1話改 ダンジョンの出現
こんにちは、新人のおじさんと申します。これからよろしくお願いします。
その発表が行われたのは、ちょうど午前7時、俺がソシャゲの周回と掲示板の巡回を終え、テレビをつけっぱなしのまま眠りにつこうとしているときだった。
「おはようございます。7時のニュースです。これより1分の後、内閣総理大臣の緊急記者会見が行われます。今回の会見で何について発表されるかは現時点ではわかっておりません。また、世界各国で同時に首脳陣の記者会見が行われる模様です」
緊張したアナウンサーの声に、うつらうつらしていた俺の意識は一気に覚醒する。世界の首脳の同時会見。何かとんでもないことが起こったのだろうか。俺は画面を注視する。
画面は切り替わり、緊張した面持ちの内閣総理大臣と防衛大臣が映し出される。
「今朝未明、2時35分をもちまして、世界各地に大規模地下構造物が出現しました。これらの構造物の中には意思疎通が不可能、又は極めて難しい危険な未知の生命体が生息しております。しかし、内部の危険な生命体は地下構造物、暫定的にはダンジョンと呼称されます、の中から出てくることはないようです。
また、ダンジョンは地表に開口部を持っており、そこから入ることができますが、ダンジョンの内部への侵入は生命への危険を伴いますので、くれぐれも不審な建造物を見かけた際は決して近寄らず、その場での警察への通報をお願いします。繰り返します……」
「は?」
思わず自分の耳を疑ったが、総理大臣はその後も同じ内容を繰り返し伝えていた。どうやら、地球にダンジョンができたというのは、紛れもなく本当らしい。
「マジかぁー」
あまりの驚きに放心状態になってしまったが、しばらくして再起動して俺は行動を開始する。
ダンジョンが近くにあったりしたら大変だ。ぜひ入って確認しなくては。
てかダンジョンとか男のロマンじゃん。ぜひ行ってみたい。
俺は約1年ぶりに玄関を飛び出した。
しばらくダンジョンを探して走り回っていると、同じ考えの同志が結構いっぱい同じようにウロウロしていた。やはり2〜30代のリュックを背負った男が多かった。
こんなに出歩いている人が多かったら、ダンジョンは近くに存在しているとしてもすでに通報されているよな。それにダンジョンに潜る準備も全然できていない。あとニートの体力はもう尽きてしまった。
俺はトボトボと家へきびすを返した。
そして家に戻ってしばらく休憩して、俺はダンジョンに行くための装備をまず整えることにした。諦めたんじゃないかって? こういうのはまず形からだろ。子供みたいな冒険心が胸の中をまだ暴れていた。
もう10年くらい使っていないリュックを探して押入れを開けると、石畳が広がっていた。
即座に扉を閉じる。何だあれ?見間違いか?
そして開ける。
「oh」
奥の方にまっすぐ伸びる、等間隔の松明で照らされた一本道。そこには紛れもなくダンジョンが広がっていた。
「え?え?何で?」
心の中は喜びというより驚きでいっぱいだったが、やがてジワジワと喜びが湧き出してきた。
「いよっしゃあ!勝った!」
サッカーでゴールを決めたときみたいにガッツポーズを決めた。心の中を目まぐるしくいろんな感情が動き回って胸が苦しかった。
そして俺はダンジョンに潜るーー前にダンジョン出現のせいで無くしたリュックの代わりを近くのホームセンターに買いに行くことにした。
ホームセンターから帰ってきて、いよいよ探索だ。
装備は直径3センチの鉄パイプ、長袖長ズボンにグローブと厚い靴下。それと買い直したリュック。
なんだか子供の頃に戻ったみたいにワクワクした。
「よし、行くか!ダンジョン!」
そして俺は押入れの扉をくぐった。
ダンジョンの中は薄暗かったが、松明が壁に並んでいて最低限の明かりは保たれている。
床は平らで、石畳が敷き詰められていた。
その中をまっすぐ進むこと5分。遠くに何かの影が見えた。
モンスターか?俺は俺は鉄パイプを構えて慎重に近づいていく。
5メートルほどのところまで近づくと、正体がわかった。緑の体に巻かれた腰巻き、ゴブリンだ。
幸いにもこちら側を向いていないので、そーっと距離を詰め、鉄パイプを振り下ろす。
グシャッという音がして、ゴブリンは倒れて動かなくなった。そしてゴブリンの体がキラキラと光りだす。
俺は慌てて飛びのくが、何も起こらず、ゴブリンの体は光の粒になって消えていった。
そして、残されていた小さな石のようなものを拾ってリュックに入れる。直後、頭の中に声が響いた。
レベルアップを確認。SP3を付与します。
周囲を見回すが、誰もいない。これが天の声ってやつか?まぁ何にせよレベルが上がったならいいことだろう。そして付与されたSPっていうのも気になる。スキルポイントなのかステータスポイントなのか……ダンジョンの中は危険だし検証は後にしよう。
そのまままっすぐ5分ほど歩いていくと、またゴブリンらしきシルエットがいた。今度はこちらを向いていたらしく、走って近づいてくる。スピードは小学生の全力疾走くらいとはいえ正直めっちゃ怖い。
とりあえず、鉄パイプをまっすぐ構える。そして木の棍棒のようなものをもって走りかかってくるゴブリンめがけて突き出す。
頭にクリーンヒットして、今度はゴギャッというような音とともにゴブリンが即座に光りだす。今度は即死っていうことか。しかし人型のモノを殺しているのに感情の動きが全くない。どうもニートをやっている間に色々麻痺してしまったらしい。
また落ちている魔石(暫定)を拾う。カッコいいからそう呼ぶことにした。そしてまた5分ほど歩くと、行き止まりになっていて、突き当たりに下への階段があった。
このまま下りるか?そんな逡巡を一瞬だけしたが、俺はレベリングして安全に勝てるようになってから次のステージに行く派だ。気になることも多いし、一度帰ろう。
入り口まで戻って押入れの扉を開けると見慣れた俺の家に繋がっていた。安心したのか扉を閉めると同時に俺はその場に崩れ落ちるように座り込んだ。