第55話
あの男が乗ってきた機体は、リヴェルナ共和国軍の制式WPとはかけ離れた姿をしていた。
特徴的なのは脚部で、やや細身の逆関節ではない脚が前に二つ、後ろに爬虫類の尻尾のようにもう一本脚があり、三脚で機体全体を支えていた。また両腕はそれ自体が鋭利な刃物になっていて、近接戦闘で力を発揮しそうであった。
そして、両腕が刃物であるというハンディを補うためなのか、両肩には軍制式のものに似通った小型のミサイルランチャーが装備されている。
頭部は人のそれのように丸かったが、顔に当たる部分には不気味なモノアイが設置されていて、こちらを睥睨していた。
脚部といい、腕部といい、頭部といい、どこを取っても不気味な化け物だった。軍の制式WPやエクリプスが比較的スマートな「戦う機械」なのに対して、相手の機体は同じ機械なのにひどく生物的なものを連想させた。
僕は相手の機体に本能的な嫌悪感を感じていた。
「何者か、などと問う必要もないな。ヤーバリーズ中央駅のテロリスト殿」
アレク隊長が静かな声で男に話しかけた。
「ほう、階級章からして隊長殿か。今度は上司と同伴かよ、軍曹さんよ」
「……お前にそれを話す必要はない」
相手の皮肉交じりの声を僕は冷たくあしらった。
「ふん、ならとっととおっぱじめるか? こちらはお前さんのその黒いWPに用があるんでな」
「その前に聞いておこうか、テロリスト。貴様はどこでこの情報を掴んだんだ?」
「ふん。そう言われてこちらが素直に話すとでも思うのかい?」
冷静な隊長の問いかけを、男は鼻で笑った。
「ならば、もう一つ聞こうか。その機体、貴様らが独自設計した機体ではあるまい? どこの国とつながっている?」
「え……?」
「ほう、中々の目利きだな、隊長殿は」
戸惑う僕を尻目に、男は隊長の言葉を肯定した。
「だが、そこまで言うならば、すでに回答は出てるんじゃねえのか、隊長殿?」
「今のままでは単なる推測だ。推測を確証にするためには貴様から話を聞き出すのが最も効率的だろう?」
「なかなか言うじゃねぇか」
「隊長、どういうことですか?」
僕は一人だけ話についていけず置き去りにされてしまい、慌てて隊長に聞いた。
「要するに相手は恐るべき実力を持った相手ということだ、軍曹」
「ククク、隊長殿のほうが物分かりがよさそうだな? じゃ、そろそろやるか?」
「いいだろう。だが、最後にもう一つだけ、質問ではなく確認だ。貴様、ベゼルグ・ディザーグではないのか?」
隊長のその言葉にベゼルグと呼ばれた男は敏感に反応した。それまでの余裕から一転して、凶暴な目つきで隊長を睨んだ。
「そこまで知っているとはな。おおかた出所はマクリーンの親父だろうが、そこまで理解しているのなら生かしちゃおけねぇな」
「何故だ? 何故、元はリヴェルナの軍人である貴様が我々に牙をむく?」
「マクリーンの親父は言わなかったのか? リヴェルナ軍は第三次五か月戦争で多大な戦果を挙げていた俺を罠に嵌めた上でサヴィテリアに売り、それで講和を成立させた。しかも国民には何も知らせず、功績のすべてを記録から抹消してな。お前に分かるのか? すべてを奪われた上に敵に売られ、みじめに敵国でWP開発の被検体としてモノのように扱われ続けた俺の絶望を!」
ベゼルグと呼ばれた男は憎しみに満ちた声で隊長に呪詛を浴びせた。僕は何がどうなっているのかまるでわからず、ただそのやりとりを呆然と眺めるしかなかった。
「それで出来たのがその機体というわけか」
「それだけでもないがな。だが、この「クォデネンツ」も俺の手掛けた業物だ。そう簡単に倒せると思うなよ!」
ベゼルグはそう言うと静かにコンソールを構えた。
「……軍曹、来るぞ! エクリプスを構えさせろ」
「は、はい。しかし……」
「あの男の言うことは今は無視しろ。奴は敵だ!」
「言ってくれるじゃねえか。なら、こちらから行くぜ!」
隊長の言葉を聞いたベゼルグは目に殺意をたぎらせながら、クォデネンツと呼んだ化け物のようなWPを起動させた。
まずアレク隊長の03ACから倒すつもりなのか、クォデネンツと呼ばれたWPは見かけからは想像もつかないほど素早く足を動かし03ACとの間合いを詰める。
「くっ!」
隊長も敵の動きにどうにか対応するべく、持っていたライフルをクォデネンツに投げつけた。勿論けん制である。
クォデネンツはそれを難なく片腕で切り払うと03ACに迫ったが、その時03ACもメタルナイフを両手に構えていた。
刃と刃のぶつかるきしんだ音が辺りに響き、03ACは両手のナイフで相手の両腕部のブレードを受け止めていた。
だが、クォデネンツはぐいぐいとブレードを押し込んでくる。刃渡りの差もあるが、単純なパワー自体が03ACより上のようであった。
「おらおら、ちったあ楽しませろよ、特務部隊の隊長さんよ!」
「そちらこそ、二対一なのを忘れていないか? ベゼルグ・ディザーグ!」
「あん?」
隊長の言葉を待つまでもなく、僕もエクリプスを動かしていた。アサルトブレードを大上段に構えさせて、クォデネンツに切りかかった。
「部下頼みとはいい趣味だな、隊長殿よぉ!」
ベゼルグは隊長を嘲りつつコンソールを動かし、クォデネンツに03ACを蹴り飛ばさせた。その時、圧力に負けて体勢を崩されていた03ACは相手の強烈な蹴りに耐え切れず吹っ飛ばされる。有線コンソールで操縦していた隊長もそれに引きずられる格好で地面に叩きつけられた。
「ぐあっ!」
「隊長!」
「おっと、目の前の相手を無視するつもりか? 軍曹さんよ」
急いで隊長のそばに駆け寄ろうとする僕の前にベゼルグとクォデネンツが立ちはだかる。
「そこをどけぇ!」
エクリプスは僕の意思に従ってクォデネンツに突進した。
「! ……チッ!」
ベゼルグは僕のことを一瞥して舌打ちし、エクリプスのブレードを受けずに一度クォデネンツを後退させた。




