと考えるほどに。

 そしてこの男は本当に死を覚悟しているのだとシャルリーヌは悟った。それを止めようにも、彼女の口は動かない。感情的になるには彼女は聡明(そうめい)すぎた。彼女も理解はできるのだ。ホリーは聖女なのだろうから死なせるわけにはいかず、フィリップ第二皇子の元まで送る必要がある。一方バートたちが挑戦から逃げれば、彼らの名声は地に落ちて誰も彼らを信用しなくなるだろう。彼らはそうするしかないのだ。



「敵集団の指揮官は無駄な殺戮(さつりく)は好まない魔族の可能性が高い。私とヘクターが(おもむ)けば、エルムステルの街への攻撃はしないかもしれない」



 バートには自分とヘクターの死を無駄なものにはしない目算があった。無意味な殺戮を好まない魔族たちがいることは賢者には知られており、バートとシャルリーヌもそれを知っている。そしてこの地域の妖魔集団の様子を見るに、賭けに勝つ確率は十分に高いと判断した。

 だがここにはそれを(くつがえ)す者がいる。



「嫌です! 私はバートさんたちを置いて逃げたくありません!」



 ホリーだ。彼女はこれまで遠慮がちに振る舞い、バートたちの言葉に異を唱えることはほとんどなかった。それなのに今回ばかりは強く主張した。



「お嬢さん。君は死なせるわけにはいかない。私は逃げるわけにはいかない。これ以外に方策はない」


「嫌です! 私もバートさんたちと一緒に行きます!」



 ホリーは強い意志を込めた視線で、バートの暗いものを感じさせる灰色の瞳を見つめる。

 しばし二人は無言のまま見つめ合う。

 そして視線を外したのはバートだった。

 ホリーの言葉はシャルリーヌの心も動かした。



「バート。ヘクター。あなたたちの負けよ。あと、私もエルムステルに行くから」


「まったく。あんたたちも馬鹿な男だね。あたしはそんな馬鹿も嫌いじゃないよ」


「うむうむ。男子たるもの、こうであらねばな」


「ま、なんとかなるさ」



 シャルリーヌたちもバートたちに同行すると申し出る。冒険者たちも次々と同道するという意思を口にする。彼らはもうバートたちを仲間だと認めている。もちろん彼らも命は惜しい。だが仲間と、そしてエルムステルの人々を見捨てることはできなかった。

 ヘクターが嘆息(たんそく)する。



「はぁ……バート。(あきら)めよう。お嬢さんもみんなも俺たちが逃げろと言っても聞いてくれそうにない」


「……わかった」



 ヘクターとバートも折れた。

 冒険者たちが勇壮な(とき)の声を上げる。一人の脱落者もいなかった。

 ホリーがバートの手を取る。



「私はあなたと共に行きます」


「……わかった」



 手を取られバートはホリーの目を見るが、すぐにまぶしいものを見たかのように視線を()らす。

 ホリーにとってバートは不思議な人であるのだけれど、バートにとってもホリーは不思議な少女だ。この少女は少し前までただの村娘だったのに、なぜこれほどにまぶしいのか。こんな人間が存在するのか。バートはホリーを聖女なのだろうと思っているが、聖女という存在を盲信(もうしん)する気はなかった。彼はホリーという一人の少女に戸惑(とまど)っていた。


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