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第93話

 僕は戦いを始めるにあたって、改めてベゼルグの操るクォデネンツという名のWPをじっくりと観察した。

 全身をメタリックグリーンに塗装された、両のかいなが刃になっていて三本足をした異形のWP。球状の頭部にあるモノアイが不気味な光を放っている。

 リヴェルナの時に装備していた肩部のミサイルランチャーは、今日は装備されていなかった。

 確かなのは、肩部の装備を外したことで今回はより近接戦闘に特化した仕様になっているということだけだ。肩部の武装がなくなったからと言って戦力がダウンしたわけではないだろうから、これはこちら側に有利な材料とは言えない。


 むしろ懸念材料はこちら側にある。先程もエレイアに話したけれど、僕は既に三十分以上もTRCSを使い続けている。リヴェルナの時に同じくらいの時間使用し続けて倒れてしまったことを考えると、今の状況は楽観視していい状況ではない。調整はされているとはいえ長引けば長引くだけこちら側が不利になっていく。

 もうひとつ、エクリプスのエネルギー残量も気がかりだった。ここに来るまでにブースターを使っての長距離移動をせざるを得なかったうえ、道中でスペクター二機と、基地の通用口で尻尾付きの新型二機と戦闘してかなり消耗してしまっている。流石に戦闘中に止まってしまうなどという最悪の事態にはならないだろうとは思っているけれど、それでも肝心なところでセーフモードが発動して動きが制限されてしまうこともありえなくもない。

 いずれにせよ、自分から持久戦を挑むという選択肢はない。こちらから果敢に攻めるしかなかった。

 僕はエクリプスを操作してマシンガンからアサルトブレードに持ち替えさせる。


「ほう、わざわざ接近戦で戦ってくれるとはな。良い根性してるぜ」


 それを見たベゼルグは僕をあざ笑う。

 別にマシンガンで戦うのが駄目な訳ではないが、どのみち接近されてしまってはマシンガンでは対処しきれない。腹をくくってこちらも接近戦を仕掛けるのが最良の戦術だった。


「さてと……じゃあ遠慮なく行かせてもらうぜ。ナオキ・メトバ!」


 こちらが構え終わるのとほぼ同時にベゼルグが仕掛けてきた。

 クォデネンツが両腕の刃をしならせながらエクリプスに迫ってくる。

 僕はぎりぎりまで相手の接近を待った。TRCSを使っている限り、見てからでは遅いということは基本的にない。仮に不意を突かれてもコンソール操縦も併用できる今ならば対処できる。ならば、こちらから先に仕掛けて相手に隙を与えるようなことは避けるのが望ましい。

 クォデネンツがこちらとの間合いを詰め、両腕の刃がこちらに届くくらいの距離まで踏み込んだその時、僕は初めて動く。

 クォデネンツはちょうどその時、右腕の刃を振り上げるような仕草を見せていたが、僕はそれに構わず左腕の刃に向けてアサルトブレードを振り下ろした。

 狙いは勿論、クォデネンツの左の刃をへし折ること。


「もらったっ!」

「ちっ……舐めてんじゃねえぞ!」


 僕の動きにベゼルグは舌打ちしつつもコンソールを動かし、振り上げようとしていた右の刃を後ろに振り、左の方も右の動きに追従させる形で横になぎ払い、機体そのものを一回転させるような形でこちらの一撃を回避した。

 僕はそれを見て、斬撃を止めて機体を半歩下がらせようとした。が、それより早くクォデネンツが三本脚を柔軟に組み替えて蹴りを放ってきた。


「これは……!」

「読みが浅えな、ナオキ・メトバ!」


 僕の驚きを見てベゼルグが僕をあざ笑う。

 クォデネンツの蹴りを受けてエクリプスはバランスこそ崩さなかったものの、一瞬だけ動きが止まってしまう。

 そのスキを見逃すベゼルグではない。即座にコンソールを操作すると、回転したことによる遠心力を生かして勢いよくこちらを切り刻もうとしてくる。

 クォデネンツの流れるような連携攻撃に直面した僕は、とっさにエクリプスに指示を出し、エクリプスを思い切ってしゃがませるとその状態からブースターを発動させて、しゃがんだ状態のまま相手の下半身に向かって突進をかけさせた。無論、構えも何もあったものではないが、ここはスピードが肝心だった。


