第10話 恐竜VS恐竜
豪雨等もあり、投稿が3週間空きました…(汗)。
~テツヒロサイド~
「まさかあのまま全員5時間もあの部屋の中で爆睡しちまうとは…。」
「ごめん…寝落ちした…。」
ノア達が借りている宿舎に帰っている5時半頃、テツヒロ達は町の外に出ていた。日は暮れ、地面をオレンジ色に照らしている。
「この辺り…よね?酒場のマスターさんが言っていたのって。」
3人はある目的のために町の外に居た。表には居ない珍しい生物がこの世界には暮らしているため、特に用事が無いのなら見てきたらどうだと言われたのである。3人は寝起きの運動がてら町の入り口にある巨大な門が小さく見える高原まで来ていた。
「マユ、地図見せてくれ…。うん、珍しい生物が出るのはこの辺り…の筈なんだけど…?」
「そもそも、生物がまったく居ないぞ、この辺り。」
3人は15分ほど、辺りを歩き回り探し続けたが、生物の痕跡すら見つけることが出来なかった。
「何にも居ない!ただの原っぱだよぉ…。」
「毎日生物が居ないってことはねえだろうしな…。今日のところは帰ろうぜ、テツ。」
テツヒロは高原の一点を見つめて動かない。キョウジが不信に思い、近づいてみるとテツヒロは高原の真ん中近くにあった変わった形の岩を見つめていた。その岩は五角形の薄い板状のものが幾つも縦に連なっていた。
「あれが気になるのか。自然に出来たとは思えねえ形してるからか?」
「いや、それもそうなんだけど…。なんか…見覚えがあるんだよな…。あの形状…。」
「裏でか?それとも…。表…?だが、表に居ない生物なら…。」
「図鑑か何かで見たような気がするんだよな…。」
テツヒロは少しずつ前に進み、変わった形状の岩の傍まで来た。テツヒロが岩に触ってみると岩の下がもぞもぞ動いており、岩本体も少し温もりがあることに気づいた。
「この岩の真下に何か居る…!」
「岩の真下か。不思議なもんだな。こんなとこに隠れて…、敵となるような動物も周りに居ないのにな。」
「そうね、何のためにこんなところに居るのかしら。」
(グルルルル…)
「あ?テツ、腹減ったのか、じゃあ帰るか。」
「え?俺じゃねえぞ?マユじゃないのか?」
「そんなわけないでしょ!?まったく…。ん?あ……。」
2人の後ろに居たマユの顔が真っ青になっていくのを見て2人は困惑した。マユの視線は少し上を向いており、岩の向こう側を見ていた。2人はマユの向いている方を同じく向いた。
「へ?」「は?」
3人の視線の先には大きな口から涎を滴らせ、20センチはありそうな長い牙を晒した、体長8メートルはありそうな二足歩行の巨大な赤肌のトカゲが居た。
「ギャース!」
「「「うわああああああ!?」」」
3人は一目散にその場から駆け出した。トカゲも3人を追いかける。追いかけられつつ、3人とトカゲは森の中に入り込んでいく。
「ねえ!あれ…!」
「恐竜だろ!?人間ってか、能力持ってねえ俺らは逃げるしか…。」
「ちょっ…2人とも待って…!」
普段から喧嘩三昧の2人は兎も角、運動神経が2人と比べて悪いテツヒロは5メートルほど遅れていた。追い付かれてこそいないものの、酷く疲れてしまっていた。そして、彼は足元にあった木の根に足を取られ、地面に倒れ込む。
「うわっ…!」
「テツ!?」「テツヒロ!」
恐竜は直ぐ目の前に迫っていた。転んだときに木の根に足をぶつけていたらしく、彼の膝は痛々しい青色に染まっていた。
「ぐうう…!」
あまりの痛みに立ち上がることも出来ず、その場でうずくまり、テツヒロは悶え苦しむ。恐竜は立ち止まり、テツヒロに狙いを定めた。大きく口を開き、テツヒロを呑み込もうとしたその時、恐竜の真横から大きな影が飛び出し、テツヒロを呑み込もうとした恐竜を弾き飛ばした。その影は高原で見た板状の岩を背に生やした四足歩行の緑肌の恐竜であった。
「ステゴサウルス…!」
「ブオオオオッ!」
テツヒロがステゴサウルスと言ったその恐竜は、テツヒロを尻尾で器用に木の陰に寄せ、もう1匹の恐竜と向かい合った。2匹の間では暫く睨み合いが続いたが、痺れを切らした赤肌の恐竜がステゴサウルスに突っ込んでいった。ステゴサウルスの尻尾にはスパイクが左右に2対生えているため、尻尾を振り回して赤肌を牽制する。赤肌はそれを避けつつ、隙を狙う。そのやり取りを2匹がしているうちにマユとキョウジはテツヒロと合流した。ステゴはそれを確認すると強烈な体当たりで赤肌を思い切り突き飛ばした。赤肌は胴体を大木に強打し、そのまま倒れ込んだ。
「すげえな…、裏には恐竜が居るのか…!」
「てっちゃん、大丈夫?立てる?」
「手を貸してくれればなんとか…。てっちゃんってなんか久しぶりに呼ばれた気が…?」
「あ~、裏に来てから呼んだ記憶無いかも…。」
「テツ、マユ、一先ずここから離れよう。下手すりゃ巻き込まれる。」
キョウジは、ステゴが居る方向と真逆の方向を向いて顔を引き攣らせた。赤肌よりも一回り小さく足に赤肌の牙と同じくらいありそうなかぎ爪を光らせた黄肌の恐竜、5頭の群れが待ち構えていたからだ。
