第17話
僕は格納庫に着くと整備兵よりちょうど整備が終わったばかりだという02FDを受領し、急いで腕に固定できる戦闘用の有線コンソールを02FDに接続して起動させる。
部隊のために支給されているWP運搬車両は僕一人では使えないので、高速移動用の使い捨てホバーユニットを02FDに接続し、それに同乗して現場に移動することにした。本来はそういう使い方をするものではないが、今は一刻を争う事態である。
最後に通信機能が付いているヘッドセットを装着し、出撃準備が完了したので作戦指揮所に通信を入れる。
「作戦指揮所へ。WP-02FD、ナオキ・メトバ軍曹、出撃します」
『こちら作戦指揮所。了解しました。直ちに出撃してください』
「当該現場までのナビゲーションを要請します」
『承知しました。では、こちらの誘導に従ってください』
「了解!」
通信を終えると、僕はメタリックグリーンに塗装された02FDと共に現場へ急行した。
ヤーバリーズ中央駅はその名の通り、ヤーバリーズの街の中心部にあった。僕たちが基地に移動する際にも車窓から少し見えていたこの駅は、ヤーバリーズのみならず共和国全体の鉄道網にとって重要な場所であり、朝から夜まで人影が途絶えることのない起終点駅である。
普段ならば人も車も頻繁に行き交っているのであろう駅前の大通りをホバーユニットで突っ切る。テロ発生後すぐに交通規制が敷かれたらしく、人影はない。
『もうしばらくしたら現場です。軍曹、十分な警戒をしてください』
「了解。ここからホバーユニットを分離して移動します」
『わかりました。隊長たちも間もなく出撃できますので、それまでは慎重にお願いします』
「ありがとう」
僕は作戦指揮所のホリー軍曹に礼を言うと通信を終え、02FDを一旦停止させ、ホバーユニットを切り離す。このホバーユニットは一度切り離すと再接続は不可能になってしまう。
そこは、駅前の広場のようだった。辺りには襲撃を受けたとおぼしき自動車や産業用ロボットなどの破片が散乱していて、テロの被害を物語っていた。
人の姿はない。死傷者などは既に運ばれた後なのだろう。
そして、肝心の所属不明機の姿もなかった。
「所属不明機が一機でこれだけのテロを、か……」
僕は先日のヴェレンゲル基地襲撃事件を思い出す。
WPを使っての対人戦闘は国際条約で禁止されているはずだった。しかし、実際にはWPは対人戦闘に使われて多くの死傷者を出し、そして今日もまたWPはテロに使われ多数の死傷者を出している。
(いったい、あの条約は何のためにあるんだろう……?)
そんなような漠然とした不満を抱きつつ、僕が02FDと共に歩みを進めた時だった。
強烈な、違和感。
僕はぞくりとするような寒気を感じて02FDの左腕に装備させてあるシールドを構えさせると、その内側の空間に潜り込んで防御姿勢を取った。
その次の瞬間。
ガガガガガガガガガガ!
シールドに銃弾らしきものが激しく撃ち込まれる音が響く。あらかじめ通信用のヘッドセットをつけていなければ耳をやられていたかもしれない。
『軍曹! 何事ですか?!』
「ナオキ・メトバより作戦指揮所へ。目標と思われる相手から攻撃を受けている!」
『数は?』
「不明だが、おそらく一機だけだ!」
『了解です。隊長たちが来るまでもうしばらく我慢してください』
僕は通信を終えると息をつく暇もなく02FDを少しずつ後退させながら態勢を整え、02FDの肩にマウントされている対WP用の小型ミサイルに照準を設定し一発だけ発射させた。
バシュッ!
小さなフレアを発しながらミサイルが敵がいると思われる方角へと飛んでいく。もちろん、敵に当てるのが目的ではなくけん制である。
しかし、銃撃は止まらない。単なるけん制が狙いなのは見抜かれていたらしい。ミサイルは大きく軌道を逸らして上空へと達した後、爆発した。
(と、なったら後は……)
一瞬だけ思案した後、僕は思い切って銃撃のある方へと02FDを前進させた。生半可な脅しの通じる相手ではない以上、ジリ貧を避けるためにはこちらから切り込んでいって仕掛けるしかない。
例えそれが相手の狙い通りだったとしても、である。
僕と02FDがじりじりと間合いを詰めていくと、不意に銃撃が止んだ。
(来る……!)
