第13話 チームとして
前回投稿から1か月…!
お待たせして申し訳ない!
~テツヒロが帰ってくる数十分前~
テツヒロがチンピラに絡まれているとはつゆ知らず、マユ達は、テツヒロがリーダーになった際に必要になってくる重要書類を熟読し、これからの活動のための準備を進めていた。分からないことがあれば、お目付け役であるイズミに説明を求めていた。マユはあることについてイズミの執務室を訪れていた。
「いずみん、居る?ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
イズミは引き戸を開けて、笑顔で対応する。
「お、質問タイム?いいよいいよ~、ほら、部屋に入りなさい~。」
マユはイズミに言われるがまま、部屋に案内され、ソファーに腰掛ける。その間に、イズミはお茶菓子と紅茶まで用意し、向かい合うように腰掛け、笑いかけながらマユと視線を合わせる。
「さて?一体何が聞きたいのかな?マユユン!」
「マユユン」と呼ばれ、若干苦笑いをしたマユだったが、直ぐに切り替えて持っていた資料を机の上に広げた。
「これは…。これから敵となり得るであろうライバル達の能力などの情報じゃないの。これがどうかしたの?」
「ここのことなんだけどさぁ…。」
マユが指差したのは、ライバル達の技の説明欄のところだった。
「この…「蒼環剣『隼』」とか…「竜爪拳 流撃 付与獄炎 星群奈落」とか…。カッコいいけど…。こういうのって私達も作らなきゃダメ?」
要するに、「こんな厨二病みたいな名前を考えてもいいのか」という意味である。資料を見ていたイズミはちらりとマユに目を向けると、カチコチと強張ったマユの顔があった。それを見てしまったイズミは、口許を押さえて笑いを堪え、震えるお腹を押さえながら、マユに話しかけた。
「私達が技名を考える理由は2つあるの。1つ目は、その技が決まった時、清々(すがすが)しく、気持ちいい気分になれるからよ。その技の特性を…自分の能力を生かして技を当てた時って、本当に気持ちよくってね…ってここに来たばかりの新人達が共感出来るまではしばらく時間かかるような気もするんだけどね。」
小首を傾げ、マユに向けてウインクをするイズミに対して、マユは軽く微笑み、一言ボソッと呟いた。
「共感…出来ますよ。」
「え?」
「私は親から拳法の型を習い、それを独学で自分の型に変えて今まで生きてきたんです。昔、仲の良かった1つ上の先輩とも勝負してましたけどね。」
「親」「先輩」と言ったマユの瞳は潤み、一筋の雫が頬を伝っていた。自分を育ててくれた親や友達のことを思い出したのだろう。
「貴女が強くなれば…、また会えるかもしれないわね。」
「え…?会え…るって…。」
「序列が上がれば、表の世界に行くことを許可されるのよ。今現在で許可されているのは序列25位までの者よ。種族が人族であろうとなかろうとそれは許可されているの。あとは、ここでの処罰「流縛の刑」っていうのがあるわね。」
「あはは、刑罰で表に戻りたくはないわね。」
「そう、だから、強くなりなさい。序列最上位には「七人の天災」と呼ばれるこの裏の災害とも言われる猛者が集まっているから至難の業、だけどね。」
マユの涙が引き、笑うことが出来るようになったのを確認したイズミは話の続きをし出した。
「2つ目の理由は…、自分専用の技を示すことが出来るからよ。」
「自分の…技を示す…!」
自分の言葉を反復するマユの言葉に合わせて、イズミは相槌を打つ。
「そうよ、自分の能力だからこそ出来る技、自分の技術力があるからこそ使える技…。それに自分の個性を付け加えるの。」
「なんでだろ…、いずみんに聞いた私がなんか…、惨めに思えてきたというか…?」
「なんでなの!?」
机を両手で思い切り叩いて立ち上がるイズミ、それを見て部屋に入ってきたときよりも苦笑いを深くするマユ。2人がわちゃわちゃしているその場に終止符を打つように部屋の戸をノックし、「失礼しま~す!」と言いながら入ってきたのは、キョウジだった。
「あら、キョウジ君じゃない、どうしたの?」
「私には「マユユン」できょーさんには「キョウジ君」かぁ…。一番最初に言葉を交わしたのが私だったとはいえ、なんか壁を感じるんだよなぁ…。」
マユは、イズミが実はこの状況を楽しんでいて、その真っ最中に邪魔が入ったのを恨めしく思っているのではないか、と考えていたのだ。その予想は強ち間違いではなく、イズミは一瞬、キョウジに対して不満を抱いたが、八つ当たり甚だしいと思い立ち、直ぐに切り替えたのだった。
「邪魔して悪い、仲良くガールズトークしてたとこ、誠にすまなんだ。」
(やっぱりきょーさんもその空気を察してたよなぁ…。)
キョウジの即座の謝罪に対して思わず心の声で本音を漏らすマユ。それと同時に見抜かれていたことに驚いたのか、イズミが肩をビクッとさせていた。
(いずみん、図星なんだ…。)
「本題だが、テツヒロが帰ってきたぞ。」
きょとんとするマユとイズミ。マユがふと時計を確認すると時刻は11時23分。話し始めてから20分強も経っていたのだ。ようやく、自分達の状況を把握した2人は、ゆっくりと立ち上がり、凄い速さで玄関まで駆け抜けていった。
