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第6話 序列1位の過去①

第6話更新です。

今回は少し残酷な表現があるため、苦手な方はご遠慮ください。

 そのうちの1人、エルドラがヘイワに声をかけた。

「ヘイワさん、スピリタス飲んでるなんて珍しいっすね。」

「ツキさんに飲ませられたんです…。おかげで、頭がクラクラして…。イタタ…。」

 ヘイワはひたいを押さえてうめく。赤い顔を通り越して青くなってしまっている。いつもの調子で飲んでしまったようだ。

「ハハハ、まあたまにはいいじゃないすか。ツキさん、俺は芋焼酎で!」

「私、シルバーカクテル!クレ君は?」

「僕は少し酔いたい気分なので…そうだな、エルさん、なんか選んでくださいよ。それを瓶のラッパで飲みましょう。」

 クレイリーが急にエルドラに振ったため、周りの人間は一人残らず驚いてしまった。

「え?え?え?クレ君!?エルさん!?」

「これは…、さっきの時間に何かあったな…?」

 エルドラは大声で高らかに笑い、クレイリーとヒマワリは顔を見合わせてクスリと笑った。笑いを止められないまま、エルドラはワインを選ぼうとするが、周りの特攻隊のメンバーに取り押さえられた。

「隊長!何があったんすか!?」

「クレさんと何で仲良くなってんすか!?」

「今、クレイリーが飲むもん選んでる最中だろが!後でにしやがれ!」

 エルドラが特攻隊のメンバーに押し潰されていくのを見ながら酒を浴びるように飲んでいくメンバー達。そこにはいつもとは少し違う光景があった。

「簡単に言えば俺のトラウマの話だ!それだけだ!!!」

 メンバーを振り払いながら、リートの頭をポンポンと2回、軽く叩く。叩かれたリートは赤く火照ほてった顔をエルドラに向けると、エルドラは白い歯を見せて歯を鳴らした。リートは軽くうなづくとまた酒を飲み始めた。





~テツヒロサイド~

 こちらも酒を浴びるように飲みながら会話を続けていた。実際に酒を浴びるように飲んでいたのは、トモとキョウジの2人だけだったが。

「あと聞きたいことは何だったっけ?」

「アンタの姿が何故2つあるのかについてだろ。そこ2人は、酒の飲み過ぎで寝落ちしちまったし…。一先ずは、俺が聞きてぇのはそんだけだ。」

「まぁ、見て察しろ…。と言いたいが、俺のこの紫色の髪、分かるだろ?元々は黒髪でよぉ。左眼のこのキズも無かったんだ。」

 髪の毛をクルクルといじり、髪に隠れた左眼のキズを曝け出す。

「それを隠すためってことか?だがよ、キズ自体は紫の髪で隠れてるから別にキズを隠す必要はねえだろ?というかよぉ…。」

 キョウジは、一度黙り、重々しく口を開く。

「なんか………抱えてんな…?」

 トモは口から酒を垂らしながらがぶ飲みし、力強くテーブルに瓶を叩きつけた。酒が入り、完全に寝入ってしまった2人も少し身動(みじろ)ぎをし、キョウジは驚いて酔いが醒めかけた。

「お前は…俺の過去を知ってるのか?」

 トモの眼は鮮やかな紫色に染まっていた。只々相手に恐怖しか与えない睨み。キョウジの頬を一筋の汗が伝う。

「いや、悪い…。んな訳ないな…。」

 頭を抱えて苦笑いをした。先程の重いプレッシャーは感じなくなっていたが、まだ背筋が凍ってしまうような空気を放っていた。

「そりゃそうだ…知ってる筈がねぇ…。俺もバカになった…。」

「俺は昔通ってた高校の番長的なのやっててな…。そん時にカウンセリングみたいなもんやってたんだよ…。だから………目の前の人間が何かを抱えているであろうことなら……分かる。」

「…あ~、なんだ、勘違いして悪かったな。俺は元々表の人間でって…知ってるか?」

「なんとなくはな。「あの人がこの世界に来てから裏は変わった」って言ってた人がいたらしくね。」

「ベイルだろうな、そんなこと言ってるのは。そんな訳無いがな、変わったのは皆の力さ。」

「全部とは言わねえ…、まだ会ってからそう時間も経ってねえしよ。」

「裏に来る前の事なら話してやるよ。この話はうちの幹部ですら知らねえシークレットだ。言いふらさないでくれんなら俺の過去の一部くらい話してやらぁ。」

 トモは飲みかけの酒の瓶に栓をし、席を立ってスヤスヤと寝息を立てている2人の横に腰を下ろした(元々キョウジの正面にいたため、今は2人を挟んで同じソファーに座っていることになる)。

