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技師と花束  作者: 鳥路
4歳編  スラム街の名無し少年
7/17

7   太陽の昔話と少年の為すべきこと

これは昔のお話です

アルグステイン王国へ太陽が昇るまでの物語


「・・・ながい?」

「長いに決まっているじゃない」

「長いのが当り前よ」

「長いに決まっているわ」

「・・・いつ、かいほうされるかな」


メイド三人組の一人が続きを読む

そういえば、この三人の名前は一体・・・

聞くタイミングを逃しながら、僕は三人の話に耳を傾けた


「アルマハルチェ家はかつて「夜の王・ノクス」に呪いをかけられていました」


王族が生きている限り、朝が来ないという呪いです

人々は夜の闇の中、ろうそくの光だけを頼りに生きていました


そんな中、王家に「ユピテル」が産まれました

彼は特別な目を持っていました

人が纏う何らかの力が「空色の靄」となって見える不思議な目でした

彼の家族や家臣には何も見えませんでした

ただ、一人を除いて・・・その空色の靄はありませんでした


その人物は「ラトリア」という、ユピテルの友人でした

彼は博識で、ユピテルが困ったときにいつも助け舟を出してくれていました

ユピテルはそれを嬉々として両親に報告しました


『お父様、お母様!ラトリアに空色の靄が見えるのです!』


しかし帰ってきたのは、彼が期待していた反応とは真逆な言葉


『馬鹿者!王子であるお前が虚言など、赦されたことではないぞ!』

『ユピテル、嘘を言ってはいけませんよ』


空色の靄が見えるのは、ユピテルだけです

誰もが彼が嘘を言っていると思い、両親は虚言を窘め、家臣たちは苦笑い


『私には、見えているのに』

『ユピテル、私は信じるよ。君の目に空色の靄が映る話を』


落ち込むユピテルに声をかけてくれたのは、ラトリアでした

ラトリアは嘘のようなユピテルの話を信じ、これからの事を相談しました

信用に値する人物以外には、その目の事を話さない方がいいとラトリアから提案され、ユピテルはそれを受け入れました


同時に、ユピテルは考えていました

ラトリア以外にも、この空色の靄が見える人間がいるのだろうかと

しかし彼の前に空色の靄を持つ人物は現れることはありませんでした


時は流れて、ユピテルとラトリアは大人になりました

ユピテルは、国の為に働いていました

もちろんラトリアも一緒です

そんな時でした

ラトリア以外の、空色の靄を持つ人間と出会ったのです


一人は、アステル。植物が大好きな男の子

もう一人は、ソフィア。星空が大好きな男の子

最後はステラ。書物が大好きな女の子


ユピテルは驚きました

ラトリア以外にも、空色の靄を持つ人物がいたなんて思っていなかったからです


それから、ユピテルはその三人と行動を共にするようになりました

自分の目を打ち明けても、三人は疑うことなく信じてくれました


『疑うことなんてありませんよ。ユピテル様が冗談を言うとは思えません』とアステル

『普段は信じられないような話だが、ユピテルだから。信じるよ』とソフィア


そして、ステラはかつて読んだ物語が載っている本を持ち出してくれました

それは、アルグステイン王国に伝わる「空色の家臣」について記載された書物でした


『初代国王もユピテルさんと同じ瞳を持っているんですよ』

ステラはその目に秘められた「役目」をユピテルに伝えました


空色の瞳を持つ者、同じ色の空気を纏う四人の家臣を従える

王へと至るその者、四人の家臣を見つけし時・・・呪縛を解き放つだろう

そして同時に、この目が王家にかけられた呪いを解く鍵だということをユピテルは知りました


ユピテルは四人に頼みました


『俺は、呪いを解いてこの国に再び太陽を呼びたい。その為に、皆に協力してほしいんだ』

『わかった。私たちは何をしたらいい』

『ユピテル様のお願いなんて初めてですね。もちろん、協力しますよ』

『了解。太陽って言うのも気になるからな』

『もちろんです、ユピテルさん』


四人は直ぐに返事を返してくれました

そして五人は、様々な方向から呪いに関して調べ上げ、夜の王との戦いに臨みました

戦いは激しく、皆傷つきながらも立ち上がり、夜の王を倒すことができました


そして、夜の王が無に帰った瞬間

周囲が明るくなりました

眩しくて目も開けられないほどの光が目に入ります

ユピテルたちは目を背けて、その存在を認識しました

柔らかい光に、暖かな風


『・・・書物に書いてあった太陽と同じなのですね』


ステラが言った一言で、ユピテルたちはその大きな光が太陽だと気が付きました


『若き王』


太陽はユピテルに語りました

