第1話 裏世界への招待
第1話です。
思っていたよりも自分の大学の受講数が少なかったため、案外、早めに書き終わりました。
ただ、これから忙しくなるだろうと思っているので、投稿頻度はバラつくだろうと予想しています。
「う……?」
テツヒロは目を覚ました。仰向けの状態からゆっくりと身体を起こし、頭の中で状況を整理した。
「た…確か、飛行機が墜落したんだよな…。で、紫髪のやつが俺達を眠らせて…。ん?あれ?じゃあ此処何処だ?天国…って訳じゃ無さそうだよな…。身体の感覚もちゃんとあるし。」
テツヒロは、この時初めて辺りを見回した。そして、自分の状況も理解した。テツヒロが居たのは、病院だった。一部屋に6人ずつだろうか、医療用ベッドが等間隔に並べられており、クラスメイト達が寝息を立てていた。彼等の顔にはガーゼが貼ってあり、テツヒロの身体にも包帯が至るところに巻かれていた。テツヒロの脚は怪我をしていなかったらしく、包帯が巻かれていなかったので、彼は立ち上がり、窓から外の景色を眺めた。そこで、彼は驚愕することになった。目の前に広がっていた光景に。
「な…な…なんだこれ!?」
目の前には、高層ビルや飛行場、その他様々な施設が並んでいた。テツヒロが一番驚いたのは、大空を羽ばたいていた真っ黒い龍だった。竜ではなく龍。細長い体に大きな羽を持ち、空を飛ぶ人の形をしたナニかと戦っていた。テツヒロは我慢できなくなり、急いで部屋から飛び出した。
「あ…!ちょっ…ちょっと待っ……!」
病院の入口付近で、テツヒロは誰かに声を掛けられた気がしたが、気にせず病院の外へと駆け出した。
「すげぇ…何処だよここ…。」
商店街のような場所に辿り着いたテツヒロは店頭に並べてある商品を見ながら歩き続けた。店頭には西瓜やバナナ、葡萄などの四季折々の果実や新鮮な魚介類、肉、野菜は勿論のことだが、刀や銃、ナイフ等の武器まで並んでいたことに彼は疑念を抱いた。
(刀に銃って…!普通に銃刀法違反だろ…!?何を考えているんだ…?本当に此処は、日本なのか?)
聞こえてくる言葉が日本語ばかりのため分からなかったが、此処は日本ではないのかもしれない。下を向いて考えていたテツヒロは目の前の巨大な物体にぶつかり、尻餅をついた。
「うわわっ…!?」
「ん…?どうした、坊主。迷子かぁ?」
頭の上からかけられた言葉に答えようと、自分は迷子ではないと言おうと頭を上げた瞬間、テツヒロは目を見開き、口を引き吊らせた。そこには、体長3メートルはあるであろう、洋服を着た巨大な二足歩行をした蜥蜴が彼を見下ろしていた。薄緑の肌にスベスベとした鱗が目立ち、口からは赤い舌がチロチロと出ている。
「あ…あ……あ………。」
「どうした、見かけない顔…、ああ、坊主がそうか。」
「え?俺が…なん…僕が何でしょうか…?」
テツヒロは情けなくも腰が抜けて立てなくなっていた。脚が恐怖で震え、立ちたくても立てないのである。巨大蜥蜴はテツヒロに追い討ちをかけるように彼に手を伸ばした。手も巨大で、身長178センチあるテツヒロでさえ、握り潰してしまうほどの大きさであった。テツヒロを掴んだまま、蜥蜴は腕を大きく振り上げ、自分の肩に彼を座らせた。
「ん?どうして…?」
「フクグチテツヒロ、だろ…?お前達のことは、俺達の「英雄」から聞いている。なんでも、飛行機事故に巻き込まれちまったらしいなぁ。気の毒に。自分達が生きてて不思議だろう。」
「お…僕達のこと知ら…お知り…知る…知っていらっしゃるんですか…?」
「わざわざ慣れない敬語を使わなくていい。此処は、全員が平等だ。敬語を使う必要は無い。」
テツヒロは頭の整理をうまくすることが出来ず、混乱していた。そんな中、二人の状況に気づいた食料品店のおばちゃんが蜥蜴を叱責した。
「コラッ!ベイル!弱い者いじめしてるんじゃないだろうねっ!今すぐその子を下ろしてやりなっ!」
「あん…?婆さん、違うわっ!俺は弱い者いじめなんか柄じゃねぇんだよっ!スマンな、坊主。少し人気の無いところに行こう。ここじゃあ、ちと話しづらいんでな。」
「うぇっ…!?ちょっ待って…心の準備がぁ…!」
「ベイル!待ちなぁっ!」
「待てと言われて待つ馬鹿蜥蜴は居ないだろ!」