僕は危険を覚悟でシールドの内側から飛び出すと02FDの右側にある騎乗移動用のステップに体を乗せ、そのまま背面のブースターを使って前方上空にジャンプさせる。
02FDに滞空性能はないが、一瞬だけジャンプさせることくらいなら出来る。
次の瞬間、敵とおぼしき機体がすさまじい勢いで銃を乱射しながら突っ込んできて、僕がいた場所を蹂躙する。
後一瞬だけ跳躍が遅かったら、僕は吹っ飛ばされた挙句に銃弾の餌食になっていただろう。
02FDを敵機がいたと思われる場所へ着地させると、僕はすぐにシールドを構え直させて先程と同じ防御態勢を取らせる。
が、そこで野太い男の声が飛んできた。
「なかなかやるじゃねぇか、02FDの操縦手さんよ」
「!!」
僕は驚きながらもその場を動こうとしなかった。相手の誘いかもしれないからだ。
「どうした? 誘いだとでも思ってんのか? 慎重なこったな」
「……」
「だが、せっかく犯人様が顔を見せてやるって言ってんだ。確認する義務がてめえにはあるんじゃねぇか?」
その言葉は僕の心を動かすには十分だった。確かに、犯人の顔を見ておけば、仮にここで確保できなくても次につながる。
「どうした? 出てこねえんならそれでも俺は構わんが、次は容赦しねえ。俺は臆病者が嫌いなんでな」
「わかった」
僕は応じた。ここは逡巡している状況ではない。
一応油断なく02FDの通信回線をフルオープン状態にしておいてから、僕はヘッドセットを取ってシールドの内側から身を乗り出した。
すると、そこには一人の男と見慣れぬWPとおぼしき逆関節型の二足歩行兵器が立っていた。
男は鋭い目つきをしたやせた男だった。僕と同じように腕部固定型のコンソールを手にしていて、それで正体不明の機体を操縦しているように見えた。
男が操っていると思われる兵器は全体のフォルムがこの間動かした03A型に近いものがあるが、左手が固定型のマシンガンに変更されているほか、脚部がやや肥大化していて上半身に比べてマッシブな印象を与えていた。
「ふん、どんな奴かと思ってみたら、まだまだ坊ちゃんじゃねぇか」
男は僕を見るなり嘲るような口調で語りかけてきた。
「どうとでも言えばいいさ」
「ハッ! 流石に単純な挑発には乗ってこねえか。一人でここに来ただけあって、なかなか肝が据わってやがる」
僕が突き放すと男は面白いものを見るような目つきで眺めまわしてきた。
「自分は独立任務部隊所属のナオキ・メトバ軍曹だ。貴様は?」
「独立任務部隊? ああ、ヴェレンゲルの生き残りか」
「!?」
僕はその瞬間はっきり動揺を表に出してしまう。まずいとは思ったが後の祭りだった。この男はどうしてそのことを知っているのか?
男はもちろんそれを見逃さなかった。口の端を吊り上げて僕を嘲る。
「ハハハ、まったくお笑いだぜ! ヴェレンゲルでみじめったらしく逃げ回って生き延びた負け犬が、独立任務部隊なんぞと仰々しく名乗って活動しているんだからな!」
「黙れ!」
僕は思わず怒鳴ってしまうが、男は構わずしゃべり続ける。
「軍曹ごときが良く吠えやがる。ヴェレンゲルの一件はうまく隠したつもりでいるんだろうが、あの程度で隠した気になってるなら大間違いだってことを、いずれ思い知らせてやるさ」
男のその言葉に僕は、はっ、となった。
「貴様、まさかヴェレンゲル事件でコントロールルームを占拠した連中と……」
「おっと、少々口が過ぎたようだな……」
僕が言いかけると男はそれを遮るようにコンソールを構えた。
「!」
僕も慌てて02FDを操作するためにコンソールを構えるが、僕は相手のそれが単なるブラフだったことに気がつけなかった。
男はいきなりコンソールを投げ捨てると、懐から拳銃を取り出し躊躇うことなく引き金を引いた。