その声は、ユピテルだけにしか聞こえていないようです


『夜の王を倒してくれて感謝しよう。お礼をしたいのだが、何がいい?』

『ならば、この国を貴方の光で守ってほしい。この国が亡ぶ、その時まで』

『承った。ユピテルよ。お前の願いは、お前がいなくなっても、必ず』

『ああ。後、一日一回必ず休んでくれ。夜という存在も必要だから』

『そうだな。お主の言う通りだな』


太陽はユピテルにそう伝えて、空に昇りました

この時、ユピテルと太陽の間に交わされた願いは千年経った今でも続いています

太陽は約束通り、この国を暖かい光で守り続けています

それが、アルグステイン王国が太陽に愛される理由です


その後、ユピテルはアルグステイン王国の国王となりました

ラトリアは、この国の大きな問題の一つであった外周を覆う「喪失の霧」を消す功績を残しました

アステルは、夜の王の影響でまともに育たなかった植物を国中に広げ、この国に豊穣を与えました

ソフィアは、天文学者として太陽の他に星がある記録を残し、空の観測で天気の予想や季節や方角を把握する方法を残しました

そして、ステラはこの国に「統一文字」を残しました

そして、ユピテル自身は太陽で明るくなった町の活性化に勤め、晩年までその才を振るったといいます


彼と四人の「空色の家臣」の力によって、この国には太陽と繁栄がもたらされました

この国は彼らのおかげで幸せな日々が続いているのです・・・


「おしまい」


メイド三人組の一人は満足そうに絵本を閉じる


正直、太陽が昇るまでの・・・で、どんな絵本かは察しがついていた


ユピテル・アルマハルチェ

彼の功績は確かに大きい

しかし、子供向けに書かれた絵本では・・・彼の功績が凄く薄い

スラム街に捨てられていた大人向けの「空色の家臣」に関して記載のある本で知識を得た僕には少々物足りない内容だった

最後が駆け足すぎるというコメントだけ残しておこう


「どうだった、エドガー?」

「ふつう」

「そう」

「子供なんだからもう少しわかりやすいのがよかったわよ」

「そうかしら」


しかし、子供向けに書かれていた分・・・太陽との会話は印象深い

大人向けだと、太陽との会話はないことにされているから

そう考えると、太陽ってどんなものなのだろうかと考える

日差しは温かい

光は眩しい

それぐらいの知識しかない


「・・・ねえ」

「なにかしら」

「どうしたの?」

「おねむかしら?」


メイド三人組に声をかけると、全員が振り向く


「・・・さんにんのなまえって?」

「私はメイよ」と、一つ結びのメイドが言う

「私はイドよ」と、二つ結びの三つ編みメイドが言う

「私はミィドよ」と、頭にお団子が乗っているメイドが言う

「じゃあ、メイ」

「何かしら」


とりあえず、メイに質問してみる

イドとミィドはなぜか不満そうに口を尖らせている


「たいようってなに?」

「わからないわ」

「イドとミィドは?」

「知らないわね」

「知らないわ」

「・・・みち、をしればすごいことなのかもしれない」


誰も知らないような未知の事を知れば、凄いことを成し遂げたことになるのかもしれない


「きめた」

「なにを?」

「なにが?」

「なにするの?」


太陽は空の上にある

だったら、そこまでいくものを作らなければならない

それは、つまりそういうことなのだ

やるべきことはやっと見つかった


「ぼく、そらをとぶ」

「急にどうしたの?」

「落ち着きなさい、死ぬわよ」

「早まらないで頂戴」


メイド三人組は多方から僕にしがみつく


「しぬきない」

「じゃあ、何をする気なの?」

「ここから空を飛んではダメよ」

「カエルのようにひしゃげてしまうわ」

「・・・そらをとぶほうほう、さがすんだよ」


特徴的な例えを持ち出されて、困惑を隠しきれないまま頭に思い描いたやるべきことを口に出す

ふと、メイド三人組の腕の力が同時に抜かれ、それを見計らって僕は腕の外に出る


「だから、ぼくはもういく。そらをとぶを、まなぶ」

「そう?」

「もう少しゆっくりしたらいいのに」

「せっかちね」

「時間がないんだよ。絵本、ありがとうね」


口調を偽る余裕もないまま、僕はメイド三人組の部屋を出ようとするが、背後にいたメイにひょいと持ち上げられる


「時間、ないんでしょう?」

「小さい子には酷だわ」

「部屋まで送るわよ」

「・・・ありがと」


メイとイドとミィドの好意に甘えて抱きかかえられつつ、僕は自室へ戻っていく

為すべきことは見つかった

後は、実行あるのみだ

僕はそれを、きちんと・・・成し遂げて見せる

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