第20話
「随分と派手に暴れたそうですね」
「……」
男は相手の皮肉交じりの言葉を黙って聞いていた。あの『血塗られた英雄』と呼ばれていた男だった。
そこは薄暗い地下らしき場所にあった。テーブルと椅子が雑ではあるが規則的に並べられていて、会議室のような雰囲気を漂わせている。
男は正面の席に悠然と腰かけている年若い男と向き合っていた。
若い男は金髪碧眼の美丈夫で暗い地下の会議室の中でもひときわ目立っていた。顔つきや物腰は柔らかだが、どことなく鋭い雰囲気も感じさせる。
「新聞に出ていましたよ。死者五十二名、負傷者三百と六名、被害車両が五台に産業用ロボット二十体が全損……。『散歩』にしては少々派手すぎませんか?」
「……約束は遵守しただろう?」
金髪の男の追及に男はぶっきらぼうに答える。
「そうですね。確かに機体自体は全く損なうことなく戻ってきましたし、軍も警察もまだ我々の正体にまでは到達していなさそうですから、あなたの対処自体は間違っていなかったようです……」
「……」
金髪の男はそこで一度言葉を切って男の反応を窺ったが、男は何も言わずに無表情で突っ立っているので、首を傾げつつ言葉を続けた。
「しかし、どうして軍が来る前に撤退をしなかったんです? 来る前に引くことだってできたでしょうに」
「無抵抗な民間人を嬲り殺したところで、実戦テストにはならんだろうが」
「ほう、あれはスペクターの実戦テストだったわけですか」
「当たり前だろう。誰がただの散歩にWPを使うって言うんだ」
金髪の男の言い草にいらついたのか、男は刺々しい口調で吐き捨てた。
「なるほど、で……テストの結果を聞かせていただきたいものですね?」
金髪の男はそこでがらりと口調を変え、冷たい声で言った。
「機動性は申し分ない。連中は02FAやFDを操っていたが結局追撃は来なかったしな。ただ、火力はWP相手には少し役不足かもしれん」
「そこはある程度割り切っていたところではないのですかね?」
「ああ、そうだ。補給や生産性を考えると、重装備には出来ないからな。構造を簡略化して生産性を高め、火力と引き換えに機動性を高めて優位を取る……狙い通りにはなっている」
「それでも無視できないほどの火力の不足、ということですか?」
「ああ、固定型マシンガンの口径はもう少し大きくするべきだったな。対人殺傷用としてなら文句はないんだが、対WP用としてはけん制程度にしかならん」
男の言葉に金髪の男も静かにうなずいた。
「現状で講ずることの可能な対策はありますか?」
「まずは携行用火器の火力を上げるべきだな。小型のグレネードランチャーあたりを持たせた方が優位に立てるはずだ。それとマシンガンの弾をより強力な徹甲弾に換装したほうがいいだろう。金はかかるがな」
「片腕のマシンガンを廃止することは可能ですか?」
「それはそれで検討すべきだろうが、両腕を通常のマニピュレータにするとなるとメンテナンスコストがかさむし、機体のバランス計算をやり直す必要もあるから、現状すぐにとはいかんな」
「なるほど……」
金髪の男は考える目つきになった。
「他に何か質問はあるのか? 無いならそろそろ解放してもらいたいんだが……」
「では、最後にもう一つだけ。あなたが対峙したという独立任務部隊の実力はいかがでしたか?」
「敵じゃねえ……と言いたいところだが、なかなか腕がいい奴らが揃ってそうだ。特に俺と戦った……ナオキ・メトバとかいったかな? 奴は早めに始末しておきたいところだな」
「ほう」
金髪の男は興味深い、というように男の方を見た。
「まだまだ操縦技術は半人前だが、判断力が図抜けてやがる。こちらの手の内をその都度的確に見抜いてきやがったし、いざというタイミングで思い切った行動も取れる。増援が来たとはいえ、あそこで仕留めきれなかったのはこちらの手抜かりと言われても仕方がねえ」
「あなたがそういう評価を下すほどの相手とは……きわめて興味深いですね」
金髪の男が感心したようにつぶやくと男は面白くなさそうな表情になった。
「あんたの興味深い、っていうのはろくなもんじゃねえからな」
「おや、そうですか? 私は冷静に物事を見ているつもりですけれど」
「だからろくなもんじゃねえんだよ。冷静に見ている分、間違いが少ねえからな。その分その後の厄介ごとの度合も増す」
「あなたも似たようなものでしょう? ベゼルグ」
金髪の男はそこで男のことを初めて名前で呼んだが、それを聞いた男は表情を変えて抗議した。
「俺を名前で呼ぶなって言っておいただろうが!」
「これは失礼。しかし、名無しではやりにくくないのですか?」
「俺は名無しで十分だ。『血塗られた英雄』なんて仰々しい通り名もあるんだしな」
ベゼルグと呼ばれた男がそう言うと、金髪の男は黙ってベゼルグのことを見つめた。
「今更なんだよ? じろじろ見やがって」
「それがあなたの本心から出ているとは、私にはとても思えませんが」
「そう見えるかい?」
「ええ」
金髪の男が真顔でそう言うと、ベゼルグはくるりと背を向けた。
「俺を買いかぶりすぎだぜ、リーダーさんよ」
「そうですかね」
「そうだとも……そんじゃ、疲れたんでそろそろ退席させてもらうぜ。ギレネス」
ベゼルグはそう言うと返事を待たずに部屋を出ていった。
ギレネスと呼ばれた金髪の男はそれを無表情で見送ると、傍らにあった書類に目を通し始めた。