ベイルと呼ばれた蜥蜴はテツヒロが振り落とされないように身体に片手を添えて走り出した。体が大きいので速度は無いが、一歩一歩の歩幅が大きいため、ドスドスと大きな音を立て、砂ぼこりをあげておばちゃんを振り切った。おばちゃんは暫くベイルの足跡を辿っていたが、建物を越えたのか、途中でぷっつりと足跡が消えていた。おばちゃんは暫く辺りを見回したが、見つかることはなく、諦めて自分の店へと戻っていった。
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…はぁっ…スマンな…坊主…。本当に…。」
「い、いえ、お…僕はずっと貴方の肩に乗ってましたし…。大丈夫ですか…?」
「はははっ…俺はスタミナが無いんだよっ…。あの婆さん、早とちりしやがって…。」
ベイルは暫く息を整えてからテツヒロをゆっくりと地面に下ろした。テツヒロはベイルに向き直り、ベイルは尾を座布団のようにして胡坐をかいた。ベイルはまだ肩で息をしており、苦しそうである。
「一先ず、自己紹介だ。俺はベイル。こことは別の世界にある「ベルソアイナ王国」出身、65歳だ。種族名は蜥蜴族。まあ、そのまんまだな。年齢は人間に換算すると…22歳程度…だな。ここのことでも俺のことでも何でもいいが、質問は?」
「有り過ぎるくらいに…教えてくれるんですか?」
テツヒロは、頭の中で漸く整理をすることが出来た。だが、勿論、疑問は沢山ある。
「それじゃあ……。」
テツヒロはベイルに自分の心の中で纏めた疑問を少し戸惑いながらも打ち明け始めた。
少し、時間を遡る。テツヒロが病室を飛び出していった5分後、マユも目を覚ました。彼女は周りを見渡し、他の人間が目を覚ましていない、誰も居ないことを確認。病室のドアを静かに開け、また、静かに閉めた。談話室にある椅子に座り、もう一度周りに人が居ないか確かめた。確認し終わった後、マユは両拳を天井に突き上げた。
「やったやったやったぁー!ここが噂に聞いた「裏の世界」ね!本当に色んな世界から人が集まっているのね。まさか、自分が死んだことにならないと入れないとは思わなかったけど…。」
「フフフフフ…、もうこの世界を理解しているのね…。ここに来た者は皆、最初は戸惑うというのに!素晴らしいわ!オウドマユ!」
「ひゃっ…!?」
マユは急に抱きつかれた。びっくりしたマユは、反射的に相手の左腕を掴んで捻り、背中側に回った。だが、相手の腕も身体も急に液状化し、マユは勢いを止められず、机に激突した。
「きゃああっ!」
「急に抱きついて悪かったわよ、そう怖い顔しないの、オウドマユ。そんな顔してるとシワだらけになっちゃうわよ?」
「…余計なお世話です!っていうか、後ろから抱きつかれたら反射的に相手を無力化・迎撃するよう私は道場で教わってたんです!私のことを調べているのなら、その辺りも知っているんじゃないんですか?それと、フルネーム呼びを続けないでください。なんか、鬱陶しいです。」
マユは抱きついてきた相手を睨み続けていた。何をしたか分からなかったが、裏の世界に「能力」の概念があることを知っている彼女は次は逃がさないよう、その瞬間を狙っていた。その目は獲物を狙う猛獣のようだった。だが、相手も負けてはいない。鋭い目でマユを睨み返し、隙を見せる様子は無かった。その様子に見かねたのか、今まで気配を消し、無言を貫いていた第3者が、パチパチと手を鳴らした。
「はいはい、もう終わりなさい。マユちゃんの実力、分かったでしょ、いずみん。彼女は十分強いわ。貴女、誰からその負けず嫌いな性格受け継いだのよ…。」
マユは驚いた。周りに気を張っていた筈なのに気づかなかったその女に。いずみんと呼ばれた少女は直ぐに警戒を解いた。
「負けず嫌いでは無いわ、凍飛ちゃん!ただ、また誰かに今の地位を奪われるのが嫌で…。」
「それを負けず嫌いって言うのよね…。と・に・か・く!もう終わりなさい!無駄に怪我人を増やすんじゃないわ!」
青髪の女の一喝でその場は静まった。青髪の女、冷座凍飛はマユの頭を撫でた。マユは警戒もせず、されるがままにしていた。
「本当にごめんね。あの少女、薪都泉は、いい少女なんだけど…。人に張り合うばかりで…。」
「と、凍飛ちゃん…その辺にしてあげて…。」
マユは首を傾げた。ただ、頭を撫でられているだけなので、不快感は感じていなかったのだ。だが、イズミがマユの手足を指差していたため、不思議に思い、マユは自分の手足を見下ろした。
「え…?ええええええっ!?」
マユの手足は凍りついていた。凍飛の手から発される冷気によって。氷はマユの足を地面に貼りつけており、身動きが取れなくなっていた。
