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プリンス オブ ザ フォールンキングダム  作者: 伊勢屋新十郎
04 新米聖女は一歩を踏み出す
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109 夢の中で 04 神話の真実

 善神が悪神に語りかける。



「さて。アルスナム。我が聖女と心清きエルフの乙女が私たちが対話する機会をくれた。だから話し合おう」


「いいだろう。ソル・ゼルムよ」



 これからが本題だ。ホリーとシャルリーヌはこの場を用意するためにもバートと添い寝したのだから。バートをゆっくりと休ませてやりたいという思いもあったけれど。

 善神と悪神は顔を合わせれば基本的に(ほこ)(まじ)える関係だ。彼ら自身は互いに友情を(いだ)いていても、そうしなければならないのだ。こと人間種族に対する考えでは、彼らには決定的な意見の対立があるのだから。だが実体を持たないこの場なら彼らも対話できる。

 ただこの空間に彼らがいることはホリーとシャルリーヌには負荷がかかるため、彼らも負荷をかけすぎないように配慮(はいりょ)もしている。これは場合によってはホリーとシャルリーヌ、そしてバートを彼女らが望まずとも神に引き上げかねない行為なのであるが。だが善神と悪神は互いに対話することは必要だと思っているのだ。『人』が滅ぶ事態にまではならないように。



「でも今回は私から我が聖女と心清きエルフの乙女に言いたいことがあるから、それをしたい。次回以降も対話の機会を用意してくれないかい?」


「はい!」


「わかったわ」


「おそらく我とソル・ゼルムが対話してももの別れに終わるであろうから、先にしたいことがあるならそれをするべきであろうな」


「私もそう思ってね。私とアルスナムの対話はそう簡単には合意に持ち込めないだろう。神々の時代にも何度も対話して合意できなかったんだしね」



 バートは既に起きてホリーとシャルリーヌが起きるのを待っているのであろうから、あまり時間をかけすぎることもできない。この空間での時間経過が現実と同じなのかは彼女たちにはわからないけれど。彼女たちはこの場を用意するためにも、あの人と添い寝しなければならない。だけどそれが楽しみだという感情もあるのだ。



「まずは再確認をしよう。私はアルスナムたちが人間たちを間引(まび)きしているのをやめさせたい。私は人間たちも含めて『人』の本性は善だと考えている。その人間たちを間引きなどさせたくない」


「人間たちは間引きせねばならぬ。人間の本性は悪だ。人間たちを野放しにすれば、その増大し続ける欲望はこの世界を滅ぼす」


「このとおり、私とアルスナムの人間に対する考えは神々の時代から平行線をたどっている。あと私たち神々にとっては人間やエルフ、ドワーフたちだけではなく、魔族たちも含めて『人』だよ」



 この二柱(ふたはしら)の偉大なる神の意見が対立したことにより、神々の時代は終わった。その後は人類と魔族が敵対し合う時代が延々と続いてきた。



「我が聖女と心清きエルフの乙女も前と意見は変わらないんだね?」


「はい。私は人間も含めて『人』の本性は善だと考えています」


「バートはアルスナム様の側。私はその中間で、人間は善にも悪にもどちらにも傾くと考えているわ」


「うむ」



 このことはこの場の(みな)がわかっている。だがあえて再確認する。ふとしたことで考えが変わるのかもしれないのだから。



「我が聖女よ。心清きエルフの乙女よ。君たちにも現在の世界の状況を教えておこう。大陸のこの地域のことだけではなく、この星全体のね」


「……星、ですか?」


「ああ、村娘だったホリーは知らないわよね。夜空に輝く星々は一つ一つが太陽と同じようなものなのよ。(はる)か遠くにあるから点のようにしか見えないだけで。そしてこの世界も球体の星で、太陽の周りを回っているらしいわ」


