第49話
僕とアレク隊長はわずかな休息の時間を終え、装備の換装を終えたそれぞれの機体を演習場の整備兵から受け取った。
エクリプスは試作機なので制式装備は存在しない。だから装備の組み合わせはバランスを崩さない範囲で整備兵のお任せにしてもらった。結果は肩のウェポンラックに中型のミサイルランチャー、携行火器は取り回しのしやすいハンディタイプのマシンガン、A型装備用のアサルトブレードを腰に差し、左手にD型装備の大型シールド、脚部にC型装備用のホバーユニットという各装備の良いところ取りした装備という具合になった。
「もうちょっと統一感のある装備の方がよかったかな……」
僕は出撃準備をしつつそんなような感想を抱いた。
「普段は見ない組み合わせを見るのも新鮮でいいな、軍曹」
隊長がゆったりとした口調で話しかけてくる。隊長の03AはC型装備に標準タイプのライフル、肩に外付け式の広域レーダーと増設型通信セットといういで立ちであるが、これは普段なら部隊の通信制御をやってくれているサフィール准尉がいないので、その役割を隊長が兼務するためである。
「隊長も扱いなれない装備で大変なのではないですか?」
「これくらいこなして見せねば、サフィール准尉に後で笑われてしまうさ」
「そうでしょうか?」
「こんなところでまで真面目ぶる必要はないんだぞ、軍曹」
隊長は苦笑しながら僕をたしなめる。そういえば、この二日間というもの、こういう軽いやり取りを全くしてこなかったような気がする。
「新型を任される気分はどうだ?」
「悪くありません。どういう経緯であれ、特別な試作機が自分の機体になったのは事実ですから」
「そいつの使い心地はどうなんだ?」
「ちょっと大型なので小回りは利きませんけど、パワーはやはり段違いだと思いますから、そこを生かせればと思います」
隊長は僕の言葉にうなずいて、さらに話を進めてきた。
「件の新型コントロールシステムはどうするつもりだ?」
「あれは自分への負担が大きいので最初からは使いません。それに使いすぎて相手にこちら側の手法を察知されては一大事でありますから」
「それが正解だ、軍曹。おそらくニデア大佐がいたとしても君の方針に同意してくれるはずだ」
隊長の言葉に今度は僕がうなずいた。
「今回、私は指揮を執りつつ通信制御も行うことになる。間に合えば支援も行えるはずだが、基本的には敵は君に任せきりになるだろう。構わないな?」
「エクリプスの特性を考えるなら後衛よりは前衛でしょうし、大丈夫です」
「無理はするなよ。危ないと思ったら、必ず一声をかけてくれ」
僕は隊長に請け負ったが、隊長はそれでも心配そうに言った。
「分かりました……!」
僕は隊長の心配を打ち消すように力強く応えた。
「……よし! 整備兵は下がってくれ、アレクサンダー・ニーゼン、WP-03AC、出るぞ!」
「ナオキ・メトバ、TWP-015Fエクリプス、出ます!」
僕と隊長は多数の敵が待ち受けるリヴェルナ郊外へと出撃した。
演習場を出撃して数分後、僕らは最初の敵を発見した。
敵はやはりというべきかあの左腕がマシンガンになっている機体だった。
二機が一組になって行動しているらしく、僕らに気付いた相手側は僕らの方に向きなおり、機動力を生かして攻撃を仕掛けてきた。
僕は隊長の03ACを庇うようにエクリプスにシールドを構えさせて防御姿勢を取った。
「敵の攻撃はエクリプスに防がせます。隊長は攻撃を!」
「任せろ!」
隊長は既に03ACにライフルを構えさせていた。
鋭い銃声一発が響き、隊長のライフルから銃弾が放たれて、それは片方の敵の脚部ホバーに直撃した。片方のホバーをやられた機体は大きくバランスを崩して回転しながら滑るように地面へ転倒した。
当然機体のステップに乗っていた操縦手もただでは済まず、思い切り地面にたたきつけられる。操縦手はそのままうずくまって動けない。
(死ぬほど痛そうだけど、自業自得としか言えないな……)
相手はいきなり共和国の首都リヴェルナに臆面もなく攻撃を仕掛けてきたのである。どんな事情があろうと、テロリストに同情する余地はない。
僕は今見た光景から強引に意識を切り替えて、もう一機の敵を見た。
相方を倒されたもう一機は冷静だった。仲間が脱落したのを確認したもう一機は突っ込むのではなく途中で大きく旋回軌道を取って、一度こちらと間合いを取ろうしているみたいであった。
「よし、チャンスだ軍曹、一気に切り込め!」
「了解!」
アレク隊長の命令に応えると、僕はエクリプスを防御姿勢から攻撃態勢へと移行させて機体脇のステップに飛び乗り、機体を発進させる。
エクリプスは機体が大きい分推力も大きい。高い機動力を持っている敵機との間合いを瞬時に詰めていく。
敵はさらにマシンガンを撃ちつつさらに加速してこちらを振り切ろうとしてくるが、こちらの加速力の方がわずかに上だった。左手側のシールドでマシンガンの弾を防ぎつつ相手に接近し、右手にアサルトブレードを構えさせるとそのまま相手に斬りつけた。
相手はその斬撃をかわそうとするも果たせず、右腕の肘から下を失ってしまうが、それでも戦意を捨てず左腕のマシンガンを駆使してこちらを振りほどこうとする。
僕は無理に追撃させずにシールドを構えさせて、いったん間合いを取る。
先程から相手に微妙な違和感を感じていたのだけれど、冷静に見てみると、相手のマシンガンの口径が若干大きくなっているように見えた。
「隊長、あの機体は前と違いますね」
「うむ、こちらでもヤーバリースのデータシステムに照会してみたが、少なくとも今交戦している機体は、以前のものよりバージョンアップをしているようだな」
「やはり」
「軍曹、気をつけろ。まだ何か隠しているものもあるかもしれない」
「わかりました!」
僕は相手から目を離すことなく隊長の言葉にうなずく。
だが、相手はこちらに仕掛けることなく、そのままゆっくりと後退していった。
「逃げる……?」
「いや、違うな。後退していった先に数機ほど敵の反応がある。合流して態勢を立て直すつもりだろう」
僕のつぶやきに隊長はレーダーを見つつ冷静に分析した。
「どうしますか、隊長?」
「敵の数は逃げていった敵を含めて五機ほどだが、数で負けている以上正面からぶつかるわけにもいかんな」
「奇襲でしょうか?」
「……いや、上手くいけば敵の方から来てくれるかもしれんな」
「え? ……どういうことでしょう?」
「軍曹、今君が動かしている機体を何だと思っているんだ?」
「……あっ!」
その言葉に僕はエクリプスを仰ぎ見る。
「そういうことだ。WPシリーズとは大きく異なる大型の機体、敵が無能でなければ必ず指揮官に報告をするはずだ」
「指揮官……ですか……」
僕はその言葉にごくりと息を呑む。当然、思い浮かべたのはヤーバリーズで戦った例の男だった。ルドリアでは直接戦わなかったけれど、今度こそ正面からの戦いになるのだろうか。