「マジかよ…!」
「多分…、ディノニクス…。あんな大きなかぎ爪を持っている恐竜を俺はそれ以外知らない…。」
「てっちゃん、あっちの赤いのは…?」
「牙が大きいからティラノサウルスだと思う…。」
すると、後ろの異変に気づいたステゴが周りの木々(きぎ)を薙ぎ倒しながら振り向き、ディノニクス達に威嚇の遠吠えをした。
「ブオオオオ!!!」
「ギー!ギー!」
甲高い声で威嚇をし返すディノニクス達。相手が怯まないことを察したステゴはその重たそうな巨体からは想像も出来ないくらいに高く飛び上がり、そのまま空中に留まったまま、高速回転をし始めた。
「へ?恐竜ってあんなことも出来るのか!?」
「そんなこと図鑑で見たことない!裏特有の生態なのか!?」
板状の部分は空気摩擦によって発火したのか、夕日と相まって辺りの景色を真っ赤に照らす。板状の部分すべてに炎が回るのを待っていたステゴはそのまま地面に落下し、着地と同時にディノニクス達に向かって加速した。急な攻撃に反応出来なかったディノニクス達は辺りの木々と共に焼かれながら切断された。1匹、難を逃れた個体がいたが、それ以外の個体は影も残さず消滅した。
「ギギギ…!」
焦ったように残ったディノニクスが呻く。その光景に見入っていた3人は後ろで急に起こった爆発音に驚いた。
「グオオオオオ…!」
ティラノが目を覚ましたのだ。まだふらついてはいるもののその眼はしっかりと背が燃えているステゴを捉えていた
「…。」
身体を大きく震わせ、背中で猛っていた炎を消したステゴは、後ろ足で立ち上がり、身体が小さくなり始めた。板状の部分は背中に収納されていき、真っ赤な着物を着た少年のフォルムが見えてきた。腰の左側には1本の日本刀を、右側には酒の入った瓢箪を提げ、短髪に切り揃えた蒼髪が映える。
「まだやるのか、知性の無いトカゲ共。」
そう言って腰から刀を抜く。
「僕に触れる権利すら与えないよ。「付与蒼炎」。」
少年が持っていた刀から蒼い炎が噴き出す。前にはディノニクス、後ろにはティラノ。その2匹に狙われつつ、蒼く染まった刀を構える。
「それも能力を持たない人間を狙うとは…。堕ちたものだね。所詮知性の無いトカゲ風情か、土妖精族に研いでもらったこの「蒼天の剣」の錆にしてやる。」
少年はディノニクスに向かって飛び出した。ディノニクスは空に飛び上がり、空から少年を狙う。更に後ろからティラノが突っ込んでくる。
「蒼環剣…、「隼」…。」
蒼い閃光と共に恐竜達はぶつ切りにされていた。刀を仕舞い、テツヒロ達の方に歩いてくる。恐竜達の返り血を間違いなく浴びていた筈なのに血で汚れているのは顔と手のみ。
「錆どころか…。斬り応えもない。態々(わざわざ)技を使う必要もなかったか。」
近づくにつれて、彼の顔は青く、黒く、染まっていく。
「あ…。えと…、その…、け、け、怪我…、だいじょぶ…?その…あの…う…。ここ…あ、危ない…よ…?ここ、恐竜の森…って呼ばれてるとこだから…。」
おどおどしながら、素早くテツヒロの怪我の応急処置を施した後、ペコペコと頭を下げながら、猛ダッシュで森の奥へと走り去ってしまった。
「あ、お礼言えなかった。」
帰り道、テツヒロはボソッと呟く。
「そういや…名前…聞いてなかったね。」
「ここは広いんだろ…。なら、また何処かで会えるだろ。」
そんな3人の後ろ姿を見守る1つの影。
「日向ぼっこしてたのにいきなり背中触られたらそりゃあ誰だって驚くよ…。」
そう言った瞬間、とんとんと背中を叩かれ、反射で刀を抜き、後ろへと斬りかかった。カキン!と高い音が鳴り、刀を弾き返された。返した人物は頭に三本の角があり、具合が悪そうに青い顔を通り越して白くなってしまっていた。
「ちょっと…。背中を軽く叩いただけじゃないの…。ただでさえ、具合悪いのに…、やめてよ…。」
「貴女の事情なんて知りませんよ…。こっちは一日中ここで日向ぼっこしてましたし?それに、タイミングが悪すぎるんですよ。平和さん。」
少年、いやステゴサウルスの竜神族である御滴唐矢。そして、その後ろに居たのは昼間、自身のギルドホームにて、ツキエルに嵌められ、自分が呑むことの出来ない酒を吐くまで呑まされ、命からがら抜け出してきた(今はタクミ、エルドラの2人がギルドホーム内の酒場で大食い競争をしている)竜神族の少女、希平和であった。
「ツキさんですか、あの人…天使も飽きないですね。どれだけ貴女で遊びたいんでしょうね。」
「で、今、ストレスが極限まで溜まってるからこれから付き合える?普通に酔い覚ましでご飯行きたいの!」
「貸しで奢ってあげますよ。これで貸し、5つ目ですけどね?」
2人は、3人が帰った後の道を談笑しながら帰っていく。
彼らも然り、次の日に起こる誰も…いや、ただ一人を除いて予想することなど出来ない。
「そろそろ全員の能力が発現する頃かな…。ったく、この「予知夢」、どうにかならんもんかね。序列の話も…。冗談じゃない…、俺は「世界最弱」だってんのに…!」
序列1位、歴代最強の男が動く…!
次回から「三つ巴の大戦編」始まります。