「やれやれ、慌てすぎだろ。そんなドタバタすることでも…、いや、あるのか。」
イズミの執務室を出ようとキョウジはマユが持ってきた資料を纏め、手に持った。そして、ふとその内の1枚を読んでしまった。
「ん?技…の名前…か。」
1人で廊下を歩いていく彼の口から、ぼそりと言葉が漏れた。
「かっけえなぁ…!」
テツヒロの目が変わり、迷いの無い目になったことを確認したイズミは、早速、今後のチームの活動について話を始めることにし、メンバー全員を会議室に呼び出し、資料をホワイトボードに貼り付けた。テツヒロの意志が固まったことに不信感を抱いた者もいたが、特に問題なく、話が進んでいく。その際も、テツヒロの瞳が迷いで濁ることはなかった。話も終盤に差し掛かったところで、テツヒロがスッと口を開いた。
「イズミさん、ちょっと待ってくれ。俺達は1つの「集団」なんだよな?」
「突然どうしたのかしら?ええ、そうよ、正確に言えば私は貴方達のチームに籍を置くだけで所属するわけではないけれど。」
テツヒロは会議室にある自分の席から立ちあがり、ホワイトボードの前に立った。
「チーム名…、外に出てから今まででずっと考えてた。」
イズミは少しテツヒロを見、誰にも分からないように少し口角を上げていたのを、マユとキョウジは見逃さなかった。
「チーム名決めの権限はリーダーにあるからね、私が最後に話そうとしたのもその話だし。それの話が終わったら私を呼んでね、執務室で資料を纏めてくるわ。」
イズミはそのまま会議室を出て行った。テツヒロは部屋を出て行くイズミに目もくれず、ホワイトボードの前で天井を仰ぎ、佇む。
(俺の…俺達全員の…共通する…『原点』…、俺達はほぼ全員が小学生から同じ学校で…、1人以外は…ずっと一緒だった。ずっと同じ…、ずっと一緒の街で、馬鹿やって、喧嘩して、大人達に怒られて…。道場も多かったからクラスに10人は何かしらの武道をやってた…。俺はそれほどでもなかったけど…、後輩達から俺達の学年は三巴町の「武闘派」って呼ばれてた…、なら、俺はその呼び名をここで使うべきだと思った。だから、俺達のチーム名は…。)
「俺達のチーム名は、「三つ巴の拳聖」です。」
テツヒロは、自分達のチーム名をホワイトボードに書き記し、メンバー全員に見せた。その瞬間、会議室からは爆発したような歓声と共に、テツヒロをマユ・キョウジ以外の人の波が押し潰した。
「おっも!ぐえ…!」
「いいじゃん、テツ!「三つ巴の拳聖」!かっけえじゃねえか!」
「テツ君、これから一緒に頑張ろ~!!!」
「いや…ちょっ…待っ…!」
テツヒロの声と姿はたくさんの人によって掻き消され、見えなくなった。おそらくあの人の山の中では、テツヒロがもみくちゃにされていることだろう。
「吹っ切れたようでよかったな、2人とも。」
キョウジは扉をガラリと開き、聞き耳を立てていたイズミを引っ張り出した。
「わぁ…!?」
マユはキョウジとイズミとのやり取りや人の塊に押し潰されていくテツヒロを眺めながら楽しそうに笑った。目から嬉しそうな輝きと一筋の涙を見せながら。
「マユユン、今日はよく涙を流すわね。」
「まあね、やっと幼馴染が日の目を浴びると言っても過言じゃないからね。ったくもう、あいつは自虐的なところがあるから…。」
「あいつは色んなことを知っていたからな。〇年×組の生徒が悩みがあるだの、町の何処で迷子がいるだの…。町中を一番飛び回ってたのはあいつだったからな。」
「自虐的になったのには理由ってあるの…?」
キョウジはイズミの方を頷く。
「あいつの勘は鋭いんだが…、一度その勘が働いて危険だと分かったのにそいつを引き留めることが出来なかったことがあってな。そいつは誕生日の日に海外に旅行に行くと他の町の友達と一緒に飛行機に乗ったんだが…。その飛行機がハイジャックにあって墜落してな…。その時の新聞を見た時のあいつの顔は一生忘れないだろうな。」
突然、絶望的な事実を突きつけられて半狂乱に陥ったテツヒロは小学6年生ながら一週間も行方不明になった。警察が見つけた場所は、飛行機が墜落した日の前日に会話を交わした丘で、頭から血を流して倒れていたという。病院に入院して2週間で退院はしたものの、さらに1か月、家に引き篭もっていた。学校に来始めたころには引き摺っていないように振る舞ってはいたが、人が居ないところで泣き叫び、壁を素手で殴っていたという場面を幾度か目撃されていた…らしい。勘がいいテツヒロなら気づいていてもおかしくない距離まで近づいた人間もいたようだが、詳細はもう分からない。
「俺達があいつをリーダーに薦めたのは自信を取り戻してほしかったからだ…。そいつのことを忘れろなんて馬鹿なことは言わん。が、そろそろ自由になってもいいんじゃないかと思った俺達の気持ちだ。「1人じゃない、俺達がいる…。」ということを伝えたかっただけなんだからな。」
イズミは扉を閉め、寄り掛かる。今度は誰にも聞こえないか細く、小さな声である英文を呟いた。
「『我が主君よ、これが貴方の願うこの世界の未来か』?」
イズミ「著者は英語が話せないのにこんな長文…、大丈夫かしら?」
勿論、翻訳使って調べてます…。