第59話
僕が首都リヴェルナにある陸軍病院のベッドの上で目覚めたのは、騒乱から四日後の朝のことだった。
僕は目が覚めた後本能的に起き上がろうとしたが、体が鉛のように重く思うように動くことが出来なかった。
そこに、懐かしい声が聞こえてきた。
「あ、目が覚めたの、兄さん!」
僕が声のした方に首を動かすと、そこには妹のアキの姿があった。
僕はアキに声を掛けようとしたが、声を出そうとするとせき込んでしまい、まともにしゃべることが出来ない。どうして、アキがこんなところにいるのだろう?
「あ、無理しちゃだめだよ兄さん。ちょっと待ってね、先生と……お母さんたちを連れてくるから」
アキはそう言うと軽快な足取りで病室から出ていった。
一人になった僕は、そこでまず自分の記憶を探ることに集中した。
僕は、確か首都リヴェルナに召喚されて、ニデア大佐に連れられ新型のWPコントロールシステムの動作実験の被験者となり、隊長と模擬戦を行ったところで敵襲警報を聞いて出撃して……。
「!」
僕はそこではっとなった。体が悲鳴を上げるのにも構わず起き上がろうとしてしまう。
敵。あのベゼルグ・ディザーグとかいう男との戦闘の最中、僕はシステムの使い過ぎのためかその場に倒れこんでしまい、そこに生まれた一瞬のスキを突かれて隊長は自分の操作していたWPの残骸の下敷きになって、そして……。
その時、僕はそこまでで自分の記憶が途切れていることを理解した。見たところ自分は病院にいて、こうやって妹のアキが僕を看病してくれていたところから見ても、どうにか状況からは脱して生還したのだろうとは思うのだけれど、一体どうやってあの場から今の状況に至ったのか、また残骸の下敷きになっていた隊長は無事なのか、その時の僕には分からないことだらけだった。
しばらくして、アキが医師と看護師、それにノーヴル・ラークスの皆を連れて戻ってきた。そこに隊長の姿はない。
そして、さらにその後ろからアキと弟のマサキに付き添われ車いすに乗った母さん……ソフィア・メトバが姿を見せた。
「ナオキ、目を覚ましたのね……良かった……」
母さんはそう言って車いすの上で涙ぐんでいた。母さんの涙を見て、僕は何とも言えない気持ちになったが、そんな感慨にふける間もなく、威勢のいい声が飛んできた。
「……ったく、心配かけさせやがってこの野郎! おふくろさん泣かせてんじゃねえよ」
「ジャック曹長、そういう言い方をしないの! ……ともあれ無事に目を覚ましてくれて安心したわ、メトバ軍曹」
「軍曹……ご無事でよかったです。戦場で倒れたって聞いてヤーバリーズ基地から飛んできちゃいましたよ」
ジャック、サフィール准尉、ホリー軍曹がそれぞれ順番に僕に声を掛けてきた。皆元気そうなのは良かったけれど、隊長はどうしているのだろう? やはり同じ病院に入院して治療を受けているのだろうか?
僕はぼんやりと視線をホリー軍曹に向けると、その意味を察してくれたのか、ホリー軍曹はやや考え込みながら口を開いた。
「あ、ひょっとしてアレク隊長のことでしょうか? えーと、そうですね。隊長は……」
「隊長は怪我の様子が思わしくなくてね。今は話せる状態にないわ。少し落ち着いたら事情を説明してあげるから、今は自分の回復に専念してちょうだいね」
何故か言い淀むホリー軍曹の言葉を引き継ぐ形でサフィール准尉がきっぱりと言い切った。暗にそれ以上の質問は認めないという意思表示のように僕には思えた。だから、大人しく僕は医師の診察を受けることにした。
「ナオキ、頼もしいお仲間さんね」
母さんが言った。今の会話からは頼もしいかどうかは判別できないと思うのだけど……。
「ジャックさん、また戦場の話聞かせてくれるよね?」
「おお、俺の話でいいならいつでも聞かせてやるぜ!」
マサキがジャックに武勇伝をせがんでいる。前に戻ったときはそんな風なことには興味がないみたいだったのに、ちょっと見ないうちに変わるものだなと思った。
「すみませんエンディードさん。うちの弟が騒がしくて……」
「あら、いいのよアキさん。あれくらいの男の子は戦場に憧れを抱くものだしね」
アキがサフィール准尉に謝ると、サフィール准尉は苦笑いを浮かべながらそう言った。
「ナオキ軍曹のお母さま、あまり無理をなさるのも……外へ出ましょうか?」
「いいんですよ、ディアンズさん。ナオキの顔を見ていたいし、こんなににぎやかな場所にいるのは久しぶりで……とても心地良いの」
母さんのことを気遣うホリー軍曹に、母さんはどこか安心したような声で答えていた。