「これなら……!」

「ちっ……!」


 エクリプスの行動を見たベゼルグは鋭く一つ舌打ち。繰り出すはずだった斬撃の動きを急停止させるとそのまま大きく左横に飛び退いた。

 僕は攻撃が回避されたのを確認してから動きを止めて、再びエクリプスをもとの姿勢に戻す。

 僕は再びベゼルグと相対する。


「ふん、やるじゃねぇか。ヤーバリーズ中央駅の一件から二か月足らずでここまで腕を上げるとはな」

「貴様のくれたハンデのおかげで、何とかなってはいるよ」

「そうか? だとしたら、やはり俺の勝ちは確定的だな」

「……かも知れないが、戦いの勝敗は終わるその時までは決まらないものさ」

「中々言うじゃねえか」


 ベゼルグは僕の言葉に鼻を鳴らした。


「なら、お前をぐうの音も出ないほどに叩き潰してやるよ!」

「いつまでもやられっ放しだと思わないことだ、ベゼルグ・ディザーグ!」

「やってみやがれ、ナオキ・メトバ!」


 ベゼルグは素早くコンソールを入力すると、再びクォデネンツをエクリプスに切り込ませた。

 今度は両腕を振りかぶり、エクリプスを挟み込むように斬撃を放とうしてくる。

 それを見た僕はエクリプスを一歩後退させた。この攻撃をまともに受けては流石に持たない。下がるべき時に下がるのは当然の行動である。


「どうした、でかいのは態度だけかよ!」

「まだまだこれからさ!」


 ベゼルグの挑発に僕は声を張り上げて答える。これには頭にずしりとした重みを感じる自分を励ます意味合いもある。

 僕はコンソールを操作してエクリプスに指示を出し、アサルトブレードでクォデネンツの両の刃を受け止めさせる。



 刃がぶつかり合う鈍い音がその場に響く。



 クォデネンツは刃を振り下ろした勢いそのままにこちらを押し切ろうとしてくるが、こちらも姿勢が完全に定まった状態で受け止めているので、そう簡単に押し切られたりはしない。



 しばらく、お互いに決め手を出さないままのつばぜり合いが続いた。



 僕はその間じっとクォデネンツの状況を観察していた。

 ここまでクォデネンツは脚が三本ある割には、あまり脚技というものを使ってこない。先程一度見せた時も丁寧に脚の配置を組み替えつつ放っており、気軽に使える、という感じには見えなかった。


 もちろん、今のつばぜり合いをしている状況でびくともせずに安定しているクォデネンツの三本脚が、実はクォデネンツのウィークポイントだったなどというつもりは無いが、脚部から攻撃される心配があまりないというのは相手の出方を窺うという点においていい材料にはなる。


 それと、おそらくベゼルグは無意識なのだろうけれど、どうも右から攻撃を仕掛けることが多いように思う。これも確定ではないが、人間というものは普段の自分というものを基準にして物事を考えがちで、それはWPの操縦であっても同じことが言えるのではないだろうか?

 ベゼルグも標準的な右利きであるのはコンソールの操作の仕方からも明らかなので、そこから考えてもWPの操作も右利きの感覚で操縦してしまうのではないか?


 そこまで考えたとき、僕の頭にあるひらめきが浮かぶ。

 僕はそのひらめきに従ってエクリプスに指示を送り、つばぜり合いの状態を一旦仕切りなおすべく、強引にクォデネンツの両刃を払いのけると、エクリプスを後退させて間合いを取った。

 それを見たベゼルグもまたクォデネンツを後退させる。

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