「なっ…!?ちょっ…嘘…でしょ…!?体が…凍りついてる!?」
「マユちゃんは、私には勝てないみたい。殺気を漏らさずとも、私に人は殺せるのよ。それも、無差別にね。私の能力は「氷」。氷を扱うことにおいて、私に敵う人間は世界全体に三人しか居ないのよ…。」
「三人…は居るんですか…。」
「居るのよ、居ちゃうの。仕方ないことなのだけれど…。」
マユは能力の説明を受けた後、氷の拘束から解放してもらった。トウヒの悪戯はいつものことらしく、イズミが肩を竦めていた。
「っ……!凍傷になりかけてたっ…!痛い痛い痛い痛いっ…!」
マユの手足は動かなくなっていた。トウヒとイズミはさあっと青くなり、慌ててマユを風呂場へと連れていき、3人仲良く湯船に浸かった。彼女の手足はジンジンと痺れるような感覚が走り、やがて落ち着いたように深い溜め息をついた。
「はぁ……!」
「お?落ち着いた?ごめんごめん、そこまでするつもりはなかったのだけれど…。」
「私よりもやらかしてるじゃない…。でも、後遺症は残らないと思うから大丈夫よ。」
「ところでなんですけど…、お二人ってお湯に浸かっても大丈夫なんですか?凍飛さんは氷だし、泉さんは液状化するから危険なんじゃないかなって思ったんですけど…。」
「私達は「能力発動系」だから大丈夫よ。凍飛ちゃんは若干危ないって聞いているけれど…。」
「ぱわーらっしゅ?ですか?」
「能力には3種類あるのよ。私やいずみんのような「能力発動系」、稀に出現する「能力反射系」、能力を封じる「能力封印系」。一番多いのは「発動系」ね。能力保持者の8割を占めているわ。」
「凍飛ちゃん、例外を忘れているわ。本人の意識がある間常に発動し続ける「常時発動系」もあるわ。マイナーだけどね。」
マユはその後もトウヒとイズミの二人に能力について話を聞き続けた。最終的に3人は逆上せて談話室で数時間死んでしまうことになるのだが、それは別のお話。
テツヒロやマユ達が居る裏世界最大の都市、また人族が治めている都市である「ダート王国」。そこから北に50キロ離れたところにある急斜面が目立つ山岳地帯、「ディレオット山岳地帯」。その中でも極端に標高が高い裏世界最大の山「ディルレット山」。その頂上に立つ黒く禍々しい城の中、腰に日本刀を提げた水色髪の青年が城の廊下を歩いていた。サラサラとした髪は流水のように城のランプでキラキラと照らされ、何処かの王子様のような服を着たイケメンだった。青年は城の階段を降り、地下に行った。地下には粉々に砕かれた岩や噛み千切られたように歯形がついた大木が転がっており、渦を巻くように置かれたそれらの中心に紫髪の少年、虎根友がいた。
「暫くぶりだね、兄者。パーティーに出られなくて申し訳なかったよ。」
「パーティーなら俺も出てない。仕事を増やされてたからな。」
「ああ、例の少年少女達か。もう凍飛さん達が意気投合しちゃったみたいだよ。」
「達?あと誰だよ?凍飛とそんな絡みがあるやつなんて居たっけ?」
「薪都泉。「液上体」だよ。」
名前を聞いた途端、トモはずっこけた。
「いずみんかよっ!何でだ!?いずみん、凍飛に地位を奪われたからって憎んでるんじゃなかったのかよ!」
「知らないよ…。そんなこと、知る筈がないだろう。今度の能力保持者全員強制参加で序列決めの能力闘技会のために弱点調査でもしてるんじゃないか?というか、強制参加だから勿論兄者も参加するんだろう?」
「本当は嫌だけどな。俺が出たくないの分かってて運営は強制参加にしたんだろうし。ってか、今度のって言ったが、あれ、まだ2年あるだろ…?」
「アッハッハッハッ!」
「笑うなっ!何高らかに笑ってるんだよ!第一お前、まだ俺のことを兄者呼びするのか…、年齢はお前が上だぞ。」
「フフフ…、自分の心に聞いてみたら?」
青年の笑い声は暫くの間、城に響き渡った。笑い声が止んだ後、城付近では地震が幾度となく起こり、城付近にいる全ての生物が恐れ戦いた。地震の正体が地下にいた二人の義兄弟喧嘩だと理解した生物はいるのだろうか、いや、いないだろう。
友が他人を呼ぶときだけ、ルビは平仮名にしてあります。ミスではないので、ご了承ください。
プロローグよりも短いのはいけないと
思ってしまい、長くなりました。
正直、飽きっぽい性格なため、
自分から投稿し出すと思わなかったと
知り合いから暴露されました…。