6 勇者、起つ
SIDE アーバイン
「新たな神託がありました」
僧侶のエルクが報告した。
勇者アーバインはピクリと片眉を上げる。
「二つの『闇』の決戦は近い……それらはいずれも『世界の敵』となるべき運命。よって、これらを討てと」
「二つの『闇』……?」
「おそらくは以前に戦った竜と、そして──」
「魔導王か」
アーバインが言った。
以前に戦った竜というのは、『暗黒竜王』の化身だろう。
「かの竜は魔導王の元へ向かうようですね」
「なら、俺たちも行こう」
アーバインが仲間たちに告げる。
「あの竜だけじゃなく魔導王も『世界の敵』として討伐許可が出たんだろう? この機にいずれも討つ──」
言いながら、先日の戦いを思い出す。
アーバインたちは暗黒竜王を前に、敗走しているのだ。
今まで神託に応じて『世界の敵』やその候補を倒し続けてきた彼らにとって、ここまで完全に敗れ去ったのは初めてのことだった。
「暗黒竜王と違って、魔導王は軍団よ。そう簡単にはいかないんじゃない?」
進言したのは魔法使いのマルグリットだ。
「へっ、怖気づいてんのかよ」
騎士のダリルが鼻を鳴らした。
「なっ……!? 誰が怖気づいてるのよ! あたしは現実的な話をしただけ!」
言い返すマルグリット。
それからアーバインの方をチラリと見た。
「だって……彼に万が一のことがあったら、と思うと心配じゃない。あ、誰かさんは別にどうでもいいけど」
「その誰かさんってのは誰のことだ」
「ダリ……別に誰とは言ってないじゃない」
「ダリまで言ってる時点で、俺しかありえねーだろ!?」
「まあまあ、二人とも」
喧嘩なのかじゃれ合っているのか判別しがたい二人の掛け合いに、アーバインは思わず苦笑した。
「確かに魔導王の軍団は脅威だ。魔導王自身が卓越した魔法使いだし、彼が作り出したモンスター軍団はいずれも強力だからね。たとえ一国の軍隊でも、攻略は難しいだろう。だけど──」
「勇者であるあなたなら、そして我々なら、可能性はあります」
と、エルクが続ける。
「ああ、そうだ」
うなずくアーバイン。
魔導王はすでにいくつもの国を侵略し、多大な被害を与えている。
だが、勇者パーティの超絶的な戦闘能力があれば、これを討つことは不可能ではない。
大軍での正面突破では打ち破るのは難しいかもしれないが、アーバインたちはまったく違う戦術──少数精鋭ならではの暗殺という手段が取れるからだ。
「暗黒竜王と魔導王、いずれも一筋縄じゃいかない強敵だ。だけど、俺は──この機を逃したくない」
神託は、状況に応じて刻々と変化する。
今は討伐命令が出ていても、しばらくすれば撤回される可能性だってある。
そして、勇者はその神託に応じて動かなければ、『勇者としての力』を発揮できない。
「力を貸してほしい」
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