第15話 問題児
なんかだいぶ久しぶりな気がする…。
『NOKOり6人だぜ!KOKOからは俺様からSYО介するぜ!』
DJマグナムがトウヒから資料を受け取り、ノリノリで読み始める。
『綺麗な薔薇にはTOげ(棘)がある…。綺麗な魚にゃDOく(毒)がある…!紫いRO(色)の人GYO(人魚)にゃMODOく(猛毒)がある!チームNO姉GO肌(姉御肌)!ルールー・スプリング!序列は30位!』
半分透けた鰭に紫色のしまが目立つ女人魚。腰まで伸びた青い髪が特徴的で人間部分である腕には半透明の鰭がヒラヒラとはためいていた。
『お次は双GO(双子)だ!世にも珍しき全く同じ能力を得た人間!「双子」で同じ人間が2人いる幻覚のYOなKYO怖(恐怖)!タック&シャチョーモ・シーモ姉妹!序列は63位と64位!』
モニターには腕を組んでまるで鏡写しのようになった2人が映っていた。右目が水色、左目がオレンジ色になった2人は見た感じどっちがどっちか分からなかった。
「イズミ、あの2人の見分け方ってあるのか?」
思わず、キョウジはイズミに尋ねた。イズミは若干困ったように頭を掻きながら答えた。
「え~っとねぇ…、部屋が違うのに服が毎回揃うとかアクセサリーが被るとか言われてるから、そこでは見分けつかなくて…。後ろ髪に一筋水色のメッシュがあるのは…。あ、2人共一緒か!?」
「いや、分からないなら大丈夫だが…。」
「待って…!思い出した、思い出した。姉のタックは髪が右側に多く流れていて、妹のシャチョーモは左側に多く流れてるんじゃなかったかな?で、妹は前歯が一本欠けてたと…思う。」
キョウジは改めてモニターを見直す。確かに分け目が逆になっており、左側に髪が流れている方は笑った白い歯が少し欠けている…ように見える。
「戦ってる最中は更に分からなくなりそうだな…。」
「それがあの2人の戦略だからね。あの2人の連携攻撃が厄介だよ、もし、敵対したら気をつけて。」
「ああ。」
『さぁ、ここからは…!男幹部3人衆だよ~!!!』
トウヒはマグナムから資料を奪い取り、高らかに宣言する。
『トウヒ!?まだ俺様のターン…。』
『知らない知らない!さあ、行くよ!』
『OH…。』
会場のライトがすべて消え、スポットライトすら、モニターに注がれる。
『ステゴサウルスの竜神族であり、このチームの武器職人!生物の志を剣に宿し、何を斬る!?御滴唐矢!現在の序列は70位!』
モニターにはテツヒロ達が「恐竜の森」で出会った着物姿の少年が映っていた。
「あの子もチームに入ってたのか…!」
「あら?知ってるの?」
キョウジが思わず呟くと、イズミが反応した。
「ここに来る前にちっと恐竜の森ってとこに行ったときにな。」
「あらら、街での目撃情報がやけに少ないと思ったらそんなところで…。日向ぼっこでもしてたのかしら?」
「日向ぼっこ?あんな危ないところにか?」
「あの子にとっては危なくなんてないわよ。寧ろ、日向ぼっこの後に軽い運動が出来るいい修行場程度に思ってそうなものだけど。」
「まあ、元表の人間の見解だからな…。一つ気になったんだが、このチームには表の人間は居ないのか?」
イズミは腕を組み、少し考える仕草をしたが、直ぐにキョウジに答えた。
「幹部が異種族ばっかりだからね、下っ端になら居るかもしれないけど…。」
「そうか…。」
「ん?どうしたの?知り合い探し?」
キョウジはイズミに手招きをし、誰にも聞こえないようにそっと耳打ちした。
「いやほら、テツに関係することなんだが…。例の飛行機事故で7人、その内の1人があいつの親友だったからあわよくば俺達みたいに助けられてこっちに来てないかと思ってな。」