「俺はここに来る前に………人を殺してる…。」

「っ…!」

 キョウジは軽く身構えたが、トモは気にも留めずに話を続ける。

「俺は表に居た時から裏の人間との交流があってな。その中に俺の親友と呼べる奴らが6人いたんだが…。俺はリアルでのダチがいなかったんで嬉しくてね。」

 キョウジは体から力を抜き、黙って話を聞くことにした。少なくとも今ここで殺人を犯すような人間とは思えなかったからである。トモは背凭せもたれに寄り掛かり、静かに目を閉じた。

「そいつらと出逢ってから…もう9年になるかね。」

「アンタの今の歳知らんから正直、どういうシチュエーションだったのか分からんが…。」

「あり?それも言ってなかったか?俺はお前らと同い年だ。」

「は………?」

 キョウジの思考が一時停止した。急いで右を向く。

「冗談だろ!?顔立ちだって大人びてんぞ!?せめて、20代後半くらいはいってるもんだと…!」

「ま、老け顔とはよく言われる。」

「老けちゃあいねえよ…つか、親友に会えたのが9歳ならそりゃ早いと思うぜ。」

 トモはテツヒロの頭を優しく撫でていた。その眼は少し蒼っぽく輝き、どこか寂しそうであった。

「今は……そいつらは居ねえんだ…。裏の人間は死なないと思ってたから。」

「事故か…?」

「事故とも言えるし事件とも言えるな…。6年前、俺が裏に来ることになった要因の1つだ。」

 ここでトモはテツヒロの頭から手を放し、右の方に置いてあった棚に手を伸ばし、新聞を取り出す。その新聞をキョウジに放り投げる。キョウジは難なくその新聞をキャッチし、広げる。トモは元の姿勢に戻り、今度は少し遠いマユの頭を撫で始めた。

「これは…、6年前の新聞か?」

「この部屋は俺が借りててね、その新聞を見ながらここで酒を飲むのが習慣になってた時期があったんで、そのまま置いてもらってたんだ。」

 キョウジは新聞の一面に「竜崎友也(リュウザキトモヤ)」の文字を見つけた。その見出しは「太平洋上空にて航空機ハイジャック!そのまま日本の山奥に墜落!生存者は1名のみ!」と書かれてあった。

「その生存者が俺だ。」

 キョウジは2つ疑問に思っていたことがあった。それは、先程の言葉である「人を殺す動機」である。今までの説明にそれに関係するフレーズがなかったからである。もう1つは、「今は居ない」の意味である。

「本当はもっといるんだよ、生存者。」

「え…?」

「ハイジャック犯は裏の人間だったんだ…。それも5人。墜落した時点で3人に減ってたがな。それと、俺の親友6人は「適応能力者(フィールドワーカー)」だった、俺が普通の人間だったのに生き残った理由はそれだ。」

 トモはうつむき、下を向いていた。よく見れば目に涙が浮かんでいた。トモは涙目のまま、話を続ける。

「そのまま逃げたかったんだが、俺が両脚折っててな。まだまだ皆ガキンチョだったから能力の使い方も雑でね…。直ぐに追い詰められちまって…。」

 キョウジはその時の状況を頭に浮かべる。墜落した場所が何処か分からない上に相手は能力持ちの大人。更には能力を持ち合わせてすらいない足枷あしかせにしかならない一般人。

「奴ら、自分の半分も生きてないガキに負け、その上警察に引き渡されるのが相当嫌だったらしくてな…。」

 ろくに狙いも定めぬまま、犯人の1人が銃を撃ったのだ。何発か撃ったうちの1つが偶然親友の左胸を…!キョウジは自分の左胸を押さえ、呻いた。その親友は一度トモの方を見遣り、最期の力を振り絞ってこう叫んだという。「絶対に死なせるな!」と。適応能力(フィールドスキル)とはいえ、銃弾が効くと分かった犯人達は…。

「もう…言わなくても……分かっだろ…?」

「アンタの親友は全員、アンタを庇ったのか。」

「そうさぁ…。でもまあ、結局見つかってな。」

 トモを一般人だと分かった犯人達は殴ったり蹴ったりして何の能力も持たない一般人をなぶり続けた。相手が何も出来ないことを分かっていた。両脚が折れている12歳の少年を誰が脅威に思うだろうか、いや、思わない。最後には

