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第61話

 その頃、共和国西部地域にあるリヴェルナ革命評議会のアジトでは、ギレネスが首都リヴェルナ襲撃から帰還することに成功したメンバーを出迎えていた。


「良く戻ってきましたね、ベゼルグ」

「出来れば、お前の顔だけはすぐに見たくなかったがな、ギレネス」


 帰ってくるなり無表情で出迎えをしてきたギレネスにベゼルグは顔をしかめたが、彼にもギレネスの言いたいことは分かっていた。


「どうでしたか? 首都リヴェルナは?」

「相変わらずしけた街だぜ。あれならサヴィテリアの小さな地方都市の方がまだましだ」

「その分だと、お目当ての相手には出会えなかったらしいですね」

「まぁな。貴重な戦力を結果的に使いつぶしちまったし、新型は目の前で取り逃がすし、クォデネンツを損傷させちまうし、ルドリア以上に冴えない結果に終わっちまった。面目ねえ」


 ベゼルグは彼にしては珍しく、短くもはっきりと反省の弁を述べた。


「今回はやけに殊勝しゅしょうな物言いですね、ベゼルグ」

「仕方ねえだろう。あれだけ大口叩いてろくに成果も出せずにおめおめ逃げ帰ってきたわけなんだからな」


 ベゼルグは完全に観念した表情でそう言ったが、ギレネスはそんな彼を見て小首をかしげた。


「そうですかねぇ? ……実のところ、私個人としては今回の結果にはそれほど失望を感じてはいないのですよ」

「ほう、そいつはまた実に寛大なご処分だな」


 ギレネスの物言いにベゼルグはギラリと目を光らせた。


「こちらの出撃させたスペクターは十四機すべてが失われましたが、対して共和国側は性能で勝るはずの02F型二十二機を損失しています。共和国軍の質の低下を十分に示せたのではないかと思いますが」

「しかし、いかに成果を出しても在庫がカラになっちゃあ本末転倒だろ。捕まった操縦手だっているんだぜ?」

「そうですね、ですから共和国側に揺さぶりを掛けようと思いまして」


 そう言ってギレネスはベゼルグに手に持っていた書類のうち一枚を手渡した。その紙に書かれている内容をさっと見てベゼルグは表情を変えた。


「こいつは……実質的な宣戦布告文か!」

「そこまで大それた内容を書いたつもりはありませんがね。しかし、第三次五か月戦争の講和にまつわる醜聞しゅうぶんは、共和国側にとって一番触れてほしくない内容ですからね。出すべきところに出せば、反応は確実に返ってくるでしょう」


 紙に書かれていたのは、革命評議会が第三次五か月戦争の講和条約について、リヴェルナ共和国政府が国民を欺いて不利な内容の講和を結び、国民に塗炭の苦しみを強いていると告発する内容だった。


「まぁ、書いてある内容自体はうそじゃないが……少々刺激的すぎないか? これを見たら確実に政府は本腰を入れて俺たちを排除しにかかるぞ」

「首都にWPで殴り込みをかけたご本人の言葉とは思えませんね」

「いやに自信満々だな。俺から見たら無謀な賭けにも見えるんだが」


 その言葉にギレネスは首をゆっくりと左右に振った。


「あなたが首都に行くと言った時点から、この展開は見通していましたよ。理想を言えばもう少しこちら側の損失が少なく、かつ新型機を奪取だっしゅするか損壊そんかいさせたかったですが、まぁそればかりは時の運ですからね」

「だから、真っ向から喧嘩けんかを売る準備をしていたってことか」

「そうですね。今回の件の成否にかかわらず、政府とはことを構える準備をすべき段階に入っていると思いますからね。多少のスケジューリングのずれには目をつむることにしました」


 ギレネスのその言葉に、しかしベゼルグはまだ疑わしい表情を作っている。


「しかし、勝算はあるのか? まだ次期量産機の試作型も出来ていないんだろう? スペクターの改良型はそこそこの成果を出したが……」

「勘違いしては困りますよ、ベゼルグ。私たちの最終目標は現共和国を打倒し新政府を樹立することではありますが、その方法は武力制圧だけではありません。時には世論を動かして国民の支持を得ることも必要なのです」

「テロリストの言い分をまともに聞く奴がどれくらいいるのやらな」


 ベゼルグがそう皮肉を述べると、そこでギレネスはニヤリと笑った。


「そこであなたの出番ですよ、ベゼルグ・ディザーグ」

「……まさか、俺に表舞台に出ろっていうのか?」

「私があなたを引き取ったのは、何もWPの開発運用のノウハウを学ぶためだけではありませんよ。こういう事態も見越してのことです」


 その言葉を聞いたベゼルグは表情を苦々しげにゆがめた。


「チッ、道理で話がうますぎると思ったぜ……!」

「でも、何も打算だけであなたにそう言っている訳でもありませんよ」

「どういう意味だ?」

「あなたは隠れていないで表に出るべきなのですよ、ベゼルグ。本来ならば先の戦争で英雄として称せられるべき人間だったはずなのに」


 ベゼルグはその言葉を聞いて静かに首を振った。


「もう二十年も昔の話だ。覚えているのは裏社会の連中ばかりで、そいつらも随分年を取っちまった。今更表に出たところで……」

「そうでしょうか? あなたが表に出ることによって救われる人間も確実にいると思いますけどね。あなたの処遇うんぬんを抜きにしても、共和国政府が国民を欺き、国のために戦った軍人を敵国に売って、いつわりの平和を作り上げた事実を全世界に明らかにする必要があるのです。それは私たち革命評議会が掲げる社会の正義にもつながります」

「ふん、ご大層な理想だな。……俺が拒否すると言ったらどうするつもりなんだ?」


 ベゼルグの皮肉交じりの問いかけに、ギレネスは平静を崩すことなく答えた。


「あなたが拒否するなんてありえないと思いますけどね」

「何故だ?」

「あなたは聡明な方ですからね。必ず正しい判断をしてくれると信じていますよ」

「よく言うぜ」


 ベゼルグは呆れたような表情を浮かべてギレネスを見ると、彼はかすかに微笑みを浮かべていた。

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