「ふーん、テツ君のね…。いつ頃だって言ったっけ?」
イズミの「テツ君」に若干の違和感を覚えながらも自分の記憶を探るキョウジ。
(あれ?さっきからその呼び方だったか?まあいい。今はそんなことより…。)
「小6の時の話だから…、大体6年前の夏休みだ。」
そう伝えると、イズミの動きがピタッと硬直した。目をキョロキョロさせながら何かを呟いている。
「ど、どうした?何か心当たりでもあるのか?」
流石に不審に思ったキョウジはイズミに尋ねる。
「いや、リーダー…、つまり虎根友が裏に現れたのも丁度その時期だなぁって思っちゃって…。」
「何!?」
ひそひそと話をしていたことも忘れ、思わず大声を出す。勿論、その声はテツヒロに聞こえていた。
「きょーさんどうした??何か問題でもあったか??」
「いや、こっちの話だ、すまねえ、気にしないでいい。」
モニターを見ていたメンバーには会話の内容が聞こえていなかったようで、ほっと胸を撫で下ろした。勿論、そんな会話の内容を…後ろからこっそり聞いていた人物がいた。名前は内尾康太。能力名「暗殺」を扱う内尾兄弟の双子の弟だ。因みに、この2人はシーモ姉妹のように何もかもがそっくりとかそんなことはなく、半年も一緒に居れば声のトーンや利き腕などで簡単に判別が出来る(コウタは右利き)。「暗殺」はどんな武器でも亜空間にしまい込むことが出来る能力だが、「暗殺」の名の通り、自らの気配を消すことも出来る。その力を使い、イズミとキョウジの2人の会話を盗み聞きしていたのだ。
(目の前でひそひそと会話をされ始めるこっちの身にもなれっての全く…。バラすつもりは更々ないけどな。)
話を聞かれていることも知らずに会話を続ける2人。
「トモの他に人は居たのか!?」
「いや…、それが…。」
イズミの話によれば、トモが裏に来た時にはイズミはまだチームには参加していなかったとのこと。詳しい話はチームが設立されたときから参加していた、現在モニターに映っているトウヒがすべてを知っている…らしい。
「これが終わったら聞きに行くかぁ…。」
「あ、そういえば…。」
イズミが思い出したようにキョウジの方を振り向いた。
「私達、七人の天災のメンバー、リーダー以外顔も名前も知らないや。」
「知らない?」
「うん。名前も公開されてないし、私達のチームに所属しているっては言われてるけど何処行っても見当たらないんだよね。」
「単純に見逃してるだけじゃないのか?」
イズミは直ぐに首を振る。
「流石に会ったことない人がいたら分かるよ…。」
呆れて苦笑いをするイズミ。勿論、その間もモニターの映像は止まることなく、映され続けていた。
『さあ!残り2人です!魔蟲族の希少種!見た目は普通の人族!しかし、その本性はすべてを貪り喰らう昆虫界のブラックホール!女王ならぬ帝王!グンタイアリのクレイリー・ウーバー!序列は25位!』
眼鏡をかけた璃々しい青年がモニターに映し出された。濃い青髪の青年の右腕には数えきれないほどの小さい生物が纏わりついていた。恐らくはあれがグンタイアリである。虫が苦手な数人の女子達は鳥肌を立て、震え上がった。
「やっぱり…!」
ボソッと呟いたノアの声にアユミが反応し、コクコクと頷いた。勿論、彼女達には最後のメンバーが誰かなんて想像することは容易い。
『さあ!最後だよ~!』
その言葉に会場は何かが爆発でもしたかのように揺れ、歓声に包まれる。マグナムはもう諦めたのか、自分の仕事を奪われたことにショックを受けているのか、会場を静かにさせようとはせず、実況席の端の方で羨ましそうに魂の抜けた目でトウヒを見つめていた。
