第57話
「くそっ、なんてぇ反応の速さだよ! ……だがっ!」
片腕の刃を切断されたクォデネンツをベゼルグは後退させつつ、僕の背後をちらっと見やった。
当然、僕にもその意味は理解できた。とりあえずベゼルグは無視して後ろを振り向く。
そこにはあのマシンガン搭載のWPが迫ってきていた。手前にはアレク隊長がいて、のろのろと動かない足を引きずりながら03ACの背後にどうにか逃れようとしているところだった。
僕はその姿を見るなりエクリプスを反転させて、急いで隊長のいる方へ向かって機体を移動させ、僕自身も隊長のそばへと駆け寄った。
「軍曹……君は……!」
「……僕は退きません! 隊長を見殺しにしたとなったら、それこそノーヴル・ラークスの名折れです」
隊長の声に答えると、僕は二体の敵に集中した。
マシンガンの敵は相変わらず積極的に仕掛けるつもりはないのか03ACに向けてマシンガンを放つものの、こちらには攻撃をかけてこない。ベゼルグのクォデネンツも先程右の刃を折られたダメージが大きいのか、一気には間合いを詰めずに慎重に様子をうかがっている。
僕はそっと隊長に声をかけた。
「隊長、03ACを動かせますか?」
「どうするつもりだ?」
「少しだけ位置をずらしましょう」
「わかった」
隊長は理由を聞かずにうなずいて、03ACを操作して少しだけエクリプスを中に入れる。03ACとエクリプスを盾にして動けない隊長をかばう目算である。
「だが、どうするつもりだ軍曹? すぐに援軍が来る見込みはないぞ」
「それでも、やらないといけないんです。二人で生還しなければ意味がありません」
僕は油断なく敵の動きに気を配りながら言った。
「強情だな」
「以前に隊長も言ったじゃないですか。全員で生還することが何よりの成果だと」
「そうだな」
隊長は僕の言葉に短くうなずくと、二体の敵を交互ににらみつけた。
「よし、軍曹、君は先にあのマシンガンの敵を倒してくれ。離れた場所から撃たれるだけでも我々は不利になる。その間、私はどうにかベゼルグの機体を食い止めておく」
「大丈夫なのですか、その足で」
僕は隊長を気遣った。有線操縦であるから、操縦手は機体に合わせて柔軟に位置を変えねばならない。それだけに足が動かないというのはWP操縦手にとってはかなり致命的な負傷である。
「分かっているさ。この足で無理は出来んからな。ただ、あのベゼルグの機体……クォデネンツと言ったか、奴も左腕を失っている。片腕だけのWPが相手ならば足止めくらいは出来るはずだ」
「ベゼルグ・ディザーグと言いましたか……彼は凄腕のWP操縦手です。甘い見立てでは簡単にやられてしまいますよ」
「心配するな。私とてノーヴル・ラークスの隊長だ。足止めに徹するならば、奴に遅れを取るつもりはないさ」
アレク隊長はそういって請け負うと、機体に寄りかかるような格好で無理やり立ち上がった。
「おうおう、隊長さんよぉ、足がふらついてるぜ。大丈夫かよ?」
その様子を見ていたベゼルグがこちらを煽ってくる。
「私は貴様と違って、頑丈なんでな」
「そうかい。その割には随分と長いご休憩だったみたいだが……」
「私の部下は優秀でね。私に見せ場を準備する時間を与えてくれたわけだ」
強気な隊長の言葉を、しかしベゼルグは鼻で笑い飛ばした。
「ハッ、言うじゃねえか隊長さんよ。なら今度こそてめえから血祭りにあげて、派手にやられる見せ場を作ってやるよ!」
ベゼルグがクォデネンツを動かすと同時に、マシンガンの敵も同時にこちらに対し仕掛け始めた。
僕は一度だけ隊長の方を見てからすぐにマシンガンの敵機に向きなおり、エクリプスを起動させた。
隊長はああいっていたものの、あのクォデネンツが相手ではそれほど長くは保てないだろう。僕が可能な限り早くこの敵を倒して隊長の援軍に向かわなければ隊長が危険にさらされる。
僕はコンソールを構えつつ、エクリプスの右手側のステップに体を預け、機体をマシンガンの敵に向けて突進させた。
するとマシンガンの敵はマシンガンを掃射しつつ後退をかけ始めた。先程もそうだったが、この敵は全く戦おうとしていない。パイロットが及び腰というよりも、基本的に戦況の監視を主任務としていたのかもしれない。
だが、ここで後退を許してまたけん制を掛けられても意味がない。僕はエクリプスの追跡速度を引き上げて、相手を真っ直ぐ追尾させる。相手もさらに速度を引き上げてこちらを振り切ろうとしてくる。
だが、追い比べばかりで済ますつもりもない。僕はエクリプスに追尾させつつ残っている中型ミサイルを間合いを確認しつつ一発発射させる。
相手はそれを見て左右に揺れるような軌道で動きミサイルをかわそうとするが、僕は残りのミサイルを全て発射して相手の動きを封じようとした。
最初のミサイルをかわし切った敵のWPであったが、次は二発のミサイルに挟み込まれる格好になった。敵はそこで後退をやめていったんその場に立ち止まると、腹をくくったのか真っ直ぐ前に出てマシンガンを放ちつつ突進してくる。
途中右腕にミサイルが当たって右腕が吹っ飛ばされたが、それでも動きを止めずにエクリプスに突撃しようとした。
しかし、その時エクリプスはそこにはいなかった。
「!」
相手は驚いて足を止め、上空を見上げる操縦手。
その視線の先には、上空にジャンプした僕とエクリプスの姿があった。
ジャンプの最中にアサルトブレードは構え終わっている。
「でえぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
僕は叫びつつ、エクリプスにブレードを振り下ろさせる。
落下の勢いそのままに、エクリプスのブレードは敵を真っ二つに両断した。
着地と同時に僕はジェネレータの爆発の可能性を考慮してエクリプスを一度後退させるが、幸い爆発は起きなかった。
操縦者の男の姿を探すと、一目散に隊長の方へと走っていくところだった。
「まずい!」
僕は息をつく暇もなくエクリプスを急発進させると、僕がギリギリ耐えられる限界の速度で男を追尾させた。瞬く間に男に追いつくことに成功したエクリプスは男の正面にに立ちふさがった。
男はそれに一瞬怯むものの、気を取り直すと今度は僕の方へ向けて拳銃を撃ち始めた。
「畜生! 死にやがれ、政府の犬が!」
罵詈雑言を放ちながら、狂ったように拳銃を撃ってくる。
僕はエクリプスの陰に隠れながら思案したが、あまり時間を掛けるわけにもいかない。
僕はやむなく懐から拳銃を取りだした。なるべくなら使いたくはなかったけれど、ここで撃たなければ自分や味方がやられてしまう。ためらっている暇はなかった。
僕はエクリプスの陰から慎重に男に狙いをつけると、相手の右肩を狙って拳銃を発砲した。
バン!
耳障りな銃声が耳の間近で響いた。
男は右胸の上の辺りを抑えてうずくまった。狙いとはやや異なる場所に当たったが、今はそれを気にしている暇はない。相手が抵抗能力を失ったのなら、すぐ次の敵に対応しないといけなかった。
僕は心を鬼にして、隊長とベゼルグのいる方に顔を向けた。




