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プリンス オブ ザ フォールンキングダム  作者: 伊勢屋新十郎
01 元王子は新米聖女と出会う
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17 妖魔の大群討滅戦 04 事前調整

 一通りのことは決まり、前金も受け取って、バートたちはひとまず冒険者の店に戻った。出立(しゅったつ)は明後日。それまでに準備を終わらせよとのことだ。だがすぐに商人マルコムの使用人ニックが至急マルコムの邸宅に来てほしいと言いに来た。

 そしてバートたち三人はマルコムと対面している。



「やあやあ。君たちも領主様の招集に応えて妖魔の討伐に(おもむ)くのかい? バート君が冒険者たちを率いるそうだね」


「ああ」



 マルコムがもうここまでのことを知っているのは、冒険者か役人か騎士に彼と懇意(こんい)の者がいて、彼に情報を渡したのかもしれない。



「君たちが行ってくれるのは私も街の住人としてありがたいんだけど、妖魔の討伐が領主様の功績と帝国に認められたら、領主様を告発しようとしている私たちとしては困ったことになる。領主様を罪に問えなくなる恐れがあるからね」


「妖魔共の跳梁(ちょうりょう)はこの地方の領主たちが妖魔の討伐を(おこた)っていたからだろう? それを討伐したからって功績扱いされるかな?」


「少なくとも領主たちは自分たちの失態を隠すためにも功を喧伝(けんでん)するだろう」


「そうだね。君たち冒険者の功績も横取りしようとするだろうね。率直に言って、この街の騎士団は頼りない」



 今回の事態はこの地方の領主たちの失態であることは事実なのだろう。だからこそ、領主たちは本気で妖魔共を討伐しようとするだろう。



「それでバート君にはこれを持って行ってもらいたい」



 マルコムが差し出したのは、小鳥の形をしたマジックアイテムだ。バートとヘクターに荷物の奪還を依頼した時にも持たせていた、遠距離通話できる道具だ。これも相当に高価で気軽に渡せるものではないのだが、マルコムはバートたちなら信頼できると考えている。



「我々の作戦進行状況をあなたに伝えろと?」


「伝えるのはどの村や街の妖魔集団を討伐したという程度でいいよ。君から連絡が入ったら、ちょっと時間をおいてから街に君たちの活躍を噂として流したい。君たちの功績まで領主様の功績にされないようにね」


「この街の冒険者の発案で、伝令役が騎士団に報告する前に冒険者の店に報告していくことになったから、そちらで対処してもらえると思うが」


「ああ、そっちでも対処してくれるのか。まあでもできれば君と私で連絡する手段も用意したい」


「わかった。いいだろう」



 バートは自分たちの進軍目標は外に知られたくなかった。魔族は時として人間に化けて街に侵入する。この街にもそんな魔族が侵入して外に連絡している危惧がある。マルコムに進軍目標を知らせ、彼が街に噂を流せば、それが魔族たちに筒抜けになる恐れがある。待ち伏せを受ける恐れも。もちろん冒険者集団の移動経路から行き先を推測されることはありうるが、それは魔族側も伝令くらいは出すであろうから、街で彼らの戦果が噂として流れようと流れまいと大差ない。

 下等な妖魔共は組織だった動きはせず、刹那(せつな)的な行動をするものだ。それが突如(とつじょ)同時多発的に大規模な活動を開始したのは、それを指揮する者がいると考えるのが自然だ。バートは敵側にいるであろう指揮官を(あなど)るつもりはない。

 そしてマルコムからの申し出はバートにとっても好都合だった。彼からマルコムに頼みたいことがあったのだから。



「街や村々は解放しても物資が窮乏(きゅうぼう)している恐れがある。あなた方で解放後の街や村々に食料などを供給する手はずをお願いしたい。妖魔共に壊滅させられた村もあるだろうが、生き残りくらいはいるだろうから、それらの者を安全な場所に連れて行く準備も」


「あと、村の人たちも急のことに色々と物入りになって金に余裕はないだろうから、代金は考えてくれねえか?」


「わかったよ。領主様が人々に救いの手を差し伸べるとは考えにくいからね。仲間の商人たちと協力して隊商を組織する準備をしよう。隊商が襲われても切り抜けられるように、騎士団にも護衛の兵士を付けてもらうように頼もう。代金も利益度外視の割引価格で売るよ」


「お願いする」


「あと私が渡したアイテムは、どの村や街に迅速に物資を輸送すればいいかを知るために渡したということにしてもらおうか。そうすれば領主様も文句をつけにくいだろう」


「承知した」


「急いで物資を運ぶ必要がない所は、その(むね)も伝えてもらいたいね。十分な備蓄があって食料の仕入れができそうな所も、よそに売りに行くために適正価格で仕入れに行くかもしれないことを先方に伝えておいてくれ」


「承知した」



 ホリーは感動する。街や村々を解放するだけではなく、解放した人々の窮乏を救うことも考えているバートとヘクターに。そしてそれを承諾したマルコムに。

 同時に彼女は悲しかった。善神ソル・ゼルムは言っていた。こんな善行をしようとしているバートが人間に絶望し、全てに不信感を(いだ)いていると。彼が義務感だけで善行をしようとしていると。彼女はバートの力になりたいと思った。彼の心を救いたかった。

 一方マルコムには思惑(おもわく)もある。民衆に恩を売れば、人々は今後も自分たちを贔屓(ひいき)にしてくれるだろうと。今回は利益にならなくても、今後の利益をもたらしてくれるだろうと。この実利と善なる神々の信徒としての道徳心が合わさって、彼に迷いはない。

 善良で割合単純なヘクターはともかくとして、バートはそのマルコムの心の内を察している。だがそれを口にする必要は感じなかった。マルコムも思惑はあれど善を()そうとしているのだから。


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