「そういうことだよ。神々の時代では、この世界も星の一つでしかないことは一般知識だったんだけどね」


「そうなんですか……初めて知りました……」



 星と言われても、ホリーには夜空に輝く星々のことしか思い浮かばなかった。村娘だった彼女が知らなかったのも無理はなく、聞いても実感はわかないのだけれど。



「我が友よ。この者たちに世界の状況を教えるのは、無用に重すぎる責務を負わせることになる」


「それは私もわかっているよ。でも人間たちにはそれを知る者はいない。エルフたちもドワーフたちも人類側の他の種族も、過去の戦いと幾重(いくえ)にも重なる代替わりで、それらの情報はほぼ失われてしまった。人類にも真実を知ってもらうことが必要だと思う」


「……」



 悪神は難色を示す。だが善神の言葉に口を閉ざした。



「君たちは皇帝に会うことになるのだろう。皇帝に私がこれから言うことを伝えてほしい。人間たちが他の種族と共存できるようになるために。人類が知らないままでは、人類と魔族の戦いを終わらせることはできないと思う」


「……はい!」


「わかったわ」



 ホリーもシャルリーヌもあまりに重い使命に身震いする思いだ。だけど自分たちはそれをしなければならないのだろう。人類のためにも。世界のためにも。



「神々の時代、『人』は神々の庇護(ひご)(もと)に平和で豊かな暮らしを送っていた。だけどその安定を崩すほどに繁栄しすぎた種族があった」


「それは人間。人間たちは自分勝手な欲望が異常に強く、他者を踏みにじることになんの躊躇(ちゅうちょ)もない。人間たちは数を増やしすぎ、その増大し続ける欲望はいずれ人間たちもろとも世界を滅ぼすと我は判断した」


「もちろんその時代にも他の種族と共存しようとする人間も大勢いたけどね。アルスナムとその同胞たち、そして今は魔族と呼ばれている多くの種族は、人間たちの間引(まび)きを開始した。私と私の同胞たちはそれを良しとせず、アルスナムたちと戦った。エルフやドワーフたちも人間たちを擁護(ようご)した」



 それは人類社会に伝わっている神話の改変を要求する真実だ。人類社会では人類は善、魔族は悪と一般に信じられている。神々の時代の終焉(しゅうえん)を招いたのが人間種族の肥大し続ける欲望であったなどと、人間たちが信じるはずもない。だが善神と悪神の口から語られたそれは疑いようのない真実だ。

 シャルリーヌからすれば、この真実を皇帝に伝えて良いのかという迷いもある。下手をすればこの真実を隠すためにホリーと自分たちが闇に(ほうむ)られてしまう恐れもあるのだから。だがフィリップ第二皇子はホリーが言った善神が悪神を友と思っていることを信じてくれた。ならば大丈夫かもしれないとも思う。それに善神も皇帝のことも認めているのだ。



「だけど神々が直接に力を振るったことにより、双方の種族に甚大(じんだい)な被害を出してしまった。守りたいと思っていた者たちも含めてね……」


「我ら神々はある者は眠りにつき、またある者は異空間に移るなどして、それ以後の時代は直接の干渉をすることは控えている。我ら神々が力を振るえば我らが『人』を滅ぼしてしまう」


「私とアルスナムは影響力が強すぎるから、まどろみながら世界を見守っているんだけどね」



 神話では全ての神は眠りにつくか滅ぶかしたとされている。神々の姿を『人』が見ることは決してないと。一部の神は本当に滅んでしまったのだが。



「私とアルスナムを含む神々は直接力を振るうことを(いまし)めているんだ」


「一方の神が力を振るえば、他方の神も動くだろう。その時『人』が滅ぶ前に神々を止められるかはわからぬ」


「神としての力を振るわないようにした上で、『人』の間で活動している神々もいるんだけどね」


「双方の陣営の、若い神にそういう者が多いな」



 神々は基本的に『人』を愛しており、自分たち自身が『人』を滅ぼす原因にはなりたくないのだ。性格の(ゆが)んだ『邪神』と言うべき神も存在しないわけではないが、そのような神は双方の陣営の神々によって滅ぼされる。善神の陣営と悪神の陣営の神々の大きな対立点はただ一つ。人間たちを間引(まび)くべきと考えるか、それを許せないと考えるかなのだ。


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