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128 街に出て 01 仲間同士の気楽な会話

 金髪と美しい青い瞳が印象的な少女ホリーは、黒髪と暗いものを感じさせる灰色の瞳を持つ魔法剣士バートたちと共にカムデンの街を歩いている。

 ホリーの成年祝いにアクセサリーでも買ってやったらどうかと、エルフの魔術師シャルリーヌがバートに提案したのだ。このカムデンは軍事都市ではあるが、一般民衆も大勢暮らしており、そういった店もいくつもある。それに騎士や兵にも、気晴らしのできる店やものを求める感情はある。



「バート。ホリーの晴れ姿を見たら、きちんと()めてやりなよ?」


「そうだぜ? お嬢さんもいつも鎧姿にさせておくのも不憫(ふびん)だしな。シャルリーヌのこともな」


「ふふ。そうね。ヘクター、あなたもリンジーを褒めてあげなさいよ?」


「お、おう」



 栗色の髪の女戦士リンジーは、金属の(かたまり)のような重厚な鎧に身を包んだ偉丈夫(いじょうぶ)のヘクターを期待の視線で見ている。その様子はまさに恋する乙女だ。ヘクターも戸惑(とまど)いつつもまんざらでもなさそうな様子だ。



「きれいなドレスを着るのは落ち着かなさそうですけどね」


「ふふ。でも私とあなたもバートにアピールしないとね?」


「そうだよ。あんたはかわいい女の子だって、バートに見せてやりな」


「は、はい」



 先程までフィリップ第二皇子の宮殿でホリーたちの採寸をしていたのだ。フィリップの厚意でホリーの成年祝いをしてくれるとのことで、そのためのドレスを用意してくれると。冒険者の店で冒険者たちにもおごって一緒にホリーの成年祝いをしたのだが、それを聞いたフィリップから恨み言を言われていたのだ。フィリップも祝ってやりたかったと。

 村娘だったホリーからすれば、ドレスを着るのは落ち着かない。だけどシャルリーヌとリンジーのドレスも用意してくれるとのことで、彼女が遠慮すればリンジーたちも遠慮するだろうし、それはリンジーに申し訳ないかなと思ったのだ。リンジーはヘクターに華やかな姿を見てもらいたいだろうし。リンジーからすればそれは気の回しすぎなのではあるが、その善意がうれしいという感情もある。リンジーもヘクターにアピールしたいのだ。



「お嬢さんは華美な服も似合うことは似合うだろうが、清らかなデザインの服の方がより似合うだろう。フィリップ殿下が雇う仕立師(したてし)ならば心配は無用だろうが」


「はい。ロザリンド様のドレスもそれほど派手ではありませんでしたし、落ち着いたデザインにしてほしいとお願いしましたから」



 バートはいつもの淡々とした口調で無表情だ。ホリーとシャルリーヌもこの人にアピールしたいという感情もある。この人が自分たちを大切に思ってくれていることは重々承知しているけれど。



仕立師(したてし)は水晶の姫神子(ひめみこ)にふさわしいデザインにすると張り切っていたわね」


「は、はい。でもシャルリーヌさんだって轟炎(ごうえん)の魔術師なんて異名があるそうじゃないですか」


「その異名は私も恥ずかしいのだけどね……」



 ホリーは自分につけられた異名を気恥ずかしく思っている。シャルリーヌたちからすれば、この少女にふさわしい異名だと思うのだけれど。



「第二皇子殿下の(うたげ)となればまたいい酒が出るじゃろうし、楽しみじゃのう」


「ニクラス。今度の主役はホリーなんだから、ほどほどにするようにね」



 豊かな(ひげ)をたくわえたドワーフの神官兼重戦士のニクラスと、黒髪で色黒の盗賊兼軽戦士のベネディクトは、自分たちは宴においては脇役だからと気楽なものだ。その彼らもホリーを守り、そして彼女たちの幸せを願う心に(いつわ)りはない。



「バート。あの店のようよ」


「ああ」



 シャルリーヌが指さす先にはマジックアイテムの店がある。ホリーにプレゼントするアクセサリーも、どうせなら守護の効果があるものがいいとバートが提案したのだ。そういったアイテムもアクセサリーとして見栄えのいいものも多い。冒険者の店で質がいいマジックアクセサリーを売っている店を聞いてきたのだ。



「普通に売っている程度のマジックアイテムを持ってもそれほど意味はないだろうが、意味がゼロではないなら持っておいてもいい」


「ただのアクセサリーなんか持っていても意味はないしな。ちょっとでもお嬢さんを守る役に立つなら持っていてもいいだろ」


「はぁ……あんたたちはそんな男だよねぇ……」



 そのバートとヘクターの言葉は無粋(ぶすい)ではあるが、リンジーたちはバートはこんな男だと(あきら)めている。ヘクターも女心に(さと)いとは言えない。ホリーは純粋に、自分のためを思ってくれるバートたちに感謝しているけれど。



「いらっしゃいませ」



 店に入った彼らを店主の言葉が迎える。貴重なマジックアイテムを扱うこの店は従業員だけではなく警備の者も雇っている。この街ではバートたちの顔を知っている者は少なく、店主たちもバートたちの顔を知らなかった。ただ、店主たちもこの冒険者たちがただ者ではないことには気づいている。



「あのあたりにアクセサリーが並べられているようね」



 店頭に並べられている程度のマジックアイテムは、そこそこのものでしかないだろう。こういった店では本当にいいものは店の奥に保管して、上得意先にのみ見せるものだ。バートたちも期待はしていないし、ホリーに似合うデザインのものがあればそれでいいとしか思っていない。

 たとえ店秘蔵の品を見せてもらっても、ホリーにふさわしいほどの力があるものにはまず巡り会えない。ごく一部の例外を除けば、そういったアクセサリーはないよりはいいという程度でしかなく、ホリーが(まと)っているような魔法を付与した鎧には全く及ばないのが普通だ。ただやはりないよりはいいから、買い求める者も大勢いる。バートたちが全力で戦うような敵相手では、あってもなくても大差ないのは事実であるが。


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