第67話
同じ頃、リヴェルナ革命評議会のアジトにある会議室では、ギレネスがベゼルグから共和国軍の新型WPに関する報告を受けていた。
「……機体は03型と比較してもやや大型だ。もっとも規格外と呼べるほどの大きさじゃないがな。装備も03型のものを流用している感じではあったから、装備規格そのものは合わせてあるんだろう」
「なるほど。新型という割にはスタンダードな発想で作られているわけですね」
「新型が毎回前と全く異なっていたら作る方も大変だろうよ」
ベゼルグのその言葉にギレネスもうなずいた。
「なるほど、その意見はもっともです。それで、事前に受け取っていた簡易報告書には特記事項があるということでしたが……」
「ああ、その件か。俺の読みでは、実はそこがこの機体の一番の要なんじゃねえかという気はしているが……」
「ほう、あなたがそこまで言うとは……。それで、その要というのは一体何なのでしょうか?」
ギレネスのその問いに、ベゼルグはすぐに答えなかった。ゆっくりと考えをまとめるかのように間合いを取って、口を開く。
「あのWP、たまに操縦手がコンソールを操作するより前に動いていることがあってな」
「操縦手が操作する前に……どういうことです?」
「俺にも良くはわからん。実は事前にこちらの行動を先読みして、WPに操作を入力しておいた可能性もなくはないが、それでは説明のつかん動きも何度かあった」
ベゼルグの言葉にギレネスは首を傾げた。
「よく分かりませんね。具体的に例を挙げていただくことは可能ですか?」
「一番分かりやすいのは最後の局面だな。あの時、操縦手は理由は不明だが戦闘中に体の不調か何かでその場に倒れこんでいた。当然コンソールを操作できる状況じゃなかったが、最後の最後であのWPは、操縦手が気力を振り絞って何かの叫び声を上げると同時に、こちらに向かって突進を仕掛けてきた。操縦手を引きずりながら、な」
「ふむ、つまり事前に先読み入力するのがほぼ不可能な状況下で、それでもWPが動いて攻撃を仕掛けたということですか? 操縦手の操作を待たずに」
ギレネスはベゼルグの話の要点を整理しながら考え込んだ。ベゼルグも険しい表情を浮かべている。
「そういうことだな。他にも交戦した操縦手の何人かがやはり似たような状況を目撃している」
「どのようなことが可能性として考えられるでしょうか?」
「さてな。とにかくコンソール入力だけで動いてねえのだけは確実だが、じゃあ一体どうやって動かしているかとなると判断が難しい。最後の局面の話だけなら音声入力のような気もするが、それならもっと相手の声が目立ってもいいし、何もコンソールを持って動く必要もねえだろうからな」
「あなたはそれ以外の可能性を考えている、ということですね?」
ギレネスが質すと、ベゼルグはややぎこちない仕草でうなずいた。
「ただ、その何かが何なのか、今のところ説明がつかねえ。サンプルが少なすぎるということもあるが、どういう条件で動いているのか、そこからして良く分からん。ブラフかも知れねえがコンソール入力も使っていることから考えると、まだ試作型で完璧なシステムではねえんだろうが……」
「今の状況下では、ちょっと判断を下せませんね。あなたの言う通り、そこがその新型が開発されていた理由に相当するのでしょうが、それを確認して利益があるのかどうか、確認できたとして我々に扱いきれる問題なのかどうかはちょっと疑問ではあります」
ベゼルグの言葉を受けて、ギレネスも現時点での結論を下した。
「当面は放置ということか」
「情報が集まるまでの間は、です。戦うなとは言いませんが、今後そのWPと戦闘を行う際には慎重に相手の出方を見定めて、良く動きを観察する必要がありそうです」
「あの機体はノーヴル・ラークスの操縦手が使っていたが、今も継続か?」
「みたいですね。先日、ヤーバリーズ基地に搬入されたという情報が入ってきています。……気になりますか?」
「ま、そんなとこだが、あれとやりあうにはクォデネンツが必須だしな。当面はスペクターの後継機の開発に全力を尽くさせてもらうさ」
ベゼルグはそう言って大きく伸びをした。
「クォデネンツ……あれはもう少し丁寧に扱ってくださいね。あなたが直接開発に携わったとはいえ、形の上では先方からの預かり物なのですから」
「戦場に出たら丁寧にもクソもねえだろう。両腕を破壊されなかっただけでも儲けものだと思ってくれよ」
「その理屈はわかりますが……」
「兵器は後生大事に後方で磨くだけのもんじゃねえだろ。それに実戦のデータを取ることも出来たんだ。あちらさんも一応納得はしてくれるだろ」
ベゼルグの言い分に、ギレネスはため息をついた。
「何だかんだといったところで、やはりあなたは生粋の操縦手なのですね」
「まぁな。自分でも不器用な人間だとは思っているよ。嫁さんにもよくそう言われたもんさ」
「おや、あなたが自分からそのことに触れるとは珍しいですね」
ギレネスが驚いたように眉を上げると、ベゼルグは肩をすくめた。
「バレてることを隠しても意味がねえ。それに、たまにあの頃が懐かしく思えることだってある」
「そうですか……」
「ま、もう二十年も前の話だ。嫁さんも今頃は再婚相手でも見つけて幸せに暮らしているだろうよ」
ベゼルグはそう言って話を打ちきり、ギレネスもそれ以上は深く触れなかった。