「お前の連れは馬鹿だよなぁ!お前を見捨てればまだ未来があった筈なのによぉ!」

と親友達をののしってきたのだ。

「俺の命を守ってくれた言わば恩人、それも親友さ。だから俺は犯人達と俺を同時に恨んだよ。俺に力があれば…、こいつ等を地獄に落とせるのにってよ。そんな時に…俺は自分の中で何かが変わるのを感じたよ。」

「適応能力…か。」

「普通、適応能力ってのは裏の世界に行ったときにしか発現しないらしいんだが…。」

 トモは常に親友達と一緒に居り、また能力を近くで使われていたため、疑似的な裏世界にいたと体が認識・適応したらしい。

「最初の違和感は折れてた脚の痛みが消えたことさぁ。最初はもう死ぬんだと思ったがね。」

 トモの適応能力は「遺伝子操作いでんしそうさ」。自分だけではなく世界中全ての生物・物質の性質を、世界のことわりを捻じ曲げる最強の力。すべての不可能を可能にする()()は最強に相応ふさわしい。その能力の一端により、自分の身体を不死にしたトモは何かを考える間もなく、怨嗟えんさと本能のままに、犯人達を皆殺しにした。最後の1人の心臓を握り潰した音で正気を取り戻し、目の前に広がる悲惨ひさん惨状さんじょうを最後に瞳に写し、トモは気を失った。

「自分に能力が発現するなんざ、考えてなかったからな…。俺は3年後に初めて行く予定だったし…。気づいたときには、病室のベッドの上。表の世界のな。その時には、俺の黒髪は鮮やかな紫色に染まってた。」

「髪が染まった原因は?」

「そんときの医者によればショックによるもんだと。目の前でダチを殺されたのがトリガーになったんだと思ってる。」

 リアルの友達も居ないトモは一人ぼっちになり、そして、この世界で、親友達が誰も居ない世界では自分は生きていけないと悟ったのだ。たとえ裏の世界であっても生きていけないと結論を出した12歳の少年は家の近くにある線路に飛び出し、自らの命を絶った。勿論、不死力は切っていた。そのまま死ぬ予定だったため、ガラスの破片が左眼に大きなキズを作ったことなど、気に留めていなかった。

「今はここまでしか言えねえな。」

「いや、何で助かったのかくらいまでは言っていいだろ…!なんでそんな中途半端なところで終わるんだよ…。」

「俺の痛覚のあるあの姿は俺がまだ「人間」であることを実感するためのもんさ。俺の姿が2つある理由がこれさ、納得出来たか?」

「うーむ…。いろいろと不満は残るが、一先ずはな。いつかは話してくれるんだろうな?」

「それは、約束する。っと、俺はこの辺りでおいとまするわ。酒代さかだいと時間料金は俺が払ってっからそいつらが自分で起きるまで寝かしといてやれよ。2人ともいい笑顔で寝てっしな。」

「分かった、感謝する。」

 トモは個室のドアを開けて出ていこうとするが、1つ思い出したように振り向いた。

「1つ言っとくぜ。さっきのハイジャック犯みたいな悪い奴らはまだこの世界に蔓延はびこってる。だからよ…、俺の二の舞にだけはならないでくれ。もし、そんなことが起こりそうだったら迷わず俺を頼ってくれて構わない。」

 キョウジはしっかりとうなづく。

「じゃあな、また会おうぜ。」

 トモは静かにドアを閉め、出て行った。

「もう喋っていいぜ。いつから起きてた?」

「頭を撫でられたときくらいから。優しく撫でられてたからリラックスはできたけど。」

 マユはテツヒロを起こさないようにそっと体を起こした。

まさしく「人に歴史あり」ね。結構けっこう残酷ざんこくな話だったけど。テツヒロが起きてたら吐いちゃってたかもしれないわ。」

「今度は俺が寝る。少し喋り疲れたんでな。テツが起きたら起こしてくれや。」

 今度はキョウジが腕を組み、そのまま眠りに落ちてしまった。相当疲れていたらしく、直ぐに寝息が聞こえてきた。マユは大きく背伸びをする。

「私も寝落ちしそう…。まあ気配で起きること出来るだろうし大丈夫かな…。」

 結局、マユはそのまままた寝落ちしてしまった。3人が起きたのはそこから数時間後だった。

①とあるようにトモの回想はあと2回くらいに分けて書く予定です。

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