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11.雪崩の四重奏

 氷の城への入口は、施錠されていなかった。手袋を嵌めていなければ掌が貼りついてしまうに違いない扉の取手を、モーロトはセルプと二人で持ち押し広げる。扉は木造のそれよりも静かな音とともに、ゆっくりと動いた。

 片方の扉を、人ひとりふたりが通れそうな空間を確保したのち、楔と槌でもって固定する。槌打つ音が響くのは、どう考えても館の主に気づかれてしまう気がしたのだが、それでもモーロトは実行した。()()()は、退路を確保するほうが大事だ。


 外から見た限りでは、この館は三階層のようだった。最も広いに違いないこの一階を、二人で念のため確認していくが、さほど部屋が細かく区切られているわけでもなく、人の気配も伺えない。上の階層へと向かうべきか、モーロトはセルプに視線を向けた。

「もう少し、時間をおいたほうがいいような気もするけどな、そろそろ頃合いかも――」

 小声で話しかけてくるセルプの動きを止めたのは、一陣の風の流れだった。光る粉雪を伴い渦を巻くそれは、しばらくして二つに分かれその姿形を浮かび上がらせる。

 常人よりひとまわり小さく見える人影だった。一方は華奢な体格で、銀色に輝く杖を持っている。もう一方はやや横幅の広い、がっしりとした矮人のようだ。やはり銀色の、鎖で吊るされた円盤と短い棒を持っている。


「我は氷柱(サスーリカ)のカリリオーン」

「我は(グラート)のバラバーン」

 氷魔王直々のお出ましではなかったようだ。交渉はセルプに任せることにする。

「どうも、挨拶が遅れやした。こちらに知人がお邪魔していると聞きまして、会わせていただきたいなーと参った次第なんですが、お願いできやすかね?」

 しばらくの静寂ののち、白い人影らは交互に口を開いた。

「……あの方が望んでいるのは、そなたらではない」

「去れ、招かれざる者どもよ」


「……だってよ」

 セルプは肩を竦めながらこちらを顧みた。わざわざ丁重にお断りいただいたのには申し訳ないが、もうしばらく時間稼ぎしなくてはならない。

「そこを何とか、頼めないものだろうか」

 自分からも申し立てたが、二つの人影は微動だにしない。仕方なく、モーロトは携えていた槌を握り締め直す。セルプも腰に帯びている、山野草を刈りとるための鎌に手をかけていた。


 *


 ルークとプラーミャは、氷城の窓枠に手をかけ滑り込むように館の一室へと降り立った。縄を伝って二階層部にある窓から入り込んだのだ。部屋の扉を僅かに開けて城の内部を覗き見ると、中央部が吹き抜けの螺旋階段になっている。階下の物音が筒抜けで、正面から入った二人が何をやっているのかも、おおかた想像がつく。

 少し、空気が冷え込んだ気がした。下から耳鳴りのような音と、セルプらのよく通る声が聞こえる。そのやりとりは明らかに誰かの相手をしているようだ。

 この隙に、三階に上がることができるかもしれない。ルークはプラーミャに目配せし、部屋を抜け出し螺旋階段に駆け寄ろうとした――が、その眼前で再び、冷えた空気の流れにあてられた。


 渦巻く白銀の流れは、二つの人影を創り上げた。何となくだがルークには一方が男性、もう一方は女性に思えた。それぞれ銀の角笛と竪琴を携えている。

「我は吹雪(メチェーリ)のヴァルトールナ」

「我は(イーニェイ)のアールファ」

 思わず横目で螺旋階段の下部の隙間を伺い見ると、そちらにも似たような白い人影が認められる――どちらも、氷魔王本人をおびき出すことは出来なかったようだ。しかも出直すことも許されそうにない。角笛を持つ”吹雪のヴァルトールナ”とやらが声を響かせる。

「我ら”雪崩の(クヴァルチェート)四重奏(・ラヴィーナ)”が、氷魔王様をお守りする。此処より先へは進ませぬ」

 四対四。しっかり頭数を把握されていたようだ。ルークは観念して彼らに向きなおった。

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