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プリンス オブ ザ フォールンキングダム  作者: 伊勢屋新十郎
01 元王子は新米聖女と出会う
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12 エルムステルの街にて 04 今後の方針

 その日の夜、ホリーたちは冒険者の店の宿に泊まっている。ここでも彼女はバートとヘクターと同室だ。食事も終え、体も清め、部屋にいる。



「あの、今日はありがとうございます。領主様から守ってくれて……」


「礼には及ばない。君は聖女かもしれない人だ。その君に何かあってはならない」


「それに俺もお嬢さんに不幸になってほしくないからな。バートもこんなことを言ってるけど、お嬢さんのことはそれなりに見込んでいると思うよ」



 バートが自分を守ってくれたのは義務感でしかないのかもしれないとホリーは悲しく思い、ヘクターの純粋な善意はうれしく思った。バートが自分を見込んでくれているかもしれないことにも喜びを感じた。



「あの……バートさんとヘクターさんは、悪いことをしている領主様たちを()らしめているんですか?」



 これはホリーが昼から気になっていることだ。ヘクターはともかく、バートは率先してそういうことをする人には思えない。



「民衆が反抗することも考えられずに耐えるだけならば、それは家畜と同じだ。私がどうこうする()われはない。だが状況を変えようと動く者がいるなら、協力することはやぶさかではない」


「はぁ……お嬢さん。この人は(しいた)げられている側の人たちに対しても不信感を(いだ)いているんだ。悪く思わないでやってくれ」


「は、はい」



 バートは言っていた。大半の人間の性根は妖魔と大差ないと。この人には虐げられている側の人々も悪に見えているのだと思うと、ホリーは悲しかった。



「俺としては悪い奴等はとっちめてやりたいんだけど、俺たちは一カ所に留まるのはせいぜい数日ということが多いんだ。その程度の期間じゃ、現地の協力者でもいない限り本当にそこで悪事が行われているか確認することはできないんだよ」


「そういうことなんですか」



 ヘクターの言葉にホリーも納得する。



「あと、明日はお嬢さんの防具と冒険道具を買いに行こうか」


「そうだな」


「え? 私に防具ですか?」



 ホリーは村娘だ。自分が防具を(まと)うなどと考えたこともない。



「俺たちもお嬢さんを完璧に守れるとは限らないからな」


「君が傷つく事態になる恐れもある。君の生存確率を少しでも高めておきたい」


「は、はい」


「旧王国領では冒険者の地位は高くはなく、君にも不愉快な思いをさせてしまうかもしれない。だがその村娘そのものの格好では、それ以前に(あなど)られる」



 そのヘクターとバートの言葉にホリーも納得する。彼女は自分が聖女かもしれないとは信じていないけれど、ヘクターたちの善意はうれしいと思った。もちろん自分が傷つくのは怖いという感情もある。それでもこの二人と共に旅をできることに喜びも感じていた。彼女もこの二人なら信じられると思っていた。

 そして彼女にはしたいことがある。不信にとらわれた、それでも本当は人間を信じたいと思っているというバートの心を救いたいと。それは善神の啓示(けいじ)だからではなく、彼女がしたいことだ。



「話は変わるが、お嬢さんをフィリップ殿下の元に送る道中、ある程度は依頼を受けるべきと思う」


「可能な限り速く向かうべきじゃないか? 依頼を受けなくても金には不自由してないんだし」


「あの……いいですか?」


「なんだい?」


「困っている人たちがいるなら、助けてあげてもらえるとうれしいです……私にできることはあんまりないのに、こんなことを頼むのも心苦しいですけど……」


「あー……優しいお嬢さんだなぁ」



 バートの言葉に、ホリーは純粋にそう思った。バートとヘクターは人々の不幸を取り除くことができる人たちだ。その彼らに自分を理由として困っている人々を見捨てさせたくない。それに彼女自身も神官としてできることもあるのではないかとも思った。

 彼女は気づいていなかった。バートはその彼女の反応も見ていたことに。軽々と無辜(むこ)の民を見捨てる者が本物の聖女である可能性は低い。バートはその道中でホリーが本当に聖女なのかそうではないのか見極めたいと考えている。

 そしてバートにはもう一つの思惑(おもわく)がある。



「ヘクター。これはお嬢さんに場数を踏ませるためでもある」


「というと?」


「お嬢さんが本当に聖女ならば、戦場に出ることになるだろう。戦場では戦いを、多くの死を目にすることになる。今のお嬢さんがそれに耐えられるとは思えない」


「なるほど。確かに」


「……」



 バートの言葉にヘクターも納得する。

 ホリーも自分が戦場の空気に耐えられるとは思えないということには同意する。そんなものに()れたくはないと思うけれど、自分が聖女ではないという証拠もなく、バートにも彼なりの善意もあるのだろうと思うと、反論はできなかった。



「それからお嬢さんが聖女ではなかった場合、君はこの街の神殿に送り届ける予定だったが、この事態となると少なくとも領主が替わるまでは君をこの街に残していくわけにもいかない」


「ああ。あの役人共も逆恨(さかうら)みしてるかもしれないからな」


「はい……」



 その彼らの言葉はホリーにもわかる。世の中は決していい人ばかりではないことは彼女も理解した。

 そしてバートたちが自分のことを心配してくれているとわかって、うれしいという気持ちもある。彼女は善神ソル・ゼルムにこの人たちと巡り会えたことに感謝の祈りを(ささ)げようと思った。

 そして家族に手紙を書こうと思った。自分はしばらく神官として心強い冒険者に同行させてもらうことになったと。自分が聖女かもしれないなどと書く気はないけれど。


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