『向日葵畑一番の問題児!新人潰しとも呼ばれるその行動の真意は未だ掴めず!すべてを噛み砕くその牙の餌食となるのは一体誰なのかっ!神喰らいの力が牙を剥く!魔族の逸れ者、エルドラ・ブラック!現在の序列は58位!』
会場のモニターが切り替わった瞬間、会場には悲鳴と歓声が轟いた。紫色の髪に黒く禍々しい甲冑、彼の身長程もある大きいの程度を遥かに超え、髑髏のレリーフがついた巨大鎌。背中からは魔族の象徴ともいえる真っ黒に塗り潰されたかのような羽。白い牙を覗かせ、獲物を選ぶ猛獣かのように笑う、『怪物』が映し出されていたのだ。卑しそうに微笑む『怪物』の画像の眼とテツヒロの目が合ったとき、動くはずのない画像が口角を上げたように見えたのだ。まるで獲物を見定めたのように。
「マユ。」
「ん?どしたの?」
テツヒロは考える間もなく、口が動いていた。
「エルドラ・ブラックは俺一人で戦いたい。」
その言葉に敏感に反応したのは3人。エルドラの恐怖を知っているノアとアユミ。そして、イズミだった。
「テツ、それは駄目。」
「テツ君、やめて!」
「テツ君、やめとこう?」
3人が発した言葉に共通する意志は1つ。「やめる」という意志、1人だけでは絶対に無理だという意志であった。
「「喰う」とか言っても人肉を貪り尽くすイカれた奴が本当にいるわけないだろ?大丈夫だって。」
何故か楽観的に話すテツヒロに反発する3人。その中でもノアの様子がおかしかった。
「テツ、絶対ダメ。触らぬ神に祟りなしって言うでしょ?同じことよ。エルドラには手を出したらいけない。」
珍しく狼狽する彼女にマユはここぞとばかりに煽りをかました。
「あっれれ~、おかしいな~。いつもはあんなに偉そうにしてるのに?もしかしてビビっちゃった?」
「その場にいなかった人間にどうこう言われる筋合いはないわ!このことに関しては黙って聞いてなさい!」
あまりの剣幕に怯み、思わず黙ってしまうマユ。そこへイズミからもダメ出しが入った。
「今回のことはノアちゃんに賛成よ。一先ず皆落ち着いて。私の話を聞いて。ね?」
その頃、会場の方ではしょげ込んだマグナムをトウヒが慰める様子が映り、『しばらくお待ちください。』という画面に切り替わった。その画面を確認したイズミはゆっくりとエルドラについて、知っている情報を明かした。
~同時刻、向日葵畑のギルドホームにて~
トウヤ、クレイリー、エルドラの3人は誰もいない酒場にて、自身のキープボトルから1本選び、酒盛りをしていた。勿論、只の酒盛りではない。これから始まる戦いの作戦会議だ。
「エル兄、それ、スピリタスだろ?戦闘前に飲んで大丈夫か?」
「大丈夫だって。俺が人喰い上戸だって知ってるだろ?何より、何か腹に入ってないと落ち着かないんだよ。」
「大聖堂の瓦礫を非常用で拾っておいた方が良かったんじゃ…。まあ、もう事後だから意味ないけど。」
正直、楽しそうである。そんな3人のいる酒場のドアをコンコンとノックした後、少し開けた隙間からひょこっと顔を出して、手招きをしながら3人を呼びにきた少女がいた。シーモ姉妹の姉、タックであった。
「お楽しみのところ、ごっめ~ん!ヒマ姉がそろそろ出るかも~って会場から連絡があってさ。悪いけど会議室来れる?」
「うい、了解っと。」
「エル兄、お酒はそこまでにしておいてください。あとでキャンディー渡すので。」
「チッ、わあったよ…、と~やん。」
酒場の階段を上りながらボソッと呟いた言葉をメンバーの誰も気づくことはなかった。
「今回は…、喰う気失せそうだ…。」
??「次は俺達の番かぜ?」
そうですよ~、